163話「世界から期待される妖精王ナッセ!」
デフォルメされたような風貌の小さなマロハーは両手から魔法力を魔法陣に注いで、魔神塔の効力を阻んでいる。
そんな中で怪訝な顔で、トビーを見ていた。
「んん~~~~? ボクの顔になにか付いてますかぁ~~?」
視線に気付いたトビーは不気味な笑みでマロハーへ向いた。
《あ、あなたは一体……?》
「世間の嫌われ者の“白面の疫病神”トビーですよぉ~~。ヨロシクねぇ~~。ひぇひぇひぇ」
《なぜ、魔法力を補給して助けてくれるんですか?》
「……愛しのナッセ君が大会へ参加するからですよぉ~~! 優勝賞品としてアナタを用意したくてねぇ~~!」
《ナッセが!!?》
妙な四角い箱を片手に、トビーは体をくねらして愉悦に浸っている。
この場にはもう魔神デウスはいないとは言え、マロハーにとっては目の前のトビーは得体の知れない男に見えた。
「そう、ナッセ君ですよ! ナッセ君、ナッセ君、ナ~ッセ君!」
ナッセという名前に涙ぐむマロハーに、トビーはからかうように踊りながら連呼する。
もう会えないと思っていた息子。
今は数百年後の世界。これまで何か起きたか分からないけど、ナッセが来る。そうと知っただけでも感銘を受けた。
また会えそうな所まできているのだ。
《あなた……なんかしたの……?》
「地球って異世界へ飛ばされて、記憶消されて絶望の並行世界へ転生してたよ~~、それでもここに舞い戻ってくるなんてすごい運命力ですよね~~? ほら最近だって、偶然記憶戻ってきたらしいしね~~」
《ずっとナッセを見てきたの?》
「ふふっ、大会まで時間があるようですし~、彼が歩んできた軌跡を映像で観ましょうかね~~」
トビーは何を思ったか、中心に宝玉を備える黒いディスクを懐から出す。
マロハーは見開く。
《それは……『森羅万象の円盤』!!?》
「……のナッセ君バージョンでぇ~~す!」
人差し指でディスクを載せてブーンと回転させている。
その頃、人族界では……!
各国で王様が大勢の騎士を前に演説を行ったり、世界会議を開いたり、ロゼアット帝国と支配下の小国のデータを集めたり、魔道士たちが魔神打倒方法を練ってたり、忙しい日々が続いていた。
そんな王様の護衛をしている五輝騎士……。
「うーむ。御獣界より伝達されたが、封印しか方法がないのは辛いね」
「仕方なかろう……」
「……やはり鍵は妖精王ナッセ君の作り出す浄化の鈴か」
“轟沈の聖騎士”アーフォスと“不動の重鎮騎士”ゴレアックは王様の側でボソボソ話していた。
“雷鼓天の主”シュルアや“煌きの狙撃手”ミゥアーサもいる。
そして最後にもう一人……。
「あいつかー。悪魔の教皇やっつけてたヤツー」
柄の長いハンマーを立てている一人の五輝騎士は笑む。
金髪のツインおさげでツリ目の女騎士。ヘソ出しルックで鎧も身軽なデザインだ。強気な表情が窺える。
「おや“烈火の猛襲騎士”リアシーちゃん」
「ちゃんって言うな! ブッ叩くぞー!」
「スマンスマン。でも声静かにな。王様さん見てるよ」
ゴレアックは溜息。
遅刻魔であるリアシーは、寝過ごして天覧武術大会に出れず出番がなかった。
単純で脳筋。勝気な性格に難がある。だが勘が鋭く、天才的な戦い方をする。唯一の聖剣所持者。これを買われて王国騎士に入隊した。
類稀なる才能で、若くして五輝騎士にまで上り詰めた。
「あいつ全力で守った方がいいぞ」
「何故だい?」
「……三大奥義で浄化の鈴を強化できるんだろ? あいつがやられると今回の大会勝てねーぞ」
「違いないねぇ」「うむ」
アーフォスとゴレアックは、リアシーの的確な進言に感服する。
バカのようでバカじゃない。伊達で五輝騎士になったワケじゃないのだ。
勇者たちも勇者神殿で集合して、武勇の女神アサペンドラのお言葉を聞いていた。
《御獣界から伝達されてる通り『極大封印魔法陣』を魔神デウスに炸裂させる事に注力しましょう》
勇者たちは息を呑む。
「滅ぼす方法はないのか? 今回のように封印がまた解かれたら?」
《そこは答えに詰まるかな……》
セロスの質問に、アサペンドラですら曇った顔を見せる。
他の勇者も不安そうな顔だ。
現役復活したラルゴも腕を組んだまま「ううむ」と唸る。
「いや、いや! この間のマリシャスがそうだったじゃない、じゃないか! 人間のガキになって無力化したよ、したじゃんよ?」
帝国の勇者アリュールが口出す。
《漆黒の魔女さんは肉体を作るのに手間をかけてたとおっしゃってたねー。今回は急だから用意できてないでしょ。そもそも大災厄の円環王と同じように人間の肉体を欲っするかな?》
「うっ……」
「アリュール、こうなったら封印するしかないじゃん」
マグアはアリュールの肩に手をポンと置く。
すると新しい勇者シオンが手を挙げる。
「先生がいるじゃないですか!」
《先生??》
「ナッセさんです! きっと何とかしてくれますよ!」
アサペンドラは逆に困惑する。
《……勇者の力でなんとかできればいいんですがね》
「アサペンドラさま? どうしてですか?」
《ナッセ君が同じ勇者なら喜んで賛同してたねー。でも彼は妖精王。いずれは見守る側に回る存在。できる事なら頼ってはならないかな》
「なぜなんですか?」
アサペンドラはため息。
《では、また世界に危機がきたらナッセに頼る? 自分たち勇者なのに?》
「あっ……!」
《頼りすぎると「ナッセが全部やってくれる!」と面倒事を押し付ける。失敗すれば全部ナッセのせいにして責めればいい。そんな楽な場所でふんぞってしまう。それでは人族に進歩は訪れないよ》
「そんな事は……!」
《それに、この件でナッセが人類の敵になったら、どうするのかな?》
「うっ……!」
前にヤマミが指摘した事を思い出す。
もしナッセが「身を挺して助けたのに罵られるなんて、人族など助ける価値がないんだ」って反感を抱いたら、この上にない恐ろしい敵になる。
当然ヤマミもナッセと一緒に反旗を翻すだろう。
勇者も魔王も敵わないような相手に、誰が止められるのだろうか?
そう悟って俯くシオンの肩に、ラルゴが優しく手を置く。
「だからこそ勇者としてのワシらがいるのだ。ナッセがいなくとも何とかできるようにな……」
「……はい」
アサペンドラはそんな様子にウンウン頷く。
一部始終を聞いていたセロスは苦言する。
「とはいえ、魔神デウスの倒し方が封印しかないのは困る。聖剣の加護で戦えても不死には太刀打ちできない。結局妖精王ナッセに頼らざるを得ないだろう……」
《ええ……》
アサペンドラは伏せ目で視線を逸らす。
ラルゴも困った顔で溜息。他の勇者も煮え切らないまま俯く。
魔界でも魔族たちが各国で忙しく動いていた。
闇のダークロス王国でも、魔王ジャオガは城内で四魔将と向かい合っていた。
「余は大会に参加するが、お前らに強制はしない。各々判断していけ」
「「「「ジャオガさま……!」」」」
重鎧の大男だったのに、ビキニアーマーの褐色巨乳美女になってしまった。“重鎮の深淵卿”アマリビグ!
竜をそのまま人間にした小柄な体格。鎧を身に包み、剣を背中に背負う男。“天空の独裁者”ソネラス!
氷の右半身と炎の左半身の女。頭を一周する輪っかの上から氷と炎を模した髪が逆立っている。露出度の高い衣服風の氷と炎で恥部を隠す。“氷炎の魔女”ホノヒェラ!
「俺は参加する……」
「ベルセム!?」
そして人族になった元“残虐なる蟲王”ベルセムも四魔将入りしている。
普段は人族の世界で暮らしているが、今回は環境適応魔法を纏って王国に来ていた。
「どっちにしろ負ければ世界が終わるんだ。戦わずに逃げる方が余計辛い。後悔を背負って生きる人生などゴメンだ」
「余としては助かるが……」
するとアマリビグもソネラスもホノヒェラも「ああ水臭いわ! 参加するぞ!」と意気投合。
ジャオガは片目をつむってため息。
「悪いがソネラスとホノヒェラはダメだ。参加は許さん」
「えっ!」「なんでなの!?」
戸惑うソネラス。食ってかかるホノヒェラ。
ジャオガは指差す。
「……その子どもはどうするんだ?」
ハッとしてソネラスとホノヒェラが後ろへ振り向く。
後方の柱から覗いている一人の子ども。氷の右半身と炎の左半身。ホノヒェラの特徴を受け継ぐ容姿。
もじもじしている。
「まだホノスちゃんは三歳だ。両親がいなくてはならん。それに弟か妹か……妊娠しているのを余が気づかぬと思ったか?」
ホノヒェラは頬に汗を垂らして驚く。
ソネラスも見抜かれてた事にビックリして言葉を失っている。
「魔族の生が限られたものとなり、性別が生まれた。すぐさま結ばれた二人は子宝に恵まれた。命は重い。未来の魔界を歩む子どもを放って戦地に赴くなど許さん! これは命令だ!」
「ううっ……」
「いいから、一緒にいてやれ」
諭されて俯くソネラスとホノヒェラ。
「そういうのいいな」
ベルセムは安堵する笑みを見せた。
かつて残虐だった魔族だった彼は、人族として異世界転生して色々かけがえのないものを学んで変わった。
そして羨む気持ちを胸に、目の前の家族にほっこりしていた。
「なにがなんでも勝たねばならんな……」
そう呟く魔王ジャオガも、かつてとは違う。
永遠の転生システムによる闘争に明け暮れる世界で生きてきた彼も、限られた命を手にし、初々しい家族を前に新しく芽生えた感情を持った。
そう、初めて守る戦いをするのだ……。
厄介な事であり面倒だが、なぜだか悪い気がしなかった。
「それはいいけどさ、魔神は不死なんだろ? 絶対殺せないんだろ? ……どうすんだい?」
「永久不滅の概念。今回の敵はヤバいぞ……」
「うむ。だが、こちらには強力な浄化の鈴を創れる妖精王ナッセがいる。できれば頼りたくはなかったがな……」
世界の命運がナッセにかかるのを、魔王ジャオガは好まない。
「あいつは戦うのが好きじゃないからな」
ジャオガの言葉に四魔将も同意して頷く。
闘争の真髄を教えたとはいえ、ナッセは無用な殺し合いを好まない純粋な妖精王。
だからこそ魔族の魔王らしからぬ事であれ、心底守りたいと決心した。
あとがき雑談w
五輝騎士「ようやく五人揃いましたー!」
“轟沈の聖騎士”アーフォス「へいへい。死に損なった老いぼれですよ」
“不動の重鎮騎士”ゴレアック「精一杯やろう」
“雷鼓天の主”シュルア「私、イケおじのエルフでする」
“煌きの狙撃手”ミゥアーサ「頑張るであります!」
“烈火の猛襲騎士”リアシー「おー、よろしくなー!」
新キャラのリアシーの活躍も楽しみにー!
カレン「けっ! あたしの方が強いんだーァ!!」←同じハンマーキャラ
次話『もうすぐ開催! 世界の命運を決める終幕の決戦!』




