151話「完封! これが王国騎士の実力だ!」
盛り上がっていた天覧武術大会にザワザワ、とどよめきが走っていく。
《ただいまトラブルが発生しました! 緊急グラウンドに障壁を張ります! みなさんは落ち着いて避難をしてください!》
闘技場と観戦席を断絶するように半透明の障壁が球状に覆っていった。これで戦いの余波が観戦客に及ぶ事はない。もちろん内部からだと敵だけは脱出不可能。だが外部からは誰でも容易に入場できる仕組み。
「一体何が!?」「きゃああ!」「どいてくれ!」「ひええ!」「押すな!」
動揺して逃げ惑っていく客、それを十二光騎士たちが出入り口へ誘導していく。
不穏を感じた王様と王妃は、闘技場のグラウンドに乱入した二人に注視する。
傷だらけで呻くロゼアット帝国の勇者ボゲー、そしてそれを追ってきたであろう帝国騎士のバレミアット。
ただならぬ雰囲気にオレは席を立つ。
「トーチャン? 一体なにが……?」
「……ウイル待っててくれ。オレは行く」
「単騎で来るほどだから気をつけて」
「ああ」
観戦席から障壁を抜けて、ひとっ飛びでアーフォスとゴレアックの近くへ降り立つ。
するとクックさんも「あったしもー!」と側に降り立ってきた。
そして他の王国騎士や兵が数十人走ってくる。
ゴレアックは「兵たちは後方で待機してくれ」と指示。
オレを一目見てアーフォスは安堵。
「お、ナッセ君かい。助かるね」
「クックさんもいるー!」
「へいへい」
「アーフォスさん、ゴレアックさん、“見た事もねぇ敵”だ!」
ゴレアックは「見た事もない、か」とため息。
オレは「ああ」と頷く。
そう、今回は銀色に煌く金属人間の刺客……。
オレたちに囲まれてもなお、動じないバレミアットは無機質に周囲を見渡す。
「これは失礼した。勇者ボゲーは帝国へ反旗を翻した為、始末するべき追ってきた。こやつを仕留めれば早々に出て行く。邪魔せず大人しくする事を勧める」
「おいおい大会開催中でそれはないでしょ。“千閃騎士”バレミアットさん。事情話してくれないかねぇ」
オレが「コイツを知ってる?」と呟くと、ゴレアックが説明してくれた。
ロゼアット帝国が誇る六帝騎士の一人“千閃騎士”バレミアット。
二刀流による凄まじい剣戟で敵を微塵に斬り散らす事からついた二つ名。相当な実力者と各国にも知れ渡っている。
冷徹に任務を遂行する男だったが、金属人間などではない、と。
オレは金属化できるエレナちゃんを連想したが、今回は全く似て非なるもの。
滑らかな体格ラインではあるが、昆虫でいう複数体節のように関節部位に線が複数走っている。鎧と衣服も彫刻のような造形。滑らかな銀髪は細く柔軟な金属。瞳からは生気が感じられないような無機質さを醸し出す。
そのまんま銀ピカになるエレナとは全く違う。
まるで“千閃騎士”バレミアットを象った人形だ。
「我らがロゼアット帝国は虚無の魔神デウスさまのモノとなった。それに従って我々も傘下に入り、このように『魔神』として生まれ変わった」
フッと冷徹に笑ってくる。
「虚無の魔神デウスだと!?」
「おやおや……今度は魔神かい。なにやら物騒だねぇ」
知らなかったようで五輝騎士であるゴレアックもアーフォスも内心焦りを帯びる。
「ロゼアット皇帝さまも王国騎士も民も全て受け入れて、身も心も捧げて『魔神』となったのだ。ところが、この勇者は受け入れなかった」
剣の切っ先を向かれて、ボゲーは「くっ!」と苦々しい顔をする。
元悪魔の教皇キラリストの言った通りロゼアット帝国は既に取り込まれた。
でも勇者ボゲーだけが拒否して、こうなってるって事か……。
「それにしても始末とは穏やかではないね。国外追放でいいんじゃないの?」
アーフォスは相変わらず飄々とした様子で愛想笑みを浮かべる。
無機質にバレミアットは振り向く。
「皇帝より「魔神文明を受け入れろ」との命令を拒否したボゲーら勇者一行は、逆に魔神デウスさまを排除しようと反逆したのだ。充分大罪である」
アーフォスは「大罪ねぇ……」と片目瞑る。
「だから勇者ボゲーに与した四人を抹殺し、逃げたコイツを俺が単騎で追いかけた。このような無礼になって申し訳ないが……」
「本当に申し訳ないと思うなら、そのまま立ち去って欲しいがね」
アーフォスが肩を竦めると、バレミアットは両目を輝かせた。カッ!
「拒否する。邪魔するなら諸共始末するまで!」
「この数を相手に、かい?」
「数は関係ない! 魔神に歯向かう時点で貴様らは詰んでいるのだ!」
バレミアットは両手に持つ剣をヒュンヒュンと振り回し始めていく。
まるで旋風を纏うかのように大気を斬り裂きながら乱雑に振り回し続ける。すると縦、横、斜め、と幾重の斬撃が嵐のように周囲へ荒れ狂う。
「無限ノ剣閃ッ!! 大嵐無尽!!」
アーフォス、ゴレアック、クックさんは自然と構えて、飛んでくる斬撃を得物で弾ききっていく。
オレも超高速の剣戟による『結界』で全撃を弾ききって、後方にいる勇者ボゲーや兵をかばう。これくれぇなら全然ヘッチャラだぞ。
オレの様子を見てアーフォスさんは「勇者さんは任せとこうかね」と漏らす。
「ウモオオオオオッ!!」
ゴレアックは両手の懐剣を振るい、斬撃の嵐を弾きながら間合いを詰める!
ついにバレミアットと激しい接戦へ持ち込んで、周囲への無差別攻撃を阻止してしまう!
ガガガッガッガガッガッガガッガッガッガガガッガッガッガ!
憤怒の猛攻で、バレミアットを後退させていく!
ただパワーで押しているだけではない、バレミアットの太刀筋を見極めて的確に捌いているのだ! 同時に先読みする事で敵の剣戟をくぐり抜けている!
これがゴレアックさんの真骨頂!
ただの力押しにあらず! 敵の攻撃を見抜き、即座に攻略していくほど卓越した観察眼!
ズドン!!
ゴレアックの振るう懐剣を、バレミアットは双剣を交差して受け止める!
地盤が爆ぜ、破片を散らして陥没!
「無限ノ剣閃ッ!! 怒涛荒刃ッ!!」
バレミアットは絶え間ない超高速連続刺突をゴレアックへ浴びせる!
しかしゴレアックはそれすら見切って、両手の懐剣でことごとく弾ききってしまう! 周囲に逸れた余波が、あちこち地面の土砂を巻き上げる!
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!
「千閃騎士バレミアットだって相当強いんだけど、ゴレアックさんヤベェ!」
いかなる技を繰り出そうとも、ゴレアックの目は既に敵のクセを捉えて初見で破る!
攻め手を封じられたバレミアットは苦々しく防戦一方!
もう勝敗は見えたか!?
「畜生風情が! その醜い面で騎士気取りするなゴミめ!」
素早く飛び退いて、侮蔑を吐いて挑発をする。
しかしゴレアックは冷静に「破轟!!」と懐剣を連続で突き出して、魔弾を連射!
ドドドドドドッ!!
「ぐっ! 無限ノ剣閃ッ!! 乱刃交柵ッ!!」
バレミアットは眼前へ幾重の剣閃を連ねる事で、魔弾をことごとく散らす!
それさえ囮! すでにゴレアックが間合いを詰めて横から懐剣を振るう! それは見事、バレミアットの左腕を砕く!
更なる追撃を、バレミアットは「グッ!」と後方へ飛んでかわす!
「いらっしゃい」
それを待ち構えていたアーフォスが一刀両断と振り下ろし、バレミアットは背を向けたまま咄嗟に剣を掲げて防ぐ!
ギキィンッ!!
両者の足元がボコンッとクレーター状に陥没!
「無駄だ! 魔神に死角などないッ!」
「関係ないよ」
しばし力比べしていると、バレミアットの両足がズン、と沈んでいく!?
なんと半透明の黒い玉である『重枷』がバレミアットの剣に付加されて膨らんでいく! その度に重さを増していく! ズン!
「これで詰み!」
鋭く冷静な視線を覗かせるアーフォス。
更に自身の剣にも重力をかけて、バレミアットを否応なく跪かせる。ズン!
しかも互い交差している剣がバレミアットの肩へ食い込み『重枷』も移転。やがて尻餅をつかせる。ズン!
「グッ! おのれェェェッ! こんな事をしてただで済むと思うなァッ!」
「はいはい」
オレも分かる。
ああなったら、もう逃げられない。
解除の魔法を使うにしても、それを見逃すほどアーフォスさんは甘くない。
「完封しちまった。やっぱ最強格の王国騎士スゲェな……」
ゴレアックさんとコンビネーションも相当なもんだ。ありゃ敵に回したくねぇ。
「これから尋問し……」
「できると思うてかッ!? どの道、貴様らは詰んでいると先ほど申したッ!」
「ん? 今、虚勢を張っても──……」
ボゲーは力を振り絞って「ダメですけ!! あの黒い輪を出さ……」と叫ぶ!
「遅い!」
バレミアットの背中から漆黒の輪が不穏に浮かぶ! 輪郭が紅の炎に包まれている!
彼を中心に円が広がっていって一〇〇メートル範囲外で紅く輪郭が妖しく輝いた!?
「う!?」
「なん……だ……!?」
なんかズシリと体が重くなった気がした。
バレミアットに付加したはずの『重枷』が薄らと消えていった。
こっちの光の剣も消えていった!? いや他の刻印創も消えていく!?
「これが魔神の『魔絶』だ! 範囲内にいる敵のレベルをゼロにする! その結果、魔法やスキルが消失してしまうのだ! エーテルどころかオーラも出せんぞッ! ふははははっ!!」
バレミアットは左腕を再生させ、二刀の剣を掲げて勝ち誇った。
背中の漆黒の輪がヴオオ……ンと不気味に振動音を響かせる。
「これ、マジでヤベェぞッ!」
オレ自身の『刻印』が発動できず、光の剣が生成できない! 焦るしかねぇ!
あとがき雑談w
ええっ!? 勇者ボゲーの仲間は全員殺されてた!?
爆拳格闘王バ「」
堅牢戦士ゲニゲ「」
流動僧ララニ「」
荷物運搬士ローワ「えぇ……(呆れ)」
砂漠の蛮勇者ボゲー「実際は無効化されて何もできなかったですけ。逃げるので精一杯ですた」
次話『虚無の魔神デウスの宣戦布告と降伏勧告! ピリつく各国!』




