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146話「邪教徒の残党! 恐るべき神技!?」

 勇者セロスと魔王ジャオガが対決する前日────!



 土木作業場で、多くの労働者があくせくと働いていた。

 彼らは日夜通して働いているおかげで、人族の社会で建物や道路など不自由しない。


「おーい! キラ君、木材を一つー!」

「チッ!」


 悪魔の教皇だったキラリストは、今日もタンクトップの作業服で汗を流して作業に取り掛かっていた。

 もし以前のように威張り散らして暴れようとも、周りの人間でカンタンに取り押さえられる。

 なぜなら、かつて猛威を振るっていた頃の力はマリシャスから与えられたもの。それが消え失せては、彼も非力なただの人間でしかない。

 そして、日夜働かねば暮らせる金が稼げない。


「なんで……我がこんな…………!」


 もうかれこれ五年もこの仕事だ。惨めしかない。




 夕日が沈んで暗くなっていく頃、ドカタの上司が「時間だー!」と呼びかけて労働者を集合させていく。

 もちろんキラリストも、そして手下だったナウォキ、テンチュ、ボホモも整列している。


「今日はお疲れだったなー! もう帰っていいぞー! 明日と明後日は休日だから英気を養ってくれよ!」

「「「「はい! ありがとうございました!」」」」

「お前らもよく頑張ったな。ありがとうよ! はっはっは!」


 気さくな上司は笑いながら手を振って去っていく。

 解放された労働者はワイワイと明るく喧騒しながら帰路についていった。

 キラリストも、他の労働者から「おう! いつも無愛想だな! また明日!」と友達のように声をかけられる。

 これも日常の事だった。


「よく飽きもせず、我にも……」

「キラ君! 乾いたろ?」


 笑いかける先輩の労働者からドリンクを渡される。つい受け取ってしまう。


「……ぐっ」




 すっかり夜の景色となった王国の町風景。煌びやかな灯りがあちこち。


「くそ! かつて手下だったヤツと同じ立場とか……!」


 ()手下だった邪教徒は今や同僚でしかない。

 ただただ背負った罪を償う為に、日夜土木作業に従事する毎日。

 キラリストは煮え切らないまま、重い足取りで我の家へ向かう。


 そんな折、勇者セロスがキョロキョロ見渡しているのを見かけた。


「あいつは確か……」


 そそくさと行ってしまった。


「チッ! いつもの『綺羅星亭』か!」


 キラリストも周知であった。セロスが気になっている人に会う為にコソコソ通っている事を。

 結構な人に知られているというのに本人(セロス)は気づかれていないつもりだ。


 しかし、今回は状況が違っていた。

 セロスの後を追いかけるかのように、胸にバッジを付けた黒いフードで全身を包んだ不審な男が横切っていく。


「あのバッジは…………」


 キラリストは見開く。

 バッジをつけたフードの男は、金髪のベリショートでカルマホーンが生えていて、深い闇を抱えている据わった目をしている。


「おい! お前、ラッテ!!」


 しかし行ってしまった……。


「チッ! 我に気づかずか……!」


 彼もキラリストの手下だった。

 数年ごとに姿をコロコロ変えていて、よく新信者と間違われる。だから特別に胸にバッジを付けさせていた。

 まさか今も律儀(りちぎ)にバッジをつけているとは思わなかった。


「確か、ヤツには『神技』があったか……」


 マリシャスが授けたという恐ろしく危険な特殊能力。

 キラリストはいざという時の切り札として控えさせていたが、インターバルの関係で結局出番なく終わった。


「前に使ったのが五年前……。ちょうど神技(アレ)が使える状態になっている。まさか!」


 悪い予感がしたキラリストは、等間隔で並ぶ街路樹に止まっているセミに目がいく。


 ミーン! ミーン!


 異世界ゼミだ! 名前は『ライトゼミ』!

 この辺の大陸で分布されている昆虫! 鳴く時に尻尾部分が黄色に輝く!

 もちろん幼虫は約七年も地中で成長を繰り返し、成虫へ羽化すると余生一ヶ月で飛び回る生態なのだーっ!





 そしてその翌日!


 魔王に負けた勇者セロスは渋々(しぶしぶ)と『綺羅星亭』へ向かっていた。

 行方を見守るという監視の下で魔王ジャオガも同行している。


「なんで付いてくるんだよ!」

「そうしないと逃げかねん」

「ぐっ!」


 前日に対決して、負けた方が言う事を聞くという約束だった為、勇者は好きな人に告白しなければならない。

 しかし、勇者セロスと言えども恋愛は奥手。

 勇者として魔王魔族と戦う使命に逃げる事はもうできない。


 中央区にある食亭『綺羅星亭』はレトロな感じの建造物で、古風な煙突や屋根が風情を感じさせる。

 ドキドキしながら扉を開いて入っていく。


「いらっしゃー……」

「あっ!」


 看板娘がハキハキと歓迎の声を張り上げるが、硬直。セロスも硬直。


「ロ、ロゼ……!」


 ロゼと呼ばれた看板娘。前髪二分けの桃色ツインお下げ。丸い目が可愛らしい。白いエプロン、水色の衣服。体つきは豊満で魅惑的。

 やがてロゼはカーッと赤面して、ピューッと脱兎の如くカウンターへ逃げてトレイで顔を隠す。


「……避けられているんだ。嫌われたな」

「いや、それは違うと思うぞ」


 ガックリ項垂れるセロスに、ジャオガは頬に汗を垂らす。


「おう! セロス、今日はジャオガさんと一緒かい?」


 今度はカウンターにいた渋めの親父が爽やかな笑顔を見せる。

 セロスはハッとジャオガを見やる。

 魔王ジャオガも通っているのだと察したセロスはゲンナリとする。



「勇者セロスッ! ここであったが百年目だッ!」


 突き刺すような殺気とドス黒い声に振り向けば、黒いフードの怪しい男が扉をバックに立っていた。

 バサッと金髪のベリショートでカルマホーンが生えている頭部をあらわにする。

 据わった目でセロスを見据え、ただならぬ殺意が目の奥に燻る。


「何者だ……?」

「マリシャス教の使徒ラッテだ! 今や残党に過ぎない! お前らのおかげでオレの理想が遠のいた!!」

「理想だと!?」

「勇者も魔王も、この世界には不要! 業が深い人類に希望や夢などあってなるものかッ!」


 恨みづらみと憎悪を(はら)んで言い放ってくる。

 セロスは腰の聖剣に手を添えていく。


「……セロスに恨みがあるようだが、元といえばお前ら邪教徒が悪い」

「魔族風情が出しゃばるな!!」


 ジャオガにも侮蔑を込めて吠える。

 食亭の空気は険悪だ。看板娘はビクビク怯えてカウンターの親父の背中に引っ込む。

 爽やかだった親父も険しい表情だ。


「この世は夢も希望もない地獄となり、人類は永遠に苦しみを味わうべきなんだッ! それこそがオレの理想ッ!!」


 頭部のカルマホーンがズズズッと伸びていく。

 悪意満々でセロスを憎々しげに睨み、バッと大の字に手足を広げていく!


「まずは貴様に成り代わってやるッ!! 受けよ! 神技『転命環(トツカエ)』ッ!!」


 カッと悪意の輝きを見せる両目!

 ラッテの足元から紫色の魔法陣が展開され、(つつ)のように上へ伸びると弧を描きながらセロスの頭上へ! しかし飛んできたセミが代わりに包み込まれた!!

 セミの下方にも同じような魔法陣が浮かぶと、バチッと眩い閃光が爆ぜた!

 思わずセロスもみんなも目を瞑ってしまう! そして訪れる静寂……!


「今のなんだ……?」


 少し目を開けたセロス。ジャオガも怪訝な顔。親父と看板娘も状況が飲み込めていない。

 先ほど妙な光を飛ばしてきた男はボーッと突っ立ったまま。


「何をした!?」


 食ってかかろうとするセロスの肩を、ジャオガは「待て!」と掴んで引き止める。

 ラッテという男。さっきまで悪意満々な顔をしていたのに、素っ頓狂だ。


「ミーン! ミーン!」


 なんか手をバタバタさせて、壁などにぶつかっては方向転換して走り回り続けた。扉が開かれて、その光に釣られたのかラッテは走り去っていった……。

 そして入れ替わるようにタンクトップのキラリストが入ってきたぞ。


「間一髪、助かったな」

「き、貴様はキラリストッ!?」

「おいおい! せっかく助けてやったのに『ありがとう』もナシか? 同業者はちゃんと礼ができてたぞ」

「……どういう事だ??」


 キラリストは憮然(ぶぜん)とした顔で歩き、足元のセミを掴んだ。

 ツノの生えたセミはバタバタ手足をバタつかせて精一杯ミーンミーン鳴き喚いている。


「マリシャスが与えた神技『転命環(トツカエ)』は恐ろしいスキルだ。対象者と入れ替わってしまう」

「……入れ替わるだと!?」

「む! それでは先程の男とセミが入れ替わったと?」

「そこの魔王は理解しているようだな。確かにその通り。この技の恐ろしいのは魂が入れ替わるだけじゃなく、対象者のクラス、スキル、才能などを奪える事にある」


 キラリストの話に、セロスたちは戦慄を覚えた。ザワ……!


 通常、体を入れ替えたとしても魂が持っている本来の能力はそのまま。

 しかし、この神技『転命環(トツカエ)』はそれさえ覆してしまう。


「コイツでラッテはセロスに成り代わろうとしていた。だからこのセミで阻んでやったという事だ。理解したか?」


 セロスも絶句する。

 依然と落ち着いている魔王はセミに指差す。


「また発動されては厄介じゃないのか?」

「心配するな。一度発動したアレは次に発動できるまで五年ものインターバルがいる。このセミでは一ヶ月しか余生がないからな」


 そう言いながら外へリリース。セミは()()ながら飛び去っていくしかない。

 マリシャスの負の遺産はこれで最後となる。


「まさか貴様に助けられるとはな……。一体どういう風の吹き回しだ?」

「ロゼちゃんに告白するらしいな?」

「うっ! な、なぜ、通りすがりのお前が知っているんだよっ!?」

「見てたらモロバレだぞ」


 うろたえていくセロスに、キラリストもニヤリと笑んでいく。



 カウンターの親父の後ろに隠れていたロゼは赤面したまま、ドキドキ戸惑っている。

 セロスはチラッと見やる。

 このままでは進展しないのは確か。勇気を振り絞って一歩踏み出さねば、この気持ちは吐き出せない。

 いつかは伝えたいと思った気持ち。


 親父はロゼの背中を押して「行ってきな」と快く笑む。ロゼは「うん」と頷き、ドキドキしながらもセロスへ歩んでいく。

 二人してドギマギしながら目を泳がせる。もどかしい。

 そしてセロスは意を決した。


「ロゼ……! オレはあなたの事が…………」

あとがき雑談w


ラッテ(セミver)「ちくしょおおお! なんでこうなったー!!」


 まずは勇者セロスに成り代わってから、各国を荒らし回る。

 恐らくナッセとも戦う事になるだろう。

 だが、罪深き人類を永劫の地獄に突き落とす為には必要。その予定だったが、今や叶わぬ理想となった……。


ラッテ(セミver)「……もはや詰んだ! (あきら)めミーン!(泣)」



 次話『忍び寄る魔神(マシン)の影!!』

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