145話「再びの雌雄対決! 勇者と魔王!」
セロスは見た! 仮想対戦センターでナッセとラルゴの試合を!
「なぜ……なんだ!? オレじゃなくて、なんでアイツなんだ……!」
納得いかないという感情が嫌悪を引っ張り上げてくる。
アイツは人生をかけてマリシャスを倒して英雄だ。ラルゴが一目置くのも分かる。だから引退試合に指名した。
分かっている。分かっているけど、感情だけは止めどもなく溢れてくる。
トボトボとした足取りで仮想対戦センターを出る。
「……何もできぬまま、この世は平和になってしまった。くそっ!」
醜いと分かっているけど、嫉妬と嫌悪が激情を煽ってくる。
人間ではないナッセがいいトコだけ全部かっさらっていく。許せられない。どうしようもない私怨で葛藤する自分が嫌になってくる。
何もかもブチ壊したくなってくる。だがダメだ。そんなのは父もラルゴさんも喜ばない。
このもどかしい想いを、どこにぶつければッ……!!
「しょぼくれているようだな」
「あ?」
荒んでいたセロスが見上げると、目の前で魔王ジャオガが腕を組んで立っていた。
「余も試合を見たぞ。で、貴様はそんな辛そうなんだ?」
「てめぇ……! そこどけよ!」
「それはできん相談だ」
「なんだとッ!?」
緊迫する空気。僅かに威圧が膨れ、周囲の人々はおののく。
「正直、余も貴様に借りがあってな……」
「借りだと!?」
「忘れたのか? ……我々魔族の宿命を勝手に変えておいて無責任なヤツだ!」
セロスはハッとしたが、睨むように表情を険しくする。
「ああ。せいせいしたぜ」
「どうしてくれる! これでは魔族として人界を襲う理由がなくなったではないか!」
「今まで通り好き勝手に襲えばいいだろう? なぜしなくなった?」
ジャオガはため息をつく。こうも鈍感だとは、と呆れ果てる。
「我が魔界は出産祭りだ。慣れぬ育児で悪戦苦闘している。もはや闘争どころじゃないからな」
「な……!?」
勇者セロスもさすがに戸惑いを顔に出す。
彼が願った通り、人類のように繁殖可能な種族になったのだ。これまでのように戦いだけ考えて生きていけなくなっている。それに寿命も設定されているので、命が重くなってしまった。
それにジャオガは前もって聞いていた。
一緒に魔境を潜った時に、ナッセが自分で見た悪夢の一切を!
勇者だったセロスは、自ら故郷であるライトミア王国を破壊してしまう。
彼は人類に絶望し悪意のままに世界を破壊しようと、邪魔となるナッセと対峙する。
一方で化け物と罵られながらも、立ち向かおうとするナッセ。
これがもしかしたら正夢になるんじゃないかって、自白していた。
だからこそ時々この国に通って様子を見ていた。今回になって初めて危惧していた事が現実になりそうで、こうして踏み切ったのだ。
「……で、貴様はそんなの忘れてこんな体たらく。腹が立つわ。貴様でウサを晴らしてもらうとするか?」
魔王ジャオガは昔のように悪辣な笑みを見せ、セロスを見据える。
途端に円が広がってエンカウント現象が起きて戦闘空間に転移されていった。
無人のライトミア王国の広い道路。
そこでジャオガとセロス二人が対峙している。
再びの睨み合い。
ナッセが来てから、二度目の対決になろうとしていた。
「そんな気分じゃないが、もういい。望み通り受けてやる!」
「フッ! じゃあ負けたヤツは勝った方の言う事を聞く。それでいいか?」
「……なんだって、そんな事を今?」
ジャオガは首を振る。
「ただ殺してはつまらん、貴様に煮え湯でも飲まさなければ気が済まんのでな!」
「いいだろう! オレが勝ったら言う事を聞いてもらう!」
「望むところだッ!」
セロスは聖剣を抜き、ジャオガは両拳に握り格闘する構えに、互い臨戦態勢!!
巨大な威圧がぶつかり合って、地響きが激しくなり、石飛礫が舞っていく!
ドウッと双方のフォースがスパークを伴って噴き上げられ、足元の岩盤が旋風と共に爆ぜ飛んでいく!!!
「“暴焔の魔王”ジャオガ!!!」「“聖雷の勇者”セロス!!!」
互い地を蹴って大地が爆発し、同時に勇者の聖剣と魔王の拳が激突!!!
幾重に軌跡を描き執拗な連打を重ねて、衝撃波を撒き散らす! 周囲に烈風が巻き起こって建物がグワンッと粉々に吹き飛んでいく!
「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
勇者セロスと魔王ジャオガの重なる裂帛の咆哮!!
剣戟、剣戟、剣戟、剣戟、幾度も煌く太刀筋が縦横無尽に紡がれ、対する無骨な拳が乱雑に殴打、殴打、殴打、殴打!!
互い溜め込んでいた憂さを晴らすかのように、全身全霊で激しい格闘を繰り広げていく!
もはや善と悪の対立による激戦ではなくなっていた!
間合いを離した瞬間、勇者セロスと魔王ジャオガの目がカッと見開く!!
「エクス・ゴッドヘヴン!!」
十字の光に裂く大空より聖なる雷が轟々と聖剣に誘われ、爆ぜる稲光と共に力強く刀身に迸り────!!
「獄・冥黒炎!!」
渦穴浮かぶ大空より禍々しい黒い太陽が魔王へ誘われ、爆ぜる黒炎の息吹と共に全身を包み────!!
「ヘヴン・フィニッシュ────ッ!!!」
「ダイナスト・ロォ────ド!!」
稲妻を撒き散らしながら突進する勇者セロスと、黒炎の飛び火を撒き散らしながら突進する魔王ジャオガが鬼気迫る表情で渾身の一撃を振るい合う!!!
ズガオッ!!!
全身全霊かけた大技の激突で、爆ぜた白光が全てを覆った!
尋常じゃないほどの破壊で大爆発で王国は飲み込まれ、キノコ雲が天高く立ち上った!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
しかしその爆風から抜け出して、二人が飛び上がった!
遥か高く空まで飛び続けた。
キノコ雲を眼下に、二人は青い青空を背景に神妙に睨み合う。
「あれから鍛錬を重ねたようだな……。今やラルゴ以上かもしれん」
「貴様もな! なぜだ?」
「フン! ナッセが今でも鍛錬を怠なわないようだから、それに倣った。今回こそ貴様を圧倒するつもりだったがな……」
セロスは眉をはねる。
彼は自分も、ナッセに負けまいと『大祓祭』終了後も鍛錬を重ねていた。
まさか因縁の魔王も同じ事を考えているとは思わなかった。
「まったく、いつになっても虫唾が走る魔族だな!」
罵りとは裏腹に心境は逆だった────。
奇妙な事に共感してしまった。以前なら嫌悪していたはずが、今は満更ではない。
ヨソ者のナッセたちに置いてかれたのは自分だけではない。魔王も一緒にだ。悪魔の教皇と戦った時から既にそうなっていたのかもしれない。
塔の魔女との戦いで共闘した時から兆しは始まっていた。
彼は今になって初めて自覚する。
奇しくも、友に抱く感情が魔王ジャオガにも向けられていた、と!
「だから魔族だ! 気に入らなければ、いつでもぶつかって来い!」
「嬉しそうに言うなよ……!」
互い笑みを零していた。
だが悪くはない。こうして自分の内をさらけ出してぶつかれるのは、彼だけだ。
こうして殴り合いも存分にできる。
同じパーティの仲間にはやれない事も、魔王が相手なら思いっきりやれる。
セロスは剣を握り、ジャオガは拳を固めて!
「おおおおおおおおお!!!」
「あああああああああ!!!」
大空を駆け、太陽へ飛び込むかのように二人は重なった────!
エンカウントが終わった時、喧騒している王国の通路へ戻っていた。
気まずそうにセロスは俯いていた。
「今回勝ったのは余だったな……」
「ええい! 煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「フッ!」
得意げにジャオガは腕を組みながら笑う。
「家族を作れ!」
「……は?」
俄かに信じられない事を魔王は言ってきたのだ。耳を疑いセロスは見上げた。ジャオガはニヤニヤしている。見るに耐え難いムカつく顔。
「余が勝ったからな。貴様はこれから結婚して子供を作るのだ。したくないとは言わせんぞ!」
セロスは赤面していって「あわわ……」とうろたえていく。
「って、好きな人はいねぇよ!!」
精一杯の強がりで吠えて退けようと目論む。
しかし見透かしたようにジャオガはニヤリと笑う。
「……もう平和だからな。勇者という立場に逃げる事はできん。そろそろ自分に素直になって『綺羅星亭』へ行け。気になっている女とも話できるようになれ」
「なっ! なんでお前がそれを知っているんだっ!?」
「平和になって五年だからな。ここへ通ってもいる。お前が時々通って挙動不審になっているのも──」
「うわあああああ!! やめろっ! やめろってばー!!」
とりみだす赤面セロス。ニヤニヤするジャオガ。
それを遠くから見ていた父レクロスは安心した。
セロスをこっそり尾行して試合も見た上で、更に魔王ジャオガとのやり取りも全て盗み聞きして、杞憂は失せたと胸を撫で下ろす。
息子に好きな人がいるのは知っていた。実は仲間のパーティも知っている。セロスだけ自分しか知らないと思い込んでいただけだ。
「どうせ両片想いだし、あれでひと押しできたかな。はっはっは!」
まさか魔王が恋のキューピッドになるとは! 世の中不思議なものである!
あとがき雑談w
まだ魔境に潜っていた頃、予知夢を見たナッセは魔王ジャオガに打ち明けていた。
(タイミング的に『60話「これが更なる進化! 妖精王2!!」』の時期だぞ)
ナッセ「……という夢を見たんだぞ」
ジャオガ「ふむ? 確かに生真面目なヤツだが、自ら国を壊滅させるとは思えん」
ナッセ「かなぁ……?」
ジャオガ「仮に、お前に強い嫉妬を抱いていようとも王国を巻き込む事はしない男だ。尊敬する父親もいる。ただの夢だ。気にする事はない」
ナッセ「やけにリアリティなんだよなぁ」
ヤマミ「……それだけ悪に狂わねばならない悲劇でも起きるのかしら?」
真相は一体!? これから何かが起きるのか!?
次話『マリシャス教の残党が勇者セロスを狙って……!?』




