144話「最悪な夢! そしてキラリストの訪問!?」
……深い夢を見た。
かつて地獄のような並行世界で、無個性なオレは淡々と先の見えぬ人生を無為に生きていた。
それでさえ、周囲の環境は驚く程に充実している。
借りたマンション一室だけでさえ、そこに篭ってても水や電気が流れてきて、トイレも風呂も完備。テレビなどでアニメや番組を楽しめれる。ゲームも多種多様あって娯楽に関してもこの上にないほど充実していた。
不自由ない暮らしができる環境と社会……。
そして携帯型の精密機器。
携帯電話からスマホ、アイフォンと進化を遂げて通信はおろかゲームも天気予報も地図もネットもほぼ全部できるという文明利器。
ここだけ聞けば極楽浄土のようにさえ思える。
だが、心は充実していなかった……。むしろ虚無…………。
働いている人たちも覇気がなく、そして上の立場を利用して傲慢に振舞う嫌な上司。
権力を持ったヤツが幅を利かせて暴れまわっている下で、民の誰もが精気を失っているかのように夢を諦めて生きている。
ただ愚痴ったり文句言ったり、殺伐していた。
夢を目指して走る人もいたが、叶わず諦める人も少なくない。
挙句の果てに、死にたいと思っている人が異常に多かった。小学生ですら自殺してしまうほどだ。
こんなに充実した環境なのに、なぜ誰もが幸せじゃないのか?
イジメ、トラブル、犯罪、独裁……、悪意と欲望に駆られて、社会を絶望の底へと突き落とすのがほとんど。
オレもそれが当たり前だと思って暮らし、気が沈む毎日だった。
生活は充実しているのに、なぜかみんな絶望に打ちひしがれている…………。
《ワシは────虚無の魔神デウス!》
背後から巨大な土偶みたいなロボットが禍々しい威圧感を滲ませ、輝く双眸で見下ろしてくる。
カッチコッチ、背後から無数の歯車が蠢く。
《愛を騙る虚偽の情欲と、貶めて虐げて争い合う憎悪と、失敗と後悔に苛まされる絶望に満ちた地獄こそ、お前らに相応しい世界! 必ずや虚無に突き落として見せよう! ふははははははっ!》
途方もないドス黒い悪意。吐き気すら催す下卑た邪悪──……!
「ハッ!」
オレは目を覚まし、天井が視界に入った。冷や汗で顔が濡れている。
横へ顔を傾ければ、愛しい妻であるヤマミが寝入っているのが見える。相変わらず美人で色っぽい。
「なんだ、夢か…………」
上半身を起こし、額に手を当てる。
しかし嫌な夢だったな。元いた世界を今更蒸し返すなんて……。
でも、思えば文明としては最高峰だったのに幸せじゃないなんて矛盾しているよな。異世界はそこまで便利じゃないけど、身も心も充実している。
むしろ妻と子供がいて、友達もいて、幸せだ。
だが『虚無の魔神デウス』とは…………!?
「ん……」
「おはよう」
「うん……、おはよ……」
目をこすりながら身を起こすヤマミ。
共に寝間着姿で、カーテンで閉めた窓から微かに差してくる朝日を見やる。
バサッとカーテンを開けば、一気に眩しい朝日が溢れた。
そして窓からは明るくてのどかな町風景が広がっている。朝日が顔を出した直後だからか、建物の影がヒンヤリと大部分を覆っていた。
ヨーロッパ風味の建物が並び、早く起きた人々が少し横切っていく。猫も壁際を歩いていた。
空は青空。白い雲が少し。気持ちの良い天気だ。
いつもののように衣服を着替えて、歯磨きして、朝飯を食って、ウイルやクックさんと少し団欒して、最終日となる休日をゆっくり過ごす事にした。
「帰ってきたんだな……」
「そうね」
ウイルとクックさんがゲームしているのを尻目に、ソファーでヤマミと余韻に浸っていた。
旅行が終わったという虚しさも覚えるが、再びの平穏な生活に戻れる安心さもあった。
「まだ不穏な要素はあるが、今はいつもの通りに暮らしていくしかないな」
「……パヤッチとマロハーについても、まだ分からない事も多いわね」
「ああ。ヒカリはともかく」
するとオレの胸元に花が咲き、ヒカリが飛び出してきた。
「そーだね。私も人間として自由に動けるようになったんだし」
オレは苦笑いする。
……運命の鍵の宿命まではどうしようもなかったがな。オレも『鍵祈手』のまんまだし。
するとコンコンと玄関からノック音が聞こえたぞ。
「おはよう」
ドアを開けると、意外な人物にビクッと驚かされたぞ。
なんとキラリストだった。
かつて悪魔の教皇としてオレたちと戦ったヤツ。マリシャスの手下として悪辣な事をして、この国を侵略しようとしていた邪教徒のボス。
邪険な表情は今でも変わっていない。憮然とした顔でこちらを見ている。
「……おはよう」
タンクトップでダボダボなズボン。罪を償う為ドカタをやっていると聞いている。
「挨拶するなんて殊勝だな」
「基本的な挨拶だからな。当たり前だろう。それはそうと貴様に良い話があってな……」
ニヤリと怪しげに笑む。
悪意は感じられないようだが、改心したとは思わない。力を失って、他で生きるアテがないから渋々、この社会で暮らすしかないってだけ。
「差し入れだ」
なんとキラリストはお菓子などが入った袋を渡してきた。
思わず目を丸くした。
渡されるままに受け取る。キラリストは「邪魔していいか? 色々話したい事がある」と続けて言ってくる。
「いいわ。聞かせてもらう」
後ろで腕を組んでいたヤマミがいたぞ。
オレは頷き、キラリストへ「ああ、どうぞ」と客間へ案内した。
ヤマミがトレイに乗せた茶をテーブルに載せる。
オレとキラリストが対峙する形でテーブルを挟んでソファーに腰掛けていた。睨み合いというワケじゃないが、友達と話すって雰囲気でもない。
正直、コイツ苦手。
「いただくぞ」
「どうぞ……」
キラリストは茶を啜って喉を潤す。
かつては国の存亡をかけた戦いをした相手。どういうつもりか知らんけど、わざわざオレの家まできた。
「養子と娘がいるようだな」
「ああ。ウイルとクックさんはゲームをやっているよ」
「それはなによりだ」
「本題を言ったらどうなの?」
ヤマミはオレの側へ座る。足を組んで憮然としている。
「……正直言って、この生活は腸が煮え返る」
「残念だったな」
「だが、まぁ最近は悪くないと思っている。楽しみもできたしな」
コイツ何を言い出すんだ。遠い目で横の窓へ見やっているぞ。
すると視線がこちらへ戻る。
「楽しみ?」
「勇者セロスだ!」
「……ん!? まさか!?」
ザワッと胸騒ぎ。そんなオレにキラリストはニヤリと笑む。
勇者セロスが闇落ちして、カルマホーンを生やしている夢を思い返す。
荒れ果てた光のライトミア王国……。
かつて華やかだった都市は今や瓦礫の山だ。もう見るも影もない。
所々死骸が転がり、瓦礫の隙間から突き出ている手が悲惨さを物語っている。
「セロス……! もう戻れねーんだな?」
悲愴な想いを胸に、目の前のセロスと敵対せざるを得ないと対峙していた。
しかしセロスは無表情で無言。
その頭には二本のカルマホーンが仰々しく伸びていた。
「まさか人類の希望だった勇者が……自ら故郷を……!」
「フッ! 感傷しているのか? オレ同様、人ならざるものの存在が? まぁいい、もはや勇者と魔王の関係……、神々、魔族、獣人、竜族、更に文明すらもこれで終わる。そして業が深い人類に希望や夢など要らん。この世を永劫の地獄に変えるついでだ、お前も在りもしない『空想』の彼方へ消してやるよ。化け物!」
もはやセロスは凶行を止めてくれそうにない……。
「例え化け物────、人ならざるものの存在になろうとも……」
決意を固め、足元に花畑を広げて背中から咲かせた花弁を六つ拡大して浮かせ、銀髪が長くなびき、両目の虹彩に星マークが浮かぶ。
地を揺るがすフォースを吹き上げると共に花吹雪が周囲を舞う。
花吹雪が聖剣を握る右手の元で集約して太陽の剣を形成する。そして身構えつつセロスをギンと見据える。
「オレは人間であり、そして『空想』から可能性を広げていく創作士だ!」
「どこまでも戯言を……!」
「それが────、オレの信念だ!!」
揺るがぬ想いを胸に、希望に輝くフォースを噴き上げていく。
以前、こんな夢を見てしまった。
幻獣界のマシュさまが予知夢うんぬん言ってきて、青ざめてたっけな。
これから起きるであろう出来事を妖精王は時として夢に見る事があるらしい。
事実、マシュさまの言う通り星は消えた。元に戻ったけど……。
「顔が青いぞ?」
「……だから何だってんだ?」
せせら笑うキラリスト。コイツ……!
「その勇者セロスがな、気になっている人に告白した。近い内に結婚式の招待状が来るかもしれんぞ?」
「は?」
「え?」
ヤマミと一緒に間の抜けた顔をしてしまう。
ちょっと待って! そんなの初耳なんだけど!?
「おいおい、知らなかったのか? セロスに好きな人がいて、コソコソ会いに行っているなど周知だったぞ?」
「よく食堂へ行くなとは思っていたが……」
「フン! 大方そんなトコだろうと思っていたぞ」
憮然とキラリストはふんぞり返る。相変わらず偉そうだなぁ。
「告白するまで一悶着あったぞ。それを語ってやろう。まぁ魔王ジャオガから話も聞いたから、それも含めてな……」
「ジャオガさんから!?」
「ああ。一役買ったらしい」
殊勝にキラリストは、これまで起きた事を話してくれるらしい。
オレたちが旅行に行っている間に起きてたらしいな。
「セロスが貴様と勇者ラルゴの対戦を見た辺りから、だな……」
オレとヤマミは息を飲んだ。
あとがき雑談w
キラリストは五年前、悪魔の教皇として猛威を振るったがナッセとヤマミに敗北。そしてマリシャスに命を捧げて『聖絶』を起こした。
しかし『星塔』システムによって吸収されて『魔境』に変換して『大祓祭』を開催した。
そのイベントでマリシャスを倒して、願いで全て死んだ人を生き返らした。
もちろんキラリストも生き返った。
しかしマリシャスからの恩恵を失っており、ただの人間に成り下がった。
罪を償う為に手下と共にドカタに就職して生活する事になった。
キラリスト「ナッセの家は聞いた。さて何が好みだったかな?」
差し入れは何がいいのか、と悩みながらショッピングをしていた。
保存が利くお菓子を選んで「これもいいかな。それも悪くない」と買っていった。
キラリスト「ヤツの舌に合うといいがな……。ククク……」
ある事を聞かせたくてたまらず、割と軽い足取りで帰っていったらしい。
次話『語られる! 一体セロスに何が起きたのか!?』




