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138話「水のブルークア王国! 蘇る記憶!?」

 初めて来るが、こんなに大きくて綺麗な所とは思わなかったぞ。


 澄み切った青空、その下で広大な湖の中心で大きな都市が広がっている。

 そこへの一本橋が延々と続いていて、それはかなり頑強で幅広い一本道で、馬車が行き交いできるほど。しかも歩行している人たちの邪魔にもならない。

 この橋を吊るように空へ伸びる柱が吊りヒモで繋がっているのも壮観。


 オレたちは馬車でその橋を十分近く走っていた。



 たどり着くと大きな白い門が迎えてくれる。壮大で上の方でアーチを描いているその下方から巨大な白い鈴をぶら下げている。

 潜ると真っ白な建物が並んでいる都市が視界に入り、その壁には地層のように模様で彩られていた。

 道路の左右に街灯が等間隔で並び、電灯を覆うランプはクラゲを模している。


「こんな国だったのか……」

「見て!」


 透き通った青い水路が、至る所で引かれている。

 ただの水路と違うのは、それさえ通路の一つとなっていたからだ。人魚がスィ────ッと通り過ぎている。しかも青、赤、緑のカエルも水面の丸い葉っぱでゲコゲコ合唱。更にスライムのような半透明の青い猫が水路に飛び込んでいくのが見える。


 人々の喧騒も明るい。

 貿易の中心となる王国だけあって、色んな種族の交流も豊富だ。


「五年前はそんな明るいものじゃなかったらしいわよ」

「えっ?」

「傲慢な王様が貿易都市という権利を我欲のままに好き放題やってたから、周囲の国と険悪だったの。でもライトミア王国への乗っ取り計画が明るみに出たおかげで王様は強制退位、表に出る事はなく今でも強制労働の刑罰を受けているわ」

「そういや、そういう話あったなー」

「五年前に聞いてたでしょ。まったく……」


 ヤマミのジト目……。

 結婚式の前に、そういう他国事情を聞いてたっけなぁ。第三王女マメードが王位を正式に継承して、現女王として国を治めているんだよな。


 オレたちは馬車を降りて、華やかな街路を歩いて散策。


「さて、まずはオレの家へ帰────……」

「家?」


 ハッとした。

 ヤマミ、ウイル、クックさんがこちらへ不思議そうに注視。

 強烈な違和感に襲われていると、ヤマミが肩を手に置いてくる。


「その家はどこ? 分かるんでしょ?」

「…………行ってみるか」


 ヤマミは頷く。


 いや、初めてこの国へ来たんだよな……?

 なんだか懐かしい感覚がする。あそこの道を通ったら、次の大きな道路で右に曲がって、そして細い道路へしばらく歩けば、小さな家がある。


 おぼろげな感覚のままに辿っていると、大きな建物の影に隠れるようにひっそり古い小さな家があった。昔の時代のままの建造物。

 思わず息を飲む。


「ナッセ?」

「……間違いない。なぜか見慣れているような気がする」

「トーチャン、マジか?」

「ああ……」


 我が家へ帰るかのように自然とオレの足が動き、ドアを開けてしまう。


「誰だね」


 窓際の椅子に座っているお爺さんがいた。

 部屋を見渡せば、知ってるのとはもう変わってしまっていると感覚的に察する。


「何か用かね?」

「あ、いえ……、人違いでした」

「ん? お前は“妖精の白騎士”ナッセだね」

「ああ、そうだけど?」


 まじまじとメガネでこちらを見てくる。


「ふむ。待っててくれんかね」

「あ、ああ……」


 お爺さんは腰を上げて別の部屋へ行ってしまう。

 後ろからヤマミが来て「知ってる人?」と聞いてくるが、オレは首を横に振る。

 ウイルもクックさんもやってきて後ろで待機。


 するとお爺さんが箱を持ってきてきたぞ。


「あったあった。これを見てくれんかね?」


 箱から取り出した古びた写真を見せてくる。思わず目を丸くした!


 魔境クリアで会ったパヤッチと、塔の魔女に負けて昏睡してた時に会ったマロハー、そして塔の魔女の二人と、オレ!!

 ……オレ?? いや十歳ぐらいだけど、間違いなくオレだぞ!?


「え?? なんでオレがそこに???」

「うむ。あまりにもそっくりだったんで、これを思い出したよ」


 呆然してしまう。


「今から三八六年前に、ここで暮らしてたようじゃな」

「さっ、三八六年前!?」


 するとオレの胸元からヒカリが飛び出してきたぞ。


「え~~!? それってヤミザキたちと一緒にここへ来てた時期と重なるじゃん!」


 いや、待って! どの時代の人間!?

 つーかオレも同年代だった!?





 驚きまくりだったので、一旦落ち着いてテーブルを挟んで爺さんと向かい合うように座る。

 ヒカリは寝転がる姿勢のまま浮いている。


「……私はパヤッチ・ミナーナの姉の子孫。シレヌ・ミナーナです」

「パヤッチの姉……?」

「はい。パヤッチ一家がいなくなった後はパヤッチの姉であるチヨ・ミナーナが住み込んで、以降この家を守るようにと子孫代々伝承していました」


「ほええ……」

「この少年の名前は『ナッセ・ミナーナ』です」

「名前まで同じっ!?」


 思わず声を上げてしまった!


「ここへ来れたのはどうしてですか?」

「あ、いや……なんか足が自然とここに」

「ふむ」


 お爺さんは優しい笑顔を見せる。


「ついに来るべき時がやってきたようじゃな……」


 まるで待ってましたと言わんばかりだ。オレは見開いてしまう。

 古びた写真と一緒にあったらしい手紙も取り出してくる。


「もし少年と同じ名前の人が訪れたなら、これを読ませるように伝わっているものです」


 手紙を見せてもらう。

 古びているものの、魔法補強されているのか文字が読める程に保存は効いていた。


 ◇─────────────────────────────◇


 親愛なるナッセへ!


 おかえりなさい。私は叔母であるチヨです。

 本当にゴメンなさい。こんな愚かな私が下らないプライドと嫉妬に心を惑わされた為に、あのような悲劇を起こし一家離散させてしまいました。これは一生ずっと後悔し続ける事となりましょう。


 あなたを殺したのは私です。恨まれても構いません。


 ですが、筋を真っ直ぐ通す強き意思を持った献身的なマロハーと、混沌とした世界を終わらせようと強き意思で戦う弟であるパヤッチ、そして養子であるサラカートとエムネをどうか誇りに思って欲しい。


 あなたの両親である二人は『星塔(スタワー)』システムを構築し、そして復活してきた星獣を封印する為に身を投じて、この世から消えました。

 その尊い犠牲により世界は平和になりました。

 そしてサラカートとエムネは私を強く恨み憎しみ、旅に出てしまいました……。


 彼女たちがどこでどうなったのか分かりませんが、もし会えたら、私の事など忘れて仲良くやっていってください。


 二人の話で、あなたが死んだと聞いた時は強いショックを受けましたが、異世界転生で別の世界に生まれ変わっているかもと希望を持っています。しかし、ここへ戻って帰って来れる保証もありません。

 ですが、万が一ここへ帰れたら、と私は毎日欠かさずずっと祈り続けています。


 生涯あなたの無事を永劫祈り続けます。そして、ごめんなさい! でも、この家族に生まれてくれてありがとう!


 ◇──────────────────────────────◇


 するとオレと手紙を中心に、幾重もの映像が円陣を組んで展開されていった。吹き荒れるように、それらの映像が螺旋を描きながらオレの頭へと吸い込まれていった。

 そして眩い光が暖かくオレを包み込んでいく……。


 視界に映る手紙が(にじ)んてきた。

 心が悲鳴を上げるかのように、激情がこみ上げてきて、頬を熱いものが伝っていく。

 鼻を(すす)って嗚咽(おえつ)していく。


「父さん……! 母さん…………!」


 脳裏にくっきりと浮かんでくる、無かったはずの記憶……。

 いつでも優しい母さんと、厳しくて苦手だった父さん。そしていつも遊びに付き合ってくれたサラ姉さんとエム姉さん。

 ここで十歳になるまで育ってきた。

 才能がないと見られながらも、オレは普通の人として不自由のない生活を送れた。


 ──けど、徐々に王国で混乱が大きくなって騒動になっていった。

 あちこちで戦禍(せんか)が広がっていって、おぞましい暗黒の闇が空を覆い尽くした。恐怖して震えていたが母さんがいつも抱いてくれた。ホッとした。


 そしてチヨ叔母が「あんた、なんてことしたの! よりにもよって! ここに来ないで!!」と怒鳴り散らしていた。

 いつも母さんに意地悪してばっかで、嫌いな人だ!

 いなくなってしまえばいいのに!


 寂しく辛くて、こんな惨めな気持ちを抱きながらこの国を出た。

 普通だった生活が不自由に変わり、冒険は過酷でオレは泣いてばかり。でも母さんとサラ姉さんとエム姉さんがいつもなだめてくれた。



「マリシャスッ!!!」


 途方もない邪悪な威圧。そして空一面を覆うほどの巨大な目。

 まだ十歳だったオレには地獄から這い出てきたかのような悪魔に映っていた。そいつは世界を殺伐にして戦争を起こさせてメチャクチャにしてしまった。

 あちこちで人々は憎しみ合い多くの命が奪われていく。もはや止められない。


 傷付きながらもパヤッチもマロハーもサラカートもエムネも奮戦したが、大きな流れは食い止められなかった。

 悪意と欲だけが際限なく増幅され続けて地獄絵図に変えられようとしていく。


 マリシャスの愉悦な笑いが空に響いている。



「こんな夢も希望のない世界なんて、もう嫌だー!!」


 辛いだけしかなくてオレは泣き叫ぶ。

 それでも母さんは何度でもギュッと抱きしめてくれた。なんの解決にならないかもしれない。だけど希望を抱いて欲しいから懸命に無償の愛を与え続けてくれたのだろう。


 今なら分かる……。だからこそッ…………!



 覚悟を決めた母さんは長い髪を揺らしながら「ゴメンね」と儚げに微笑んでくる。

 オレを父さんに預けて去ろうとしていく……。


「ダメ! いかないで────ッ!! 母さ──────ん!!」

「マロハー! 何をッ!!」

「あなた、この子をよろしく頼みますね……」

「ま、待てッ!! 早まるなッ!!」


 

 母さんは溢れるほどの光を放ち、大地を揺るがすほどの莫大な魔法力を感じさせた。


「私の想いに応えて! 御開帳『運命の鍵』────!!」


 口元から血を垂らし、マロハーは仰け反りながら胸元から輝きが抜け出ていく!

 命を投げ出すようにも思える眩い輝き!


 それは『運命の鍵』!


「絶望だけで終わらせるような厄災にまみれた世界になんかさせない! これからの未来、誰もが希望を抱いて前へ進んで夢を叶えられるような世界を────、叶えて!!」


 最後の輝きを精一杯振り絞るかのような母さんの強き想いと願い!

 思わずオレは涙ぐんで、激情のままに手を伸ばす!!


()()()()いなくなるなんて嫌だぁぁ────!! 母さぁ────んッッ!!」


 気丈にマロハーは最後の力を振り絞り、魔法の大弓で『運命の鍵』を撃ち出す! それは煌びやかな光飛礫をまき散らしながら、一直線と空を翔けていった!

 母さんのひたむきに願った希望の輝きにも見えていた──────!


 ドッ!!


《ぐあああああああああああああああああッッ!!!!》


 これによりマリシャスは退けられ、また地獄にされないよう浄化システムの『星塔(スタワー)』が創られていった。

 それにより、冷たく凍えた世界に暖かい光が差し込んできた。


 オレと父さんは悲哀に暮れ。その側で泣き崩れるサラ姉さんとエム姉さん。



 世界に希望が戻ってきたが、母さん一人だけ消失してしまった……。





 思い出される喪失感……。


 オレたちにこれから希望を抱いて夢を目指して欲しいからこそ、母さんは自らを犠牲にしてでも『運命の鍵』を撃ったんだ!

 その願いが『星塔(スタワー)』を生み出すほどに途方もなく大きすぎたせいか、転生する事もできず、魔王化する事もなく、この世から存在ごと消失せざるを得なくなってしまったんだ……!


「母さん………………っ!」


 腕で顔を隠すようにして涙をぐしぐし拭う。

 こみ上げる悲しい気持ちが収まらない。永遠に会えないという辛さが蘇ってきて、やるせない気持ちで胸がいっぱい。


「トーチャン! ごめんなさああああい!!!」


 ウイルは泣きながらオレに抱きつく。

 おいおい二人抱き合って泣き続けてしまう。

 ヤマミとクックさんとヒカリ、そしてシレヌ爺さんはポカン…………。

あとがき雑談w


作者「書いてて泣くわ……」



 次話『今度はパヤッチがいなくなった真相に迫る……!?』

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