134話「風のヒュング王国! 転化の神殿!?」
険しい山岳で高低差の激しい家が並び、山頂に城を築く険しい国。
それこそが『風のヒュング王国』の全貌だった。
「寒そうなのに、全然寒くねぇ!?」
「大昔からの魔法技術で気圧をコントロールして安定した環境を作り出している。そのおかげね」
「さっすが物知りヤマー!」
北の国と違って暑いので、上着を脱いで収納本にしまった。
山脈の上部分は左右の斜面になっていて、その上で神殿のような白い建物が並んでいる。
そこの国では高低差が大きくて階段になっている通路が多い。
同じ階段状の緑の王国よりも険しい。登ったり降りたりするの大変だ。
「国ごとに変わってるの多いなぞ」
「そうね」
ウイルが息を切らしながら来るのを待っている。
「大丈夫ー?」
クックさんが上半身を傾げて尋ねる。ウイルは「う、うっせーよ」とジト目。
オレが「背負ってやるか?」と聞いてみたら「いい」と断られた。
その辺の食堂で休む事にしたぞ。
山岳地帯だけあって、澄み切った青空に山岳から見下ろせる風景は凄いの一言。
下方で雲が林などを若干覆っている。
まるで天上の世界から見下ろしているかのような清涼感。
「いやぁ、すっげぇな」
パフェなどデザートを味わいながらの風景は格別だ。
ウイルはホッとした様子でジュースを啜っている。
「トーチャン……」
「ん?」
「なんでもねぇ」
なんか目を逸らす。言いたいけど言えない感じ?
ヤマミはじっと見ている。
隠し事しているらしいけど、まぁ道化師が現れた後だから何かあったんだろう。挙動不審になったのは朝からだ。
「まぁいいじゃねぇか。男だって、一つや二つ隠したいもんあるだろうしな」
「それならいいけど」
薄々勘付いているけど、あえて庇ってみる。
ウイルはオレの事をチラチラ見ているが、気づかないフリに終始。
王国中央部まで差し掛かると、円周となっている大きな神殿があったぞ。
周囲に水路が引かれていて、壁から等間隔で滝のように水を落としている。正面は三段の階段で斜面は緩やか。左右に等間隔で柱が並んでいた。
そこを通ると、なんか特別な雰囲気を感じさせた。
「ここが噂のクラスチェンジできる『ミシュル神殿』か!」
「うん……」
「おおー! なんか神聖な雰囲気だっぞー!」
ウイルは俯いている。気にはなったが、たぶん聞いても答えないだろう。
大きな出入り口を通って、中へ入るとゲームの世界へ入ったかのような神殿内部が広々と広がっていた。
中心は高台になっていて、更に中心部は円形の池と灯っている結晶が浮いている。
厳かな神父みてぇなのがいて、並んでいる人を次々と対処しているようだ。
「受付はこちらになります」
カウンターでそう言われ、オレたちも参加登録して『転化の証』をもらった。
四角形で赤い模様に金の紋様が走っている。
オレたちも並んでいる人々の後ろへ並ぶ。二時間くらいかかったが、ついに神父の前までこれた。
「こんにちは。ここは自分のクラスをチェンジできる神聖な儀式ができる所です。なにか望みがありますか?」
緊張して息を呑む。前に出て、神父さんへ頭を下げる。
「クラスチェンジする前に聞いておきたい事があります」
「ふむ。何かね?」
「……オレはスペリオルクラスの『鍵祈手』です」
神父さんは少し驚き、手をかざすと「ふむ、確かにその通りですね」と判別されたぞ。
後方でなんか驚きの声が聞こえる。
「他の、例えばオレは『剣士』へチェンジできるのでしょうか?」
「無理です」
キッパリかよ……。
「やっぱかぁ……」
「こちらからも聞いていいでしょうか?」
「ん、ああ?」
「なぜ、スペリオルクラスから通常クラスへチェンジしたいのでしょうか? 確かに『鍵祈手』は数奇な運命を持つと聞きますが、メリットの方が大きい」
緊張し、意を決した。
実はヒカリっていう女の人が転身した『運命の鍵』を開放する為には、自分が『鍵祈手』を辞める必要があるのではないかという事。
そしてそれができれば『運命の鍵』は摘出できるだろうと思った事。
世界旅行しているのも、これが目的でもあった事。
……それらを告白した。
「ふぅむ……。そういう前例は聞いた事がないので分かりかねますが、スペリオルクラスは我々の力でも変える事はできません。ただ『勇者』は武勇の女神の権能ですので、望めば解除してもらう事はできるようです」
さっきまで緊張してたのが解れて、落胆と肩を落とす。
「残念ながら、私ができるのは通常クラスの枠内で変更できるってだけです」
「無理を言ってすまなかったな」
「いえ」
頭を下げて、去ろうとすると「お待ちください」と呼び止められた。
「……アメリ! この者を客間に連れていきなさい!」
なんとシスターを呼びつけて、オレたちはあちこちを通って客間となる部屋へ入らされた。
静かで広い。ソファーが囲むようになっている。
シスターは「ごゆっくりしてください」と頭を下げて、ドアを閉めていった。
ゆっくりしているとジュースなど差し入れをくださった。
しばらく待っていると、なんか知らん偉い人がやってきたぞ。
「私がこの『ミシュル神殿』の最高責任者、法王ディアマです。よろしくお願いします」
「そちらこそよろしくお願いします。ディアマ様」
「うむ」
一礼するとオレとは反対側のソファーへ腰掛けた。
「お主がスペリオルクラスの『鍵祈手』ですな」
「はい」
「……事情は聞きました。『運命の鍵』を自由に解き放つ為に奔走しているとか」
「はい」
ディアマ法王は腕を組んで「ふむ」と間を置く。
「でしたら方法はないワケではありません」
「本当ですか?」
オレとヤマミは内心驚く。
「確か『運命の鍵』はなんでも願いを叶える神器。ただし命を代償とする。その代償がネックであるならば、アレがございます。こちらに参っていただけましょうか?」
ディアマ法王は立ち上がり、オレたちもそれに続く。
客間を出て、細長い通路をあちこち巡っていくと薄暗くなっていく。なんだかドキドキする。今度は下まで続く長い長い階段を下りていく。
淡々とする法王の背中を見ながら、少し不安に思ってしまう。
果てに扉があって開くと、四方の壁に紋様の彫刻が刻まれている広場。そして浮いているガラスケースの中にハート型の赤い結晶が浮いている。
「我々が厳重に保管している極秘の秘宝。これこそが『命の結晶』です」
ディアマ法王は丁重な仕草で、浮いているハート型の結晶へ掌で差す。
「あなた方がS級冒険者でもなければ見せる事は叶いません」
「わざわざ、ありがとうです……」
「して、説明しておきましょう。この秘宝は、持ち主の命が失われるのを肩代わりにして砕け散る効力を持っています」
ははぁ、これで願いを叶える代償を肩代わりするって事か!
「これならば望む事が可能なのでしょうが……、残念ながら差し上げる事は叶わぬのです。可能性の一つとして見せただけで、授ける権限はこちらにありません」
そう首を振る法王に、オレは収納本をポンと出現させる。
「こっちも秘宝持っているんで、交換とかできないでしょうか?」
「取引ですか……?」
「ああ」
──そう、実は『大祓祭』で授かった秘宝があるのだ。一つ目は『六柱蒼』の武具が一つ『蒼明剣』。
二つ目はタッドがくれた『無断の首飾り』。
そして不死鳥を倒した際にもらえるはずの秘宝。それはマリシャス打倒後に塔の魔女から授けてもらった。
それは三つの秘宝。オレは合計で秘宝を五つ持っている事になる。
「ヤマミ。いいか?」
「うん……」
ヤマミが頷いてくれる。
収納本から、例の三つの秘宝を取り出した。法王は目を丸くする。
「そ、それは正しく秘宝ッ!?」
一つ目、『極星盤』無限に魔法力を蓄えられる。紋様が光る黒い立法四角形。
二つ目、『刻の金貨』一日三回だけ五分前の時間に巻き戻せる。時計の紋様がある金貨。
三つ目、『界渡りの鏡門』好きな並行世界へ一日一度だけ行ける。滞在時間は約三時間。形状はスタンドミラー。
そういう説明をしてみた。
「これと交換とかどうでしょうか?」
「ひっ、ひええっ!! それは恐れ多い!! どれも究極の秘宝じゃありませんかっ!!」
これまで落ち着き払っていた法王が慌てふためいている。ビビってる。
とにかく法王一人の判断で決められない為、とりあえずお引き取り願われた。そしてすぐさま王城へ連れて行かれた。
その謁見の間の前で勇者が待っていた。
長身細身の男。センター分けのロン毛を後ろに結んでいる銀髪。尖っている三角の目、鼻、アゴが特徴的だ。胸元を開けた白い衣服。ツバメみたいな白いマント。
「お久しぶりです。ナッセ殿」
「あ! おめぇは勇者バベナスさん!!」
「覚えてくれて光栄です」
丁重に頭を下げてきた。
「お待ちしていました。ではどうぞ」
扉が開かれて、王が座する謁見の間へ通された。そこで“風間の王者”ナムベジ王が「ようこそ」と微笑んでくる。
思慮深さが窺える王様。
その横で美人の王妃。そして直属騎士が六人並んでいた。並々ならぬ強さが窺える。
「話が聞いておる。『命の結晶』とそなたの秘宝を交換したいとの事じゃな」
「はい……」
王様も困惑した顔で腕を組む。
「ふむ。ではお主の秘宝とやらを見せてみよ」
「どうぞです……」
オレは三つの秘宝を見せて、説明もした。
すると「うええええっ!!?」と驚きのリアクションが周囲に伝播。慌てまくってザワザワがしばらく止まなかったぞ。
「待て待てっ! 秘宝一つだけでも大変貴重じゃぞっ! 何故、取引などに?」
「済みません……。でも使う機会がないかなーっと」
「そんな理由か! まったく嘆かわしい……!」
ため息をついて王様は呆れかえる。勇者バベナスさん驚いたまま、頬に汗をかいている。
そんなにすごい秘宝だったんか……。今まで知らんかった。
「どれも国の命運を左右する秘宝じゃ! 悪用すれば歴史さえ変わりかねん!!」
「ええっ!?」
「そんな大変なモン、我々に背負わせる気かー!」
珍しく感情的に言われ、仰け反るしかない……。
あとがき雑談w
恐ろしくチートな秘宝三つを、ナッセたちは所有している。
ナムベジ王「本当に一度も使った事がないのか?」
ナッセ「ああ」
バベナス「し……信じられん……!」
●『極星盤』無限に魔法力を蓄えられる。紋様が光る黒い立法四角形。
使用例:MPの多いナッセが毎日補充し続ければ恐ろしい量に貯められる。
●『刻の金貨』一日三回だけ五分前の時間に巻き戻せる。一時間のインターバルがある。時計の紋様がある金貨。
使用例:起こるであろう事故を未然に防ぐ。ガチャを三回までやり直せる。
●『界渡りの鏡門』好きな並行世界へ一日一度だけ行ける。使用者の滞在時間は約三時間。形状はスタンドミラー。
使用例:アイテムを持ち帰れる。人物もしくは別の自分を連れて帰れる。
超難易度ダンジョンのクリア報酬なので、いずれも反則級なのだ!!
ただ、残念な事にナッセたちが無欲だった為、未使用!
次話『結局断られてしまった! どうしよう!』




