132話「期待の勇者シオンに技を教える!?」
近くのホテルでオレたちは泊まった。
『アオレンシャ・ホテル』
オレたちの世界で言えば三階建ての寺みたいな立派な宿屋。
瓦ではなく青い屋根だが、形状は寺のと酷似。そして周囲にベランダのように剥き出しの外周通路がある。
内部もか、と思ったらそこは普通にホテルだった。
洋風のベッド、テーブル、イス、ソファー、他のとあんま変わんない。
「多分、異世界転生した人が建てたのかもね。ここ新しいし」
「エレナのように何人か転生かぁ」
大窓は頑丈なガラスで、積雪に耐えられるようになっている。
透明度が高く、町や山脈などが一望できるぞ。
「……改めて言われてみればグサッとくるな」
「“化け物”ね……」
シオンが泣きついた後──!
シオンはシュンとした様子でオレたちに「ゴメンなさい」と謝ってくれた。
オレは「まぁ気にすんな」と言ったが、ヤマミが冷めた目で前に出る。
「良かったわね。甘い人で」
「えっ?」
「もしナッセが「身を挺して助けたのに罵られるなんて、人族など助ける価値がないんだ」って反感を抱いたら、どうなってたかしら?」
シオンはブルッと寒気がして強張った。
「ああああ! ゴメンなさい! ゴメンなさ~い!!」
「ええ! いいよ! そんな謝んなくっても!」
「いいえ! そんな酷い事言った俺が悪いんですっ!」
突然、ペコペコと頭を下げてきて驚かされた。
ラルゴたちもビックリしてた。
「あのさ、ヤマミ言いすぎじゃね」
「……あんたね。元はどこから来たか忘れたの? 地獄のような並行世界からやってきたんでしょ? あそこは笑いながらもっと酷い悪口を言ってた人が多いんでしょう?」
ラルゴは戸惑いながら「ち、チキューとはそういう所なのか?」と聞いてきた。
オレは「いやいや」と首を振る。
改めて説明……。
実は並行世界が数え切れないくらいあって、ポジ濃度とネガ濃度の比率がそれぞれで異なると前置き。
オレはネガ濃度の深い並行世界から渡ってきた人間。
そのネガ濃度の深い世界では、笑って馬鹿にしたり、殺伐と罵倒しあうような地獄だった事などを伝えた。
「……オレはもっと酷い悪口を聞き続けて育ってきた。弱者を喜んでいたぶる残虐なイジメも多かった。それに比べればシオンは、勇者がやるべきって理念の下で罵るのは可愛い方だぞ」
シオンは神妙な顔で「そ、そうだったんですか……」と俯く。
ラルゴたちもポカンとしていた。
並行世界の存在もさる事ながら、地獄のような世界なんて夢にも思わなかったのだろう。
「見ててくれ。変身する」
足元に花畑を広げ、銀髪がロングに伸び、目の虹彩に星マークが浮かび、背中から六つの羽が浮き出す。
神秘的なフォースがボウッと漏れ出てくる。
威圧的ではなく、垂れ流ししている状態だから周囲に影響はない。
ポコポコと泡を吹くように、足元の花畑が咲き乱れ続けている。
「うへぁ……」
「オレが化け物なのは否定しない」
シオンは呆然。……けれど恐れはない。
「でも、この浄化がなかったら詰んでたポイントは多かったと思う。大魔王も倒せなかっただろうな」
変身を解き、ふうと一息。
あっけらかんに「まぁ、そんなワケだ」と笑ってみせる。それで解散。
そう流したが、やはり「化け物!」は気にするなぁ……。
ホテルの一室でヤマミたちと一緒にくつろいでいた。
するとコンコンとノックしてきた。今日は誰とも用事は……?
開くとシオンが一人で来ていた。
「先生!!」
オレは「え?」と目を丸くして硬直。ウイルはブスッとする。
「えーっと、ラルゴさんたちから何か?」
「いえ! いろいろ話を聞きたいなと思って自分だけで!」
「はぁ……」
姿勢を正して畏まっている。
「ヤマミ?」「……しょうがないわね」
オレが振り向いて尋ねると、ヤマミはため息をつきつつも許してくれた。
シオンに入室してもらった。
「大魔王を倒した時とか……聞かせてもらっていいですか?」
「……ん、ああ?」
晩飯まで時間があるからと、ウイルに語ったのと変わらない内容を話した。
地獄のような並行世界から何度も転生を繰り返して、ここまで来た。ヤマミといろいろあった事、師匠に助けてもらったり教えてもらったりした事も含め……。
そして特別なクラス『鍵祈手』と魔王化の概念。
現世で人造人間や四首領ヤミザキなどの戦争で、とんでもない絶望で挫けそうになったりしたけど頑張って奇跡を起こして事を収めたまでを、シオンに聞かせた。
すると申し訳なくて頭を下げてくる。
「……そうと知らずに俺はっ!」
「もういいって」
ふとシオンがモジモジしながら、上目遣いでこちらを見てくる。
「先生、俺の技を見てもらっていいですか?」
「ん? いいけど……?」
国外に出て、エンカウントと同様に戦闘空間に切り替えた。
シオンは飛び上がって、オーラを溜めた剣を大岩に向かって振り下ろす!
「ドラゴン・クラッシュアアアア!!!」
ただの炸裂剣を食らわして大岩を木っ端微塵にした。
安易なネーミングにオレは呆然してしまったぞ。
まぁドラゴンとかカッコイイから技名につけたくなる気持ちは分からんでもないがな。
「と、ドラゴン殺法剣術と名づけて頑張っています!」
「……それ、カッコイイって思ってんのか?」
「へ?」
しばらくした後、恥ずかしくなってワタワタ手を振って「仮の、仮のだから!」と必死に否定。
まいったな。威力値一〇万もあるのに、炸裂剣で叩くだけの脳筋とは……。
たぶんラルゴが基礎を教えたんだろうが、技までは教えてもらってないらしいな。
思えば誰もが自分独自の技を編み出しているんだっけな。
……セロスは継承してそうだから違うっぽいが。
「よし! 同じドラゴンなら、カッコいい剣術を知ってるぞ」
「え? どんなのですか?」
ごめん。本家さん技パクるぞ。
一息を付いて、マジ顔でシオンに向き合いながら、星光の剣を形成。
「昇龍秘剣流……!」キリッ!
「おおお! なんか風情ありますね!」
「……ヤマミ、なんかブラックローズ・アバターで悪人とか出せねぇ?」
「分かったわ」
ヤマミもナッセのように花畑を広げて、六つの翼を浮かせてきて、シオンは驚く。
真っ黒な印象で闇の妖精って分かる風貌。
頭上に巨大な黒薔薇が放射状の閃光を散らす。その黒薔薇が咲くと、中からオカマサが出てきた。
「これまで会ったヤツを『分霊』させて召喚できる能力だ」
「悪そうなヤツですね!」
「ああ。隕石落として滅ぼそうとしたヤツだぞ」
オカマサが悪辣な顔で笑い、二刀流のナイフを逆手に構えてくる。
オレは星光の剣で構え、気合を入れる。
「はあっ!!」
全身からエーテルを吹き上げて、それを造形付加で練り上げて龍を象らせていく。
大地を震わせるほど激しく猛る『エーテ龍』を再現したぞ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「これが『龍魂気』だぞ!」
「おおお! カッコいい!!」
ヤマミは呆れつつも、オカマサに「ナッセを襲って」と命令。
「まずは一つ目! 昇龍秘剣流! 九頭龍刃!!」
襲いかかってくるオカマサに一太刀を浴びせる。すると命中した瞬間に九頭もの猛る龍が四方八方へと飛び去って衝撃波を拡げつつ激しい地響きを引き起こした。
対象は「ぎえー!」と跡形もなく消し飛ぶ。
「被弾させて九箇所に裂く恐るべき技だぞ。数は増減できる」
「す、すげぇ!」
「次!」
二人目のオカマサは無数のナイフを連射して、弾幕を張ってくる。
しかも器用に四方八方から弾幕が襲いかかるように軌道を変えてきたぞ。逃げ場はない。
オレは「二つ目! まずは『察知』を広げて死角をなくし」とキリモミ回転するように剣を振り回す事で、龍がとぐろを巻いて全ての弾幕を弾いていく。
「昇龍秘剣流! 龍旋刃!!」
「おおお!! 全て防いだ!!」
「これが対全方位完全防御技だぞ」
他にもいろいろ技を見せてやった。城路本家技、結構豊富だなぞ。
「こっから見せるは最終奥義だぞ」
シオンはドキドキと目を凝らす。
最後はクラッシュオーガっていう、巨大な異形のバケモノを召喚してくれた。そこまでアバター召喚できるのも凄いが、おあつらえ向きの相手だぞ。
クラッシュオーガは「ごおおおおおおおッ!!」と吠えながら襲いかかってくる。
「昇龍秘剣流奥義……! 無双天龍刃ッ!!」
オレは獰猛なエーテ龍を身に纏いながら、初速で超神速に達して「おおおおおおおおッ!!」と気合いの一太刀をクラッシュオーガに浴びせた!!
「ガハァァァッ!!」
クラッシュオーガは見開き、盛大な吐血をぶちまけた。
エーテ龍がクラッシュオーガを噛み砕きながら、暴れ回るように長い身をくねらしてあちこち超速で森林を薙ぎ散らし、連ねる山脈を貫き、地平線の彼方でズッドオオオォォォンと天高く爆煙を噴き上げた!
その余波で大地を震撼させていく。ズズズズズズ……!!
「……とまぁ、おまえなら再現できるはずだ。コツは……」
ボソボソとシオンに耳打ちして教え込んだ。
試してもらった結果、本当に再現できた。後は自分の技に落とし込めるように鍛え上げていくだけだな。
《城路本家が知ったらどうするわけ?》
《なーに! バレっこねぇさ! こっち異世界だし》
ジト目のヤマミに「あはは」と笑ってごまかす。
《それにシオンに師匠がいなかったせいで脳筋だけど、今はでぇじょうぶだ。筋がいい。見事に昇華させてくれるさ。なんたって期待の勇者だしな》
滞在して二日目の夜、そろそろ別の国へ行こうとマップを広げていたら見落としていた事に気づいた。
「あああ!! やっぱり~~!!」
「まったく……」
地図に絶叫するしかなかった。ヤマミは呆れる。
そう、ゲームのマップのように北の果てへ行けば南の果てから出てくるワケじゃないのだ。この星は球体。なので北へ行っても光のライトミア王国の大陸へ帰ってくるだけだぞ。
し、しまった~~!! 誤算だ~~!!
「やぁやぁ、それでしたらボクが運んで差し上げましょ~か?」
「え? あ、おめぇは!?」
振り向けば、例のあの道化師の男が大窓にいたぞっ!?
あとがき雑談w
ふとシオンはナッセが『昇龍秘剣流』を全く使わないのに疑問を持った。
シオン「なんで自分で使わないんですか? 強いのに?」
ナッセ「うん、まぁ。元の使い手が幼女スキーなロリコンだしなぁ……」
シオン「うわぁ……、そりゃ引きますよね!」
ナッセ「ま、まぁ、そうだよなー!」
実は先祖である城路辰衛門は、この一部始終を見ていたぞ。
もし繰り出した本家技がニセモノなら、天罰を下すのだ。
辰衛門「ううむ! どれも本家技を完璧以上に再現してるし、手が出せん……!」
次話『甘い囁き!? 道化師の企み!』




