131話「勇者ラルゴの引退試合!?」
ラルゴがオレたちに会わせたい人物。それは後継者となる、新しい勇者だった。
銀髪の青年で背中に剣を背負っている。
顔つきからして、若いゆえにひねくれてそうだ。
この青年は“氷河の勇者”シオン。
「なんなんですか? 集合するからと何事かと思えば……、この男たちと試合でもするのか? 貧相すぎてサンドバッグにもならなさそうだ」
「コラ! この方たちが五年前の大災厄を倒した英雄だぞ」
「こんな素朴な男かが?」
「見た目で判断するな、と言ったぞ?」
ラティオの叱責にも関わらず、シオンは疑り深そうな顔でジロジロ見てくる。
思わず仰け反りそうになる。
まさか教育してくれって押し付けられるのか? めんどくせぇ……。
と思ってたら、シオンは背中から抜刀してオレに斬りかかってきた!
「……えー」
確かに聖剣だし、太刀筋も悪くねぇ。
オレは人差し指と中指で挟んで受け止めていた。本当は親指と人差し指で摘む方がいいんだけど、今はこの程度でもいいか。
「あのさぁ、いきなり斬り込むなんて酷くねぇ?」
「ふんぎぎ……!」
押しても引いても全然ビクともしないので、シオンは顔を真っ赤にしている。
結構な力入れてんのが分かるが、ちっと弱いかな。
この程度じゃヤマミはおろかクックさんにも歯が立たないか。
ため息をつくラルゴ。首を振るセレナ。額に手を当てるラティオ。沈黙するエルグランド。
「離せぇー!」
引き抜こうとプルプル震えて必死になっている。
同情して離してやると勝手に吹っ飛んで、壁際の樽に埋もれる。どがっしゃーん!
「なんで離すんだよっ!!」
「離せって言われたからさ……」
「てんめぇえ~~!」
勢いよく食ってかかるシオンの頭上に、ラティオのゲンコツが落ちた。
ガツンと音がして、こっちも竦んだぞ。
「お前が悪い!」
シオンはしゃがみ込むほど頭を抱え込んで涙目。見てて痛そー。
呆れるラルゴは一息をつく。そしてオレへ見やる。
「……今日でワシは引退する。だから最後に“妖精の白騎士”ナッセ殿に試合を申し込みたい。受けてくれるか?」
落ち着いて言い放つラルゴに、思わず「えっ!?」とビックリしたぞ。
シオンも「えええええっ!!?」と大仰に飛び上がった。
特別な権限により、オレは勇者ラルゴと対戦する事になった。
それに伴って、これまで仮想対戦やそれを観戦していた人たちがこの一戦に注目する事になった。
仮想戦場は雪原。
雪をかぶった針葉樹があちこち点在している。
ラルゴと真剣な面持ちで見据え合う。
「最後の頼みを聞いてくれて感謝する」
「まぁ……」
ラルゴは、もう安心したのだ。
マリシャスの件も片付き、しばし人界の平和は長く続くだろう。
もはや厳しい戦いを生き抜いてきた過去は遠のいていくのみ。
ラルゴは聖剣ゲレカシレオと呼ばれる槍をスラリと構え、獲物を見定める猛獣のような威圧を漲らせる。
オレも太陽の剣を生成し、身構えていく。
お互い威圧を発して徐々に大地が震え上がっていった。ゴゴゴゴ……!!
「これが最後となるワシの戦い様だッ!!」
「ああ。受けて立つぞッ!」
同時に地を蹴って、得物を交差してガッキィィンと周囲を震わせる衝撃波を爆ぜさせた!
グワンっと剥離した雪塊が粉々に吹き飛んでいった。
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
「ぬうおおおおおおおおおおッ!!」
剣と槍が幾重の軌跡を描き、激しく交錯し続けていく。
甲高い衝突音が爆ぜるように連鎖し続け、お互いに拮抗した剣戟を披露し続ける。弾かれ合って間合いが離れ、共に着地。
額に汗を垂らしつつ、ラルゴは笑む。
「この程度か?」
「まだまだこれからッ!」
「行くぞッ!! スマッシュブローッ!!」
ラルゴはエネルギーの塊を纏った槍を突き出し、音速を超えて雪原に一直線の飛沫を噴き上げて迫ってくる。
「スパークッ!!」
オレは抜刀するかのような最速の剣閃を放ち、ラルゴと交差し爆ぜた衝撃音と共に通り過ぎていく。ギキィンッ!!
お互い鋭い眼光で振り返って、再び得物を交差させて激突。
その影響で地面が砕けて周囲に吹き飛ぶ。
「まだまだッ!」
徹底的に剣戟を繰り出すも、ラルゴは憤怒の表情で捌ききって重い一撃をこちらに繰り出してくる。
跳躍してかわしつつ、太陽の剣を振り下ろして「フォール!!」と流星のようにラルゴへ急降下!!
ズッドオオォォォォン!!
土砂混じりの雪飛沫を噴き上げて、巨大なクレーターに陥没!
しかしラルゴが槍をかざして受け止めきっていた。即座に薙ぎ払われてオレは後方へ宙返りして着地しつつ滑っていく。雪飛沫が舞う。
「……ふう」
やっぱ歴戦の勇者ってだけあって強ぇーな! 競り合いにも負けてねぇ!
なぜだかラルゴは嬉しそうに笑んでくる。穏やかで安心しきった顔だ。
「お前はこれから伸びるのであろうな……」
「ラルゴさん?」
「ワシは人間だ。これで精一杯。もう伸び代は皆無。しかしお前はまだ若く才気溢れている。もっともっと強くなるだろうな。現に五年前より更に強くなっていた」
鋭い眼光に戻してラルゴは駆け出し、槍を振るって幾重の軌跡を描く。
オレは念力組手などで捌ききっていく。隙アリと斬り込むが、ラルゴが素早く飛び上がって同時に槍を付き下ろしてくる。回避が間に合わない!
即座にオレは全身から光を放つ!
「シャイニングロードッ!」
光の軌跡を描いて、間一髪抜け出せたオレは雪原を滑りながら超高速で縦横無尽に駆け巡っていく。
光魔法を自身に『形態』させる事で、刹那の世界へ入る。そして全ての技が別次元に強化されるぞ。
「スラッシュ!!」
太陽の剣で遠距離からラルゴを薙ぎ払う、が槍で弾かれる。
流星を操るように次々と四方八方から斬り込むも、ことごとく捌かれていく。しかし次第に防ぎきれずラルゴはいくつかの手傷を負い、血飛沫が吹く。
「くう……っ!」
この時点で形勢は決まってたのかもしれない……。
ラルゴの集中力が目に見えて衰えていくようで、もはやオレのスピードに追いつけなくなっている。
「情けをかけるなッ! 全力で来いッ!」
「あ、ああ!!」
ちょっと躊躇っていたが、ラルゴの剣幕に真剣に向き合う事にした。
容赦ない剣戟で防戦一方に追い込み、更に押し切ろうと攻め立てる。ラルゴは苦しみながらも僅かに嬉しそうに笑む。
オレの猛攻を凌げなくなった隙を突いて「ライズ」で宙に浮かせ、遠距離「フォール」で叩き落とす。落下して雪飛沫が噴き上げられた。
それでも憤怒とラルゴは立ち上がって「うおあああああああ!!」とオレへ槍を振るう。
光子を集めて生成した銀河の剣を振るう!
「これがオレの全身全霊だーッ! ギャラクシィ・シャインスパークッ!!」
「うおおおおおおおッ!?」
渾身の力を込めて振るった最強最速の剣閃が、聖剣を砕きラルゴを上空へ吹き飛ばし、服などの破片を舞い散らせた!
ラルゴは「がはあっ!!」と吐血────!
棺桶化の爆発が空で煌めいた。ドン!
哀愁を感じながらオレは薙ぎ払ったままの姿勢で佇む。
ラルゴはもしかしたら結果は分かっていたのかもしれない……。
それでも一区切りしたく思い、オレへ挑んだ。
そして後に続く平和な世で、余生を静かに過ごすつもりだろう。
仮想戦場から帰ってきて、ラルゴと握手した。
「やはり負けたか。さすがに強いな」
「ううん。オレはもう────」
「この化け物が!!」
突然、割り込んできたシオンの罵倒。
オレを憎々しげに睨み息を切らす。少し涙が出ている。
「お前のような化け物なんかに、ラルゴは絶対負けるはずなーいッ!!」
鋭く突き刺してくる言葉のトゲ。
ラルゴに言いかけたのだが、オレ自身は「人外だから」と自白しようとしていた。
人間界で振るうには異常な力。
鍛えれば鍛えるほど伸びていく潜在力。分かっていた。
「シオン……」
「俺をそう呼ぶな! 化け物!」
沈んだように俯くしかない。するとウイルがすっ飛んでくる。
「トーチャンを化け物呼ばわりすんなー!! このエセ勇者ッ!!」
「なっ、なんだとぉ~~!! もっぺん言ってみろや!」
「何度でも言ってやる!! そんなの勇者じゃないッ!! 勇者は悪口なんて言うもんかッ!」
涙ぐんで吠えるウイルに驚かされた。
まさか庇われるとは思ってなかった。ヤマミもクックさんも驚きを隠せない。
「なんだとぉ~~~~!!」
十歳であるウイルの胸ぐらを激昂のままに掴むが、その手首をラティオが強く握り締めて離させた。
「ぐあッ!」
「子どもに手をあげる勇者がいるかッ!」
怒ったラティオが、シオンを乱暴に投げた。ドッターンと痛そうな衝撃音が響き渡る。
尻餅をついたまま「ひっ!」と怯えるシオン。
「ラルゴがどんな想いで引退試合をしたか分かるかッ!?」
ラティオがズンズン歩み寄ってくる度に、怯えたシオンは尻餅をついたまま後しざりしていく。
しかしそんなラティオの肩を掴んで引き止めるラルゴ、首を振る。ラティオはため息。
ラルゴは屈んで、シオンと同じ目線に落とす。
「お前が言う化け物に、この人界は救われた。五年前の事は聞いているだろう?」
「……うん」
「ナッセたちは自分の存在が消える事も厭わずマリシャスを打倒し世界を救ったのだ。そのおかげで我々はこうして平和な世で暮らせている。お前は勇者以外が救ったなどと納得しないだろうがな……」
ラルゴが涙ぐむシオンの頭を撫でていく。
「ワシが救い、ナッセたちが救い、そして今度はお前が救うのだ」
「お、俺が……?」
「そうやって世代交代していくのだとワシは思っておる。だからナッセに挑戦した。同じ英雄として、な。そしてお前にも期待しているのだ」
「俺なんかに期待を……!?」
「うむ、後を頼んだぞ! 期待の勇者シオン! ははは」
大らかに笑うラルゴに肩をポンポンと叩かれる。
シオンは震え、憧れのラルゴに泣きついた。うわぁ~~~~ん!
そしてオレは、嗚咽するウイルを優しく抱きしめた。
まさか庇ってくれるとは思わなかったけど、すげー嬉しいぞ。
「ありがとな……。ウイル」
「うん……」
ギュッとオレに抱きつく。
あとがき雑談w
いろいろ落ち着いた後の話……。
セレナ「ラルゴだって同じじゃん! 前の勇者に噛み付いてたでしょ~!」
ラルゴ「うっ……」
シオンもビックリ!
ラティオ「なるほどな。シオンと似た事があったワケか」
エルグランド「へー、そうなのか?」
セレナ「そ~なのよ~! あの頃、ガキ大将だったからね~! オレより強い人はいねぇって吠えてたしね~」
ラルゴ「こ、この辺にしてくれ。みんなの見る目が変わる。セレナ頼む。昔の事言わないでくれっ!」
マトモな人格者に見えてたけど、黒歴史あったのね……。
ナッセとシオンは苦笑いするしかなかった。たはは!
次話『シオンがナッセに!? そして例の道化が??』




