122話「大精霊さまの語らい! 負の遺産!」
『火の大精霊イフガープ』
火のルビレッド王国を守護する大精霊。
赤髪で筋肉隆々の褐色肌。炎のロングコートを纏う大男。そして肩に乗せている大剣。
塔の魔女や大精霊ドリアとも対等の力を持つ。
オレとヤマミ、ウイル、クックさんは、クーレロとマブポルトに連れられて地下の精霊の祭壇まで来て、彼と会った。
「初めまして。オレは──……」
《いや、紹介は要らぬ。ナッセであろう? そこのヤマミもクックさんも知っている。そして……、お前はマリシャスだな!》
睨みを利かせ凄むような声に、ウイルは竦んで後すざり。
イフガープは怒りに満ちていて、黒い影に覆われているほど威圧が漏れ出ている。
オレは険しい顔で、腕を横に伸ばしウイルを庇う。
《貴様がやってきた事は許されざる行為。そこな若き妖精王に『無かった事』にされようとも、俺様は決して許さん! 今すぐこの場で引き裂いて永劫の地獄へ突き落としてやろう!!》
クーレロもマブポルトも冷ややかな視線を見せている。
正直、オレは緊迫して冷や汗をかいている。
ヤマミもクックさんも味方になってくれるとは言え、ここではアウェーだ。
《……と、人族なら言うであろうな》
穏やかな空気になっていって、ポカンとさせられる。
ウイルはぺたんと腰を落とし呆ける。
さっきとは裏腹にイフガープは《脅かしてスマンな》と、にっこり微笑む
「どういう……?」
肝を冷やされたが、確かに殺意は全く見せていない。
ちょっと子どもを怖がらせる程度の、優しい脅しをしてきたに過ぎない。塔の魔女に匹敵する彼が本気で威圧を放てば、ただの人間なぞショック死させていただろう。
《若き妖精王が重いリスクを負ってまで、マリシャスの悪行と行為を祓った。それを俺様が「許さん」とタダをこねても赤っ恥かくだけに過ぎん》
……重いリスク。確かに一歩間違えれば取り返しのつかない事になってた。
クックさんを一人ぼっちにしてしまったかもしれねぇ。
それを覚悟して戦った功績を、彼は無碍にできないと言っているようだ。
「ってか、人間ならって?」
《うむ。私情のままに突っ走りやすいからな。個体レベルのケンカから、国家間の戦争と、争いは幾度なく起こってきた。それ故に闘争の歴史が絶えない。これからもそんな愚挙を未来永劫繰り返すであろうな……》
イフガープ長年、国を見てきて思ってたんだろうか?
悟ったような落ち着きが窺える。
《それに比べれば、マリシャスの悪行など、その中の一つに過ぎない》
「そうなのか……?」
《うむ。それに、今回のマリシャスがそうだったように、大きな大災厄も度々発生する。人間界で言う台風のようなものだ。いちいち個体の悪行に目くじらをたてても仕方ない》
ウイルは息を飲んだ。
自分が概念として猛威を振るってきた事さえ、これまでに何度も起きた災厄の一つでしかないとスケールの違いを思い知らされた。
オレはそんなウイルの肩に手を置いて、こちらに寄せる。
「あの……イフガープさま。マリシャスみてぇなのがまた?」
《さよう。今回は超巨大だったが、数億年以上の周期で起こる事があるのだ。人族やゴブリンなど低級生物の精神から生じる怨念や欲望が長い年月を経て集合していって、知能と意思が育ってきて災厄の嵐を撒き散らす事象がな》
「……初めて聞いたわ」
「うーむむ! 第二、第三のマリシャスが出て来るって事かー!」
《人間はともかく、うぬら若き上位生命体は知っておくべきであろう》
オレは絶句した……。
クーレロとマブポルトは動じていないから、もう知ってるんだろうな。
《それとウイルとやらを許さないであげるのは、怨恨の類からではない。戒めだ》
「い、戒め?」
《悪行の後に犠牲者が出るは必然。それでも許してしまえば犠牲者は報われん。許さないであげるのは犠牲者の無念を汲んで、加害者に刻む戒め。心せよ、汝は本来なら許されぬ存在として生きている事を!》
ウイルはブルッと身震いする。
悪事を働いている当時はなんとも思わなかったが、今初めて罪悪が重く感じた。
オレはそれを汲み取って、ウイルを抱きしめる。
強張っていた体が解けていくのを感じる。安心したのだ。この子はもうオレの息子。
これから寄り添って生きていく覚悟はある。
《……親を大切にな》
抱きしめているオレを押しのけて、ウイルは頭を下げた。
「い、今まで悪い事して、ごめんなさい……!」
《そういう殊勝な心がけがあれば、充分だろう。もしそれを忘れるならば覚悟せよ》
「はい……!」
涙ぐんでいるもウイルは頷いた。
イフガープはにっこり微笑む。さすが大精霊さまだなぁ……。
罪悪を悔いて謝罪するのは相当勇気がいる。例え、謝罪されても許せない人は多い。それと向き合うのは並大抵の覚悟ではできない。
もしウイルが邪険なままだったら話は違っていたなぞ。
《それから、一つ依頼しておこうか》
「え? なんぞ??」
思い出したようにイフガープがこちらへ振り向く。
《先ほど怨念や欲望が集まるくだりは話したろう?》
「また来るっていうのか??」
《いや……、それに近い事が火の国でも起きていた。今まで俺様が引きこもって抑えてきたが、それを解放する。負とはいえ、もはや時代遅れの遺産を後世に残すワケにはいくまい》
「何を解放するっていうの?」
《女性至上主義の政策を始めた初代女王の悪霊だ!》
オレたちは驚愕した!
《そいつをやっつけてくれ。それが依頼だ。報酬はウイルへの赦しでいいか?》
モニターがブンと浮かんできた。
イフガープはモニターの映像を織り交ぜつつ説明を始めた。
《────女性至上主義者の初代女王にして、女傑王ピポポクィン》
牢屋にいたカバ女王と似たような顔と体格をしている。身なりは王族の出で立ち。
「容姿と名前ェ……」
「カバの御獣族ね!」
「初代カバ女王だ────っ!!」
《俺様も思った。思ったけど、普通に人族だからね?》
かつて文武両道の賢君であり、火の国を治めていた心優しき女王。
その人柄は多くの人びとの憧れ。
あの風貌ながらも、穏やかで愛嬌がよくて誰からも好かれていた。
しかし、突然人が変わったように残忍になってしまった。
それは水の国の王子さまにフラれたと嘆いてからだ。その日を境に、別人になったかのように軽い女性至上主義政策を重ねてジワジワ国を縛り上げていった。
反対の声が上がる時は、既に手遅れになっていた。
もはや独裁だ。
モニターでは「カバって言うなああああああ!!」と激昂している。
彼女は元賢君。人々の心理の隙を突いて悪辣に支配する事など容易──。
モニターの癇癪からはとても思えない。しかし……。
「フラれただけなのに……?」
「カバみたいな女でも、繊細な乙女心は持ってるから」
《否定はできんが、本人の前で言わないでね。すっごく気にしてるから》
イフガープって強面の割に、お茶目な性格してるっぽいな。
初代女王の死後、数百年も女性至上主義としての支配は続いてきた。
そのカラクリは初代女王による“死後の怨念”によるもの。
《火のルビレッド王国周辺にのみ、特異な現象が今でも続いている》
「特異な現象??」
とある周期で月が赤く染まり、赤土の荒野に赤霧が漂う厄日がある。
それは初代女王の怨恨とも言える。数百年もの奴隷男性の霊を吸収し続け、悪霊になってまで己の存在を主張しているのだ。
「フラれただけなのに…………」
《そうは言うが、恋心は時として人を狂わせる》
オレはそんな伝説を聞いて身震いした。
目の前で勇者ゴーファドが狂って落ちぶれたのを見てきたからだ。
普通なら、火の国にとって手強い革命軍の筆頭として立ちはだかっていた。それがオレと出会ってから瓦解してしまった。
「それでも普通の人間に起こりうるもの?」
《いや、これはマリシャスがちょい力を貸したせいだな》
チラッとウイルを見やり、その本人はビクッと竦む。
心当たりがあったのか縮こまって「ご……ごめん……」と俯く。
ただの人間が、えらい悪霊になるとは到底思えないからだ。前からマリシャスが度々ちょっかいをかけていたのもまた事実。
『鍵祈手』の魔王化、ヤミザキとヒカリの悲劇、世界を融合させて対消滅、聖絶と魔境、そして今回のカバ悪霊……。
オレは目を伏せて一息をついた。
「分かった。依頼は受ける」
《アテつけで済まないが、よろしく頼むぞ》
今夜、赤き満月が夜空に映えた。
そんな厄日は、火の国の人間なら固くドアを閉めて家の中で息を潜めるという習慣でやり過ごす。かつては悲劇が起きていたのだろう。
大精霊さまが封印したとは言え、事象だけはそのまま長らく残っていた。
オレはヤマミ、クックさんと一緒に火の国の門を出た。外の荒野……。
しかもウイルも一緒だ。
ため息を付きつつも、ヤマミへ半顔で振り向く。
「ウイルを頼むぞ」
「ええ。任せて」
「お姉さんに任せろー!」
本当はウイルを火の国に匿ってもらうつもりだったが、一緒についていきたいからと仕方なく。
責任を感じているのかな。
ズズズズズズズズズズ……!!
地鳴りが大きくなっていく。
同時に途方もないドス黒い悪意が溢れてくる。死後も多くの人を啜ってきた悪霊。大精霊さまに封印されるまで国を恐怖に陥れた存在。
黒いモヤがシュワシュワ集合してきて、徐々に形を取っていく。
押し潰されそうなほどの凄まじい威圧……。
「魔界の魔境のラスボスと匹敵するわ!」
「ああ!」
魔王魔族をも全滅させんとした、あの凶人王と同等かそれ以上……。
「おおおおおおッ!!」
気合いを入れて足元に花畑を広げ、背中から六枚の羽を展開し、舞う花吹雪とともにフォースを噴き上げていく。
そして花吹雪を収束させて太陽の剣を形成。
鋭く対象を睨み据える。
「ブオオオオオオオオオオオオン!!!」
怨霊の咆哮で更に大地が震え上がり、烈風が吹き荒ぶ!
あとがき雑談w
ゴーファド「フラれた……。けど、それは真実かざ??」ハッ!
女勇者が珍しく冷静に落ち着いて思い返す。
ゴーファド「あたしと出会う前に結婚していた。つまり嫌々くっつけさせられたにちがいなざ! キスだって芝居っぽいしさ!」
ゴーファド「つまりのつまり、元凶はヤマミ!」
ゴーファド「本当はあたしの事を好きだんけど、言い出せなかったんざな」
ゴーファド「きっと、いや確実にそうに違いなさ!」
ゴーファド「あのガキは水色髪と金髪、どちらにも似ていない! つまり養子!」
ゴーファド「許せなざ!! 脱獄して開放してやらなざ!」
再びナッセ連呼と頭突きの繰り返しを開始。
やはり恋は盲目にしてしまう……。
ピポポダ女王「うっせー! 静かにしろおおおおお!!!」
次話『悪霊はなんと魔境のラスボス並み!? 威力値125万!』




