118話「過激! 女勇者と前女王の修羅場!」
世界一高い『アリジェロ山』の山麓の湖がある近くでルビレッド王国が建ってあり、そこから隠れるように数キロ離れた険しい谷の麓の川でレンガの住宅地が斜面に並び、小さな城が聳えていた。
朝日が山脈から覗く時、差し込んだ光が徐々に影を照らしていく。
『ガープフレア王国』
火のルビレッド王国の改革に反発して、離反した反対派が集って隠れ住む地。
元々は前女王が贅沢した別荘なのだが、今は居城になっていた。
小さな城の、謁見の間でゴーファドと二人の女騎士が跪いていた。
「ヒポポダ女王様! “火勇の守護士”ゴーファド参りました!!」
それを王座一つにふんぞり返るカバのような太った王女が嫌味そうな笑みを浮かべて「ごくろう」と労った。側に婆さんの女大臣と、後方で元王国直属護衛騎士“火焔四女傑”が並んでいた。
火のルビレッド王国の前女王である、ヒポポダ女王。
……かつて全世界に女性至上主義を広めようと独善的な演説をして、非難の嵐を浴びて退位したルビレッド王国の前女王。
現女王アリシャスに王位継承した後に別荘に移って静かに暮らしていた。
そして『大祓祭』の後に、現女王の改革に不満を持って国から離反した王族や貴族たちを味方に加えて反逆の女王となった。
今ではルビレッド王国を乗っ取ろうと画策している。
そんなヒポポダ女王に勇者たちは成果を報告していた。
「……報告は以上でざ、しかば進言したいで思う所存でず」
「なんだ? 言うてみよ」
訝しげなヒポポダ女王はアゴを動かして催促。
「世界を救ったと言わへる妖精の白騎士ナッセさまと会いとうした!」
ヒポポダ女王はピクッと眉を跳ねた。
ゴーファドに付き従っている二人の女騎士は不安そうに顔を見合わせた。嫌な予感がする。
「で、捕らえたというワケね?」
「いいえ! 是非、この国の王族として迎え入れる許可をいただく進言致しますざ!」
「ふざけないでッ!!!」
ヒポポダ女王は血眼で立ち上がって怒鳴る!
鬼のような形相で、頭上のカルマホーンがニョキニョキ伸びてくる。
「英雄といえど下賎な男! そんな穢らわしい下郎を王族にするなんて、正気の沙汰じゃない!」
「それは聞き捨てならないざ!!!」
なんと勇者ゴーファドまで憤慨して立ち上がった!
二人の女騎士と、女王側近の女大臣や“火焔四女傑”たちは「ひええ」と震え上がっていく。
「ナッセさまを下賤下郎と言い捨てる侮辱を、あたいは許さねぇさざッ!!」
「なっ、なんですってぇ~~~~!!?」
ヒポポダ女王は顔を真っ赤にして唇を震わせて、激怒に染まっていく。
「ゴーファドさま!! 落ち着きなさってくださいましっ!」
「女王さまを怒らしてはなりません!! 今の内に謝罪をッ!」
「黙れさざッ!!」
ゴーファドは後方の女騎士二人へ感情的に怒鳴り返す。
そして、ヒポポダ女王へ向き直ってキッと睨む。
「さっきの言葉を取り消せざぁッ!!」
ヒポポダ女王は太い足でドンと踏み鳴らして、床を揺るがす。
「勇者ぁぁぁあ!! 穢らわしい男に籠絡されたかぁぁぁあ!!」
「籠絡になどされてないじ! 真実の愛に目が覚めただけざ!!」
「なにが真実の愛だぁぁぁあああああ~~!!!!」
ついにヒポポダ女王はキレて、凄まじいエーテルをバーナーのように鋭く噴き上げて、激しい地響きを誘発させた!
同時に烈風が所狭しと巻き起こっていく!
女大臣は吹き飛ばされ、“火焔四女傑”は煽られて「ひゃあー!」と驚いていく。
それでもゴーファドは毅然と向き合っている。
それとは対照的に後方の女騎士二人はじりじり後退りしていく。
「やっぱりゴーファドさまはおかしくなったんだ!」
「ああ! こうなるって分かってたわ! もうついていけない!」
我慢できず二人の女騎士は逃げ出してしまった。それをゴーファドは半顔で見送る。
しかしゴーファドはナッセが応援してくれていると信じ、威風堂々とヒポポダ女王の剣幕にも立ち向かおうと勇気を奮い立たせた。
ナッセさま、見ていてくださんじ……!
この“火勇の守護士”ゴーファドはあなたさまの矛となって、不穏分子を全て駆逐してまいりまじう!
「勇者の魂波動ざぁッ!!」
ゴオッとゴーファドは全身から火炎のフォースを噴き上げて、ボロボロの大剣で構え、激昂しているヒポポダ女王へ切っ先を向ける。
「この女王様に刃を向けるとはッ!! よかろうッ、我が手で処刑してさしあげてよ────ッ!!!」
ヒポポダ女王の太い両拳が溶岩に包まれて燃え盛っていく!
カバみたいな巨体は贅沢の限りを尽くし脂肪に覆われているが、その下には多少衰えているものの引き締まった筋肉が隠れている。代々王位を継承されてきた女傑としての戦闘力は備えているようだ。
どすんどすん踏み鳴らすたびに全てが揺れ、周囲の女騎士たちに恐怖を与える。
「下郎にうつつを抜かした事を後悔しな──────ッ!!」
「英雄さまに心を捧げた事をむしろ誇りに思うざ────ッ!!」
始めて好きになった男を胸に、ゴーファドは更に激しいフォースを噴き上げて地響きを大きくしていく!
双方とも床を蹴って爆発!
二人の女傑は「はあ────ッ!!」と咆哮を上げて激突!!
ズゴアァァァアンッ!!!
小さな城の上部が木っ端微塵に破裂して、破片が飛び散った!
上空へ飛び上がりながらヒポポダ女王とゴーファドは激しい攻防の応酬を繰り広げていく!
ゴーファドの大剣と、ヒポポダ女王の溶岩拳が激突を繰り返すたびに、周囲へ衝撃波がズシンズシン大気へ伝導する!
その下の城下町の女たちは驚き戸惑ってざわざわしている。
「なんなの??」
「まさか! ルビレッド王国の奇襲かッ!?」
「いえ! 上空見て!! 女王さまと勇者さまがッ!!」
「なんでッ!? なぜ争っているのッ??」
「特訓なの?」
「いや! 殺し合いしてるみたいよッ!!」
ズシンズシン地響きと大気の伝導に畏怖を募らしていき、家に隠れたり逃げたりしていく。見張りの女兵士たちは逆に城へ向かって状況を知りに行く。
「一体どうなっているのです?」
「分からない!」
「とにかく集まれ────ッ!!」
剣がヒポポダ女王の頬を殴り、溶岩拳がゴーファドの頬を殴り、その凄まじい反発で双方とも弾かれて間合いが離れていった!
空中で留まり、二人は睨み合う。
口から垂れた血を指で拭うゴーファド。
「真実の愛を知ったあたいは負ける気がしないざぁッ!」
「そんなもの虚構でしかないわあああッ!!!」
ムキになったヒポポダ女王は再び激しいエーテルを纏ったまま尾を引きながら、ゴーファドへ殴りかかる!
ゴーファドは大剣をかざして受け止める! ガッ!!
その激突でグワンッと大気が爆ぜる! 眼下の城と住宅が煽られて揺れる!
「……例え、虚構だとしてんも、あたいは……好きでいる気持ちを捨てたくなざ……」
「まだ虚言をッッ!!?」
「ヒポポダ女王さまは、本気で好きになった男はいなかったかじ?」
ヒポポダ女王はすっかり忘れていた記憶が蘇る────。
まだ若かった頃、カバのような太った体を揺らしてイケメン奴隷を買いに来ていた。
そんな折、心臓がドクンとときめくような、金髪ロングのイケメンに見惚れた。手足を鎖と重りで繋がれていて薄幸な雰囲気がドキドキさせられる。
思わず「自由にしてやろう」と慈悲に満ちるほど好きが溢れた。
「この子を買いましょう!」
「ふふ、お目が高いですわ! 美を追求して徹底的に配合した甲斐がありましたわ!」
イケメン奴隷は専用の奴隷店で売られている。
火のルビレッド王国は労働用と愛玩用と繁殖用にわけて奴隷が売られている。今回は繁殖用のイケメン奴隷を買って、美しい後継者を産もうと考えていた。
「あなた、名前をつけて差し上げますわ! ウマオ! あなたはウマオよ!」
「…………う、うま……?」
買った後に鎖や重りを外して、高貴な部屋で放し飼いにした。体もキレイに洗い、豪華なドレスを着せて、美味しい料理を食べさせた。
他の女たちが引くぐらい厚遇していた。
しかしウマオはヒポポダ女王を嫌そうな顔を向けていた。
「今宵もたくさん愛し合いましょうねぇ~!」
「嫌だッ!!」
嬉しそうにヒポポダ女王が手首を掴もうとすると、ウマオは拒絶して手を振り払った。
もう我慢できなくなってか首をぶんぶん振る。
「カバみたいな女は好きじゃない! も、もうたくさんだ! 毎晩カバ女にメチャメチャにされるのは嫌だーッ!」
汚いものを見るような目でヒポポダ女王を見て、後退りしていく。
その瞬間、甘い夢が一瞬に冷めていった。気付けば原型が残らぬほどに肉片を散らし、血まみれに濡れた部屋は凄惨な様子に変わり果てた。
ただ一度、惚れた男にカバと言われた為にヒポポダ女王は癒えない傷を負った。
あれ以来、男など下賎なものと価値観を固め、徹底的な女性至上主義を貫かざるを得ない悲しい経緯を思い出してしまう……。
「ああ!! 本気で好きになった男などいませんわッ!! いてたまりますかッ!!!」
疼いた傷心が痛くてたまらず、否定するように叫び上げた!
ヒポポダ女王は、男に拒絶されるほど自分の醜い姿を自覚していたが、全ては下郎のせいとして頑なな否定。
そして自分こそ絶世の美女として目を背け続けてきたのだーっ!
「この私は絶対的女王! そして世界に誇る絶世の美女! 永遠に語り継がれるべき存在ッ!!」
「……そんなカバでも恋する心があったんだざね」
「カバって言うなああああああああああッッ!!!!!」
ブチブチキレ過ぎて、我を忘れるほどに怒り狂っていく!!
「ダイエット手伝ってやるざ!」
ゴーファドはニッと笑い、大剣を正眼に構えた。
一方、そんな状況になっているとは知らずナッセはヤマミとクックさんとウイルと旅を続けて、火のルビレッド王国を目指していたのだったぞ……。
あとがき雑談w
修羅場を目の当たりにした“火焔四女傑”は……?
革命女騎士A「カバ女王さまと、トチ狂った勇者さまの修羅場キター!」
革命女騎士B「あんなに言動がおかしくなった勇者さまは初めてです!」
革命女騎士C「そうそう、まるで誘惑されたみたいな!?」
革命女騎士D「ナッセってそんなイケメンなのね!?」
英雄色を好む、そのイメージでナッセがワルイケメンに想像されていく。
ナッセ「ひひひ! ええ体してんなぁー!」
ゴーファド「ああっ! いけないです……! でもでもっ……」
ナッセ「夜は寝かせないぞおおおっ!!!」
あーん! ああーん! だめだめーん! えろーん!
革命女騎士たち「「「「悶々ですわッ!」」」」
次話『女王と勇者の激戦に決着が!!』




