116話「賊が巣食う無法地帯!」
二日間、草木が点在する赤土の荒野を歩き続け、最初の村が視界に入った。
赤い岩をレンガとして積まれた角張った家が集合している。
「やっと村かよ……」
初めての野宿で項垂れていたウイルはそんな声を絞り出していた。
「でも、すんなり泊められるとは限らないわ」
「そうなのか?」
「……寂れているからね」
低い石壁の門にいる兵士に会釈し、入らせてもらった。
カアビ港町とは違い、ヤマミが言った通り寂れている雰囲気が否めない。村人もどこか覇気がない。ひっそり静かに暮らしてる感じだ。
いずれもターバンを厚めに巻いている。村の風習か、それとも……?
宿屋はあったが、オンボロだ。
「……珍しいね。こんな所に客とは」
宿屋の主人は据わった目でオレたちをジロジロ見てくる。
お代を受け取ると「こんな所だけど、ゆっくりしていきな」と受け入れてくれた。
オレは「ありがとう」と頭を下げたが、主人の悪意を感じ取っていた。
魔王ジャオガさんから教えてもらった悪欲探知スキルでだぞ。
「ぷぱー! 生き返ったー!!」
ウイルは充実した晩飯を平らげて、仰向けに倒れた。
オレもヤマミも「おやすみ」と微笑みかける。そしてウトウトと眠たそうにする。クックさんは一気に倒れて眠っていく。
横に転がってしばらくすると、殺意がブワッと湧き出すのが分かる。
「間抜けな客だったな」
「ああ。久々の獲物だ」
「たんまり金持ってそうだぜ……」
「ひひひ。いい女だな。イヤンウフンなエッチしようぜー」
ぞろぞろと男衆が下卑た感情を剥き出しに歩み寄ってくると、オレはヤマミと一緒に起き上がる。
「むむッ!?」
「なっ!?」
「そういう事かー」
オレは後頭部をかいてガックリ項垂れる。
「な……、なぜ起きているんだ!?」
「馬鹿な! 眠り薬の効果が効いていないだと!?」
「食べなかったのか!?」
「いや! ガッツリ食べてたぞ!」
うろたえる男衆。
この反応からすると常習犯っぽいな。残念だ。
まさか妖精王に毒とかそういうの効きにくいって知らないだろうな。それにどんな薬だろうと解毒で無害化できる。
悪いけどウイルには眠ってもらった。
ただの眠り薬だから心配いらない。さて……。
「覚悟する事ね!」
ヤマミは不機嫌そうに目を細め殺意をあらわにする。
男衆はうろたえたが「ええい! 取り押さえろ!! 久々の獲物なんだー!」と飛びかかる。
「催眠魔法!」
バタッと男衆は沈んだ。
後ろで控えていた宿屋の主人は「あっ!?」と仰け反る。
……なんて事ない。魔法で眠らしただけだぞ。仕返しにな。まさか逆に眠らされるとは思わんだろうしな。
全然格下だから効きまくったぞ。
眠りこけた男のターバンを剥くとツノがあらわになる。
「カルマホーン……。これじゃ悪魔化して村もなくなるんじゃない?」
「しゃあねぇな」
妖精王になって鈴を鳴らした。
「「「「すみませんでしたー!!」」」」
起こした男衆と主人は土下座して謝り倒してきたぞ。
鈴によって浄化した後は、この通りカルマホーンが消えて善人になったぞ。
「とはいえ、犯した罪は消えないわ。償いながら生きる事ね」
「はい……」
「ってワケで、食べられる木の実や美味しく食べれる調理法を教えるぞ」
こうなったのも貧困にあえいだが故の組織的犯行。
浄化したとて一時的なもの。いずれまた悪意が生まれて同じ事を繰り返す。その元を断つ。
二日間のサバイバルで培った、この地方での食材や調理法を教えていった。
更に雨乞い、ろ過、下水処理、肥土、解毒など、自給自足に必要な日用系魔法も覚えさせた。
「美味い!!」「美味い!!」「美味い!!」「美味い!!」「美味い!!」
村人が目を輝かせて、初めての味に歓喜した。
「……すまねぇな。神の使者か何かか?」
「ただの冒険者だぞ」
「世界中を見て回るんだぞー!」
旅行中だという事を話し、火の国へ向かっているのも言った。
「ああ。火の国はやめた方がいいですぜ」
「内戦中で物騒になってるんで」
「ただでさえ旅人が来ないのに、更に来なくなってな……」
「代わりに盗賊団が増えているって話ですぜ!」
「こっちビクビクしながら暮らしてんでさぁ……」
口々に言ってきて、色々困窮しているのが窺えた。
ヤマミへ目配せする。
その間もウイルは「ぐがー」とのんきに熟睡していたぞ。
眩しい太陽が青空に昇っている。
オレたちは翌日、村人たちに手を振られながら後にした。
「また歩くのかー」
ウイルは残念そうな顔だ。
「走るか?」「ええ」「疾走だー!」
ヤマミもクックさんも同意満々だ。ウイルは「え?」と戸惑う。
オレは屈んで「乗れ」と催促。
戸惑っていたようだが、仕方なしとオレの背中に抱きついてきた。抱えて立ち上がる。
風魔法で体全体を覆ってから、地を蹴って爆発!
先ほどの魔法で空気抵抗を減らしたまま、猛スピードで赤土の荒野を駆け抜けていった。
あっという間に流れていく景色にウイルは「うわあああ!!」と絶叫。
岩山の群集地帯もピョンピョン飛び跳ね、隣り合わせている崖が大きく開けた深い川もひとっ飛びで越える。
「ん?」
どこか深淵のような殺意や悪意が感じられる……。
走りながら掌から火炎球をポロポロこぼして浮かせていく。
それらは次々と打ち上げられて上空で弧を描いて、潜んでいた盗賊をボカンボカン爆撃した。一気に数十人もの団体を壊滅させられて死屍累々。
「事は深刻だな……」
「ええ。血に慣れすぎた盗賊が多いわ」
平気で人殺しができるヤツは、他と気配が明らかに違う。
旅人に限らず、他の盗賊団とも抗争したりして群雄割拠している。誰も寄り付かない地帯だからこそ、極悪人が潜むに絶好の場所になっている。
どうせ獄界オンライン行きだろうし、浄化せず普通に殲滅対象にした。
「……ひでぇな」
いくつか滅ぼされたであろう廃墟の村を多く見かけた。
中には盗賊団のアジトになってるのもある。通り過ぎながら壊滅させた。ワケ分からず逝っちまっただろうな。
それにしても無事な村は全然見かけない。
さっきの村は運が良かったというべきか……。
飛んでくる瞬速の矢を右手で掴み、手首だけで投げ返す。
「うぎゃ!」
盗賊の弓兵が遥か遠くで倒れるのが見える。いい腕なのにもったいない。
後は追尾弾をばらまくだけで、他の盗賊も一掃。
ここまで来ると腕のいい奴らが増えてきたな。オレたちの高速移動も察知して先制で襲撃できる程度の実力者がいるって事だ。しょせん敵ではないけど。
日中走っている内に薄暗くなってきて、心許ない気分だ。
「ああっ! 火の国だ!!」
岩山に囲まれたような荒野で、頑強な城壁で囲む大きな国が建っていたぞ。あちこち焚き火の明かりが窺える。
しかしオレは険しい顔のまま「違うかもしれねぇ」とウイルに呟く。
「止まれ! 何者か!」
城門前でツノ生えたゴロツキが二人ぶてぶてそうに睨んでくる。
「オレたちは冒険者だ!」
「む……、ここまで来るとは骨のあるヤツだな。その身なりの割に大したものよ」
「よかろう! ここまでたどり着ける猛者は歓迎する」
やはり腕の立つ盗賊団が多いから、並の冒険者ではまずたどり着けないって事か。
「ようこそ! ワケありならず者の王国『ゼルゲチィス』へ!」
中へ入るとピリピリしたような緊迫感がする。
ここにいる奴らは犯罪者、流れ者、落ちぶれた貴族などが犇めく国。こちらを吟味する鋭い視線を感じる。馬鹿な獲物だと見下す視線もあれば、殺意満々で鋭い視線をよこすのもある。
ほとんどツノ付き……、カルマホーンだ。
露店は多いが、恐らく盗んできたものが多い。
堂々と商売する商人もただならぬ威圧感を感じる。強盗しようもんなら逆に取り押さえに来るだろう。
「ひえ……、なんか落ち着かねぇぞ」
「離れるなよ? あいつら子どもにも容赦しねぇぞ?」
「わ、分かった!」
ウイルも身震いしてオレにしがみついている。
宿屋も、ツノを生やした人相の悪い大柄な男が受け付けをやっていた。
「泊まりたいなら、払うもん払ってもらおうか?」
トントンと宿代が書かれている看板を指で叩く。
一人頭八万円相当、高額だ。かなり吹っかけている。泊まれるにも贅沢を言えない場所なだけに、こういう輩がいる。
得意げにニヤリと笑みを見せる。
「貴方の命とどっちが安いのかしらね?」
冷淡なヤマミに凄まれ、大柄な男は身を竦ませた。
気付けば床、壁、カウンターを這う黒い影。ヤマミの黒い小人が伝播して包囲網を敷いていたのだ。
大柄な男が指先でクイクイとしてたけど、次第に絶句していく。
「ふぅん。怖いお兄さんはサボり?」
ヤマミのせせら笑いに、男は見開いて冷や汗タラタラ。
「……は、半額で」
「そう。そんなに(自分の命が)要らないのね。じゃあ遠慮なく……」
「ヒッ! 一〇〇円でいいです! 四人一泊で一〇〇円!!」
ヤマミの剣幕に平伏し、安くしてもらえたぞ。
指先のサインで来るらしい怖いお兄さん(用心棒)も取り押さえてるからなぁ。ヤマミの能力は諜報としても有能だ。
クックさんは「ヤマー、かっこいいー!」と目をキラキラ。
「……いいのかな?」
「そういうやり取りが、この国のルールだから」
そう、ここは力が全て。法などで守ってくれない。
力と策謀で出し抜く手段を持たなければ、骨の髄までしゃぶりつくされるであろう。甘い考えは命取り。
ここは無法地帯。そしてならず者の国なのだから……。
しかし休むまもなく!
ドゴガアアアアアンッ!!!
唐突に城壁が木っ端微塵に粉砕され、破片が四散。ならず者どもは「うわああああ!!」と騒然していく。
オレたちも扉を叩き、外へ出た。
ザワザワ戸惑いが広がる最中、立ち込める煙幕から人影が浮かび上がる。
「あたいは“火勇の守護士”ゴーファドだざ!! これより制圧させてもらうよ!」
大柄な体格の女勇者。ツノが突き出ている赤いパンチパーマの褐色肌。大胆不敵そうな目で強気な顔。露出度の高い服で大きい胸と尻が目立つ。炎の模様の赤いマント。
そんな大女がカチコミに来たぞ……。
あとがき雑談w
例の宿屋に来たナッセたちを、物陰から怖いお兄さんが吟味。
怖いお兄さんA「ほぉ~! 綺麗な身なりの家族か~?」
怖いお兄さんB「この国では浮いてるっすね。大方、貴族様っすよ」
怖いお兄さんC「きひひひ! ボーナスキャラ来たぜー!」
怖いお兄さんD「お、主人のサイン来たぞ! よし行……」
しかしヤマミの黒い小人が床を這ってきて、怖いお兄さんの足元を登っていって首元で上半身を出して具現化したナイフを突きつける。
ぞわりと背筋が凍って、怖いお兄さんは怖がるお兄さんにチェーンジ!
ヤマミ小人「動いたり声出したりしたら(命を)取る。OK?」
怖がるお兄さんズ、涙目でガクブルするしかない!
次話『勇者ゴーファドと騎士団の理不尽な制圧! 激戦必至!?』




