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④いざ試合・後半

 前半が終わり、後半へと移る。

 次はゲーマーと不良がデッキを作成し、中華とメガネが対戦役を務める。


「シンプルにひどいのは、さっきの二人がやったからなぁ。少しひねったネタを目指してデッキを組まないと」


「まぁ……とりあえず適当に組んどきゃ、なにかしらひでぇデッキになるだろ」


「ど、どんなデッキ渡されるんだろ……ボク不安……」


「ふむ……俺が中華と対戦して敗北した場合、向こうのデッキ作成者のゲーマーは自分のデッキが勝利してしまい、先の対戦役の時の敗北と合わせて二連敗になるワケか。いっそ俺がわざと負けるのもアリか?」


「ナシです」


 そして、デッキ作成役の二人は無事にデッキを完成させる。

 それを中華とメガネが受け取り、試合開始である。


「そ、それじゃあよろしくね、メガネ」


「ああ。『対戦よろしくお願いします』だ、チb……中華」


「いまチビって言いかけたよね!?」


 コイントスで先攻後攻を決める。

 結果、中華が先行で、メガネが後攻に。

 お互いに山札から五枚の手札を引いて、ゲームスタートである。


(さぁて……ゲーマーはどんなカードを入れたのかな……)


 引いた手札を確認する中華。

 マモノカード、星の牙カード、異能カードとバランスよく揃っている。

 うち一枚が、コストゾーンに送ればコストが+2されるカードだ。


「じゃあこのカードをコストにして……異能カード『マナの恵み』を使用するよ。山札からカードを一枚引き、使用後、このカードはコストゾーンに送る。ただし、このカードをコストとして使用できるのは次のターンからである……だってさ」


 新しい手札を確保し、一ターン目から一気にコストを3に増やした中華。良い幕上がりである。


 次はメガネのターン。

 まずは山札からカードを一枚引く。


「俺のターン。運命のド――」


「わーっ! 待ったメガネさん! そういう発言は著作権に引っかかるらしいのでつつしんでください!」


「まだ全部言い切っていなかったというのに。『運命のドリル』かもしれんだろう?」


「ここでドリルが出てくるのは脈絡なさすぎでしょーが!」


 それからメガネはコストゾーンに、コストが+2されるマモノカードを送って、ターン終了。


 ふと、コストゾーンに送られたカードを見て、不良がゲーマーに声をかける。


「なんとなく疑問に思ったんだが、草食で大人しそうなマモノがコスト+2ってのは、なんか由来があんのか?」


「可食部が多いからだって聞いたことがある」


「か、可食部?」


「そも、このゲームでのコストは『エサ』の概念で、コストゾーンに送られたマモノは他のマモノを呼び出す際のエサ肉として活用されるらしいよ。強いマモノほど高い餌代コストがかかる」


「生々しいわ」


 一方、試合は再び中華のターン。

 山札からカードを一枚引き、コストゾーンにコスト+1のカードを送り、フィールドに『白狼・ユキオオカミ』を呼び出す。


「ユキオオカミの効果で、山札からカードを一枚引いて手札に加えるよ。遠吠えで仲間を呼んでる設定なのかな?」


「このゲームだと、オオカミの遠吠えで、オオカミよりやばい化け物が手札にやって来ることも多いけどね」


 中華の呟きに、ゲーマーが苦笑いしつつ反応。


 次はメガネのターン。

 まずは山札からカードを一枚引く。


「俺のターン。命運を握るド――」


「それもちょっと怪しいので却下で!」


「致し方あるまい」


 それからメガネはコストゾーンにコスト+1のカードを送り、フィールドに『黒蟲・ビッグローチ』を呼び出す。


「名前を呼んではいけないあの蟲」


「うげぇ……俺ソイツ嫌い」


 メガネが出したカードを見て、ゲーマーが顔をしかめる。

 ゲーマーだけではない。他の皆も一様に顔をしかめている。


「こんなキモいカード絵、商品化して問題はねぇのか……?」


「い、一刻も早くフィールドから除去しないと……!」


「言ってしまうと、まだあと手札に二枚あるぞ」


「全部コストゾーンに送ってくれないかなお願いだから!」



 それからターンは少し進んで、5ターン目。

 現在は中華のターン。


 中華の陣営には『弾丸雀・バレットバード』が一体出ている。4ターン目で呼び出したノーマルマモノカードだ。そして、ここまで使用してきたカードの多くに『山札からカードを一枚引く』の効果が備えられていたおかげで、手札が潤沢に揃っている。


 一方、メガネの陣営には『屍鼠・ラージラットゾンビ』が一体出ている。『大鼠・ラージラット』が他のマモノの異能によって、死してなお操られて尖兵とされている……という設定のマモノである。


「よ、よーし! ここでバレットバードを進化させるよ! 『雪鳥・スノーバード』を呼び出す! ライフは5! 攻撃力は2! 『守者』持ち! 攻撃してきた相手のマモノを、2ターン先まで行動不能にしてしまう強力な星の牙カードだよ!」


 初めての星の牙カード、初めての進化ということもあってか、興奮気味にカードの効果を説明する中華。さらに異能カード『マナの恵み』で手札とコストを増やし、ターン終了である。


 次はメガネのターン。


「俺のターン。まずは軍にしんにょうを足す。次にひとがしらのすぐ下に横棒を一つ入れて、その左下に口を書き、右側に――」


「ややこしいですけど、要は一回目と同じこと言おうとしてますよね!?」


「異能カード『暴炎竜の灼熱ブレス』を使用。相手のマモノ一体に4ダメージ。この時、対象のマモノが氷属性または植物属性なら、ダメージは+4される」


「ぼ、ボクのスノーバードがぁぁぁ!?」


「焼き鳥になっちまったな」


 せっかく呼び出したスノーバードを墓地に送られ、中華は涙目になりながら叫び、そんな彼の様子を見て不良が呆れた風に肩をすくめた。


 さて、戦いは中盤戦に差し掛かってきたが、まだ対戦役の二人は、自身のデッキ作成者たちがどういう意図でこのデッキを作ったのかを見極めきれずにいた。


「手札はたくさん確保できるし、カードのバランスもそれなりに良いし、ボクのデッキは普通に戦えてる気がするなぁ。ちょっと、除去系の異能カードが少ない気がするけど」


此方こちらは何と言うか、先ほどの中華と同じような感じだ。普通に弱い。まだどんなネタが仕込まれているかも把握できていないな。苦しい状況だ」


「作成者のオレとしちゃあ、対戦役のメガネが苦しんでくれるのは良いことなんだが、それでもやっぱり『普通に弱い』とかこき下ろされるのは複雑だな……」


 さらにターンは進み、ターン数はいよいよ10ターン目を越えてきた。

 ここまで来るとコストも手札の戦力も揃ってきて、強力なカードたちが次々とフィールドに出てくるようになる。


 現在優勢なのは、一見すると中華だろう。

 手札は依然として潤沢。コストもライフも申し分ない。


 一方のメガネは、フィールドにマモノこそ出ているが、ライフがだいぶ削られている。手札も4枚ほどと決して余裕があるとは言い難く、不利な形勢を強いられている。


「よーし! ボクはここで『浮海月・フーセンクラゲ』を進化! 『島海月・アイランド』を呼び出すよ! このマモノがフィールドに出た時、山札からカードを一枚引いて、自陣に出してもいい! しかし、コスト10以上の星の牙カードだった場合、墓地に送らなければならない! 結果は……よし、いける! 『水魔・スライム』を呼び出す! このスライムが場に出た時、山札からカードを一枚引く! 引いたカードが水属性のマモノならば手札に加え、それ以外は墓地へ送る! 結果は……やった! 水属性!」


「中華のコンボが止まらんな。これは苦しい状況だ」


 困った風なコメントを呟きながらも、メガネは表情も声色も全く変化させない。自分のターンになると、淡々と山札からカードを一枚引く。


「俺のターン。ドロー・オブ・フォーチュ――」


「もしかしなくてもアンタ絶対チキンレースして楽しんでるでしょ!?」


「潜伏させていた『隠蟲・ヒソミムシ』を進化。『悪霧・キリグモ』を呼び出す。この星の牙カードが場に出た時、一番最後に倒されたマモノカードあるいは星の牙カードを一枚、場に出すことが出来る。この効果により、墓地から『不死生物・ノーデッド』を復活させる」


「いやぁぁぁ……せっかくあのノーデッドやっつけたのにぃ……」


「頑張れ中華! キリグモもノーデッドも俺は大嫌いだから! ビジュアルがキモ過ぎる! 一刻も早く墓地に送ってくれ! もういっそ勝っても良いから!」


 中華に声援を送るゲーマー。

 その一方で、メガネのキリグモが中華のスライムを攻撃し、スライムが撃破された。


「ターン終了だ」


「よ、よぉし、それじゃあボクのターン! 山札からカードをドローして……おや?」


 山札からカードを引こうとした中華だが、あることに気付く。

 中華の山札が、異様に少ない。あと5枚くらいしかない。

 対するメガネの山札は、まだ20枚ほどあるというのに。


「え、えーと、たしか最初のルール説明では、山札が無くなると、その次の自分のターンで強制的に敗北するんだった……よね?」


「うん」


 中華の確認の問いに、ゲーマーがうなずいて答える。


「思い返すと、ボクのデッキ、『山札からカードを引く』効果のカードが異様に多かった気がする……。じゃあやっぱり、ゲーマーが作ったデッキは……!」


「『手札が欲しいか? 欲しけりゃくれてやる。ただし代償は高くつくぞ』デッキ」


「は、ハメられたぁぁぁぁ!!」


 ターン開始時、山札からは必ずカードを一枚引かなければならない。引かないという選択肢は無い。中華の余命はあと5ターン。一転して劣勢に立たされる。


「し、しかも手持ちのカードだって、『場に出したら山札からカードを一枚引く』が多いし! え、やだ、なにも出したくない!」


 中華が大慌てするその一方で、喜んでいるのは対戦者のメガネ。

 一気に逆転の可能性が見えてきた。


「あと5ターン耐えきれれば、此方こちらが一転して勝利を掴めるか。しかし、時間稼ぎに有効な『守者』のマモノなどは全く引けていない。いけるか……?」


 自身の手札を確認しながら、中華の出方を窺うメガネ。

 最後の最後まで諦めまいと、必死に熟考する中華。

 そして、中華が出した結論は……。


「……メガネの陣営は、まだ整っていない。ここでボクが山札を引くことを恐れて勝負を長引かせたら、その間にメガネが良いカードを引いて、場を整えてくる可能性もある……」


 そして中華は、手札から二枚目の『島海月・アイランド』を呼び出した。山札からカードを一枚引いて、条件を満たしていればそのまま自陣に出すことができる。


「残り少ない山札を、自ら削ってきただと……!」


「もうこうなったら、自ら死地へ飛び込むよ! 残りの山札に、一気にメガネにトドメを刺せるカードもあるかもしれない! メガネの陣営が整う前に、一気にケリをつけてやるぅ!!」


「ぬぅ……この初心者、なかなかどうして筋が良いぞ」


 メガネの表情が、若干曇った。

 今一番されたくなかったことを、見事に中華は仕掛けてきたからだ。


「こうなったら、此方も全力で時間稼ぎさせてもらおう。俺のターンだ。『死誘の氷鎌・コールドサイス』を呼び出す」


「また俺の嫌いなマモノ……!」


 メガネが場に出したマモノを見て、ゲーマーが嫌悪感を露わにする。そしてハッとした表情で、ゲーマーは不良の方を見た。


「……そういえば、この勝負、メガネさんが繰り出してくるマモノは、ほとんどが蟲とか、キモいビジュアルとか、ちょっとトラウマがあったりとか、俺が嫌いなマモノばかり……。じゃあ不良、お前が作ったデッキは……」


「おう。『ゲーマーが嫌いなマモノ詰め合わせ』デッキだ」


「こ、こんにゃろう!」



 そして、対戦者の二人は最後の攻防を繰り広げる。

 残り少ない寿命を削りつつ、戦う中華。

 中華の寿命が尽きるまで、必死に耐えるメガネ。

 果たして、勝負の行方や如何に……。


「ま、負けるもんかぁぁ!! いっけぇぇぇぇ!!」


「俺が負けてもゲーマーが二連敗だから、それはそれで美味しいのだが」


「メガネさんは俺に何か恨みでもあるんですか!?」

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