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「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります  作者: 廻り


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18 リーゼルと新人官吏たち3


「貴様……。リーンハルトに何をしようとしていた!」

「これは……その……」


 先ほどまでの熱に浮かされていたようなパウルは、一気に恐怖心へと変わっている様子。ディートリヒに問われて、震え出した。


(陛下が助けにきてくれたなんて……)


 リーゼルは心臓をばくばくさせながら、ディートリヒを見た。

 ワゴンを倒す音は大きかったけれど、執務室までは距離がある。例え音が聞こえたとしても、息を切らせてまで走って来るだろうか。


「陛下! 急にどうなさったんですか! これは?」


 そこへさらに部屋に入って来たのはレオンだ。ディートリヒの後を追ってきたようだ。


「リーンハルトがこいつに襲われていた。連れて行って事情を吐かせろ」

「承知いたしました」


 パウルはレオンによって部屋から連れ出された。そのあとになってようやく、厨房付近にいたであろう使用人が様子を見にきた。

 その者たちに仕事へ戻るよう指示を出してから、ディートリヒは改めてリーゼルの前へと膝をつく。


「リーンハルト……」


 リーゼルは急に身体が震えてきた。

 恐怖しながらも必死に抵抗したせいで、力が抜けてから震えがやって来たようだ。

 心配そうに見つめてくる陛下の顔を見ると、ますます感情が素直に溢れ出てくる。


「陛下……怖かったです」


 彼の袖を掴んでそう吐露すると、ディートリヒはリーゼルの震えを押さえ込もうとするように、リーゼルを抱きしめた。


「すまなかった。俺の配慮が足りなかった」


 ディートリヒが悪いわけではない。全ては、相手の気持ちも考えずに強攻したパウルのせい。


「怖い思いをさせてしまい、本当にすまなかった……」


 けれどディートリヒは、リーゼルが泣き止むまで謝罪を続けた。




 リーンハルトとともに執務室へと戻る途中、ディートリヒは先ほど味わった感覚を思い出していた。

 先ほどは急に、リーンハルトが助けを求めている気がして、無我夢中で駆けつけたらあのような場面に遭遇した。

 まるで、リーンハルトと心が繋がっているような気分だった。

 番だからこのような感覚を得ているのか、それとも好きすぎて感覚が過敏になっていたのか。


 


 執務室に入るとそこには、縄で拘束され床に座らせられているパウルの姿が。

 尋問をしていた様子のレオンが、二人へと目を向けた。


「この者はアカデミー時代から、リーンハルト卿への想いを一方的に募らせていたそうです。アカデミーでも似たような事件を起こしたそうで、リーンハルト卿が退学するきっかけとなったようです……」


(リーンの退学の理由がこんなひどいことだったなんて……)


 リーゼルは唖然とする。リーンハルト本人は、アカデミーに馴染めなかったとだけ話していたが、まさかこれほどの事件が起こっていたとは。

 そんなことを知りもせず、リーンハルトは内向的だから仕方ないと、両親もリーゼルも慰めていた。

 その慰めすら、リーンハルトにとっては辛いものであっただろう。リーゼルはぷるぷると震え出した。


「リーンハルト。辛いなら部屋から出ているか?」

「いいえ……。おかげで今は怒りのほうが強いです」


 リーンハルトは新しい環境に不安を感じながらも、アカデミーへ通うことを楽しみにしていた。

 そんな兄の気持ちを踏みにじったパウルを許せない。


「リーンハルト、泣いていたのかい? お詫びに俺を打ってくれて構わないよ」


 パウルのその言葉を引き金にして、リーゼルは大きく手を振りかざす。

 そしてパウルの頬めがけてその手を振り下ろそうとしたところで、ディートリヒに手首を掴まれた。


「止めておけ」


 冷静なディートリヒを見てリーゼルは、怒りに任せて自分が何をしようとしていたか気づかされる。


(いくら腹立たしくても、暴力に訴えるのは良くないわよね……)


 反省するリーゼルに向けて、ディートリヒは何とも言えない表情を浮かべた。


「あいつが喜びそうだ」


(え……?)


 どうやら、リーゼルの暴力を止めるためではなかったようだ。改めてパウルに目を向けて見ると、彼はなぜか紅潮した表情でもの欲しそうな表情を浮かべている。

 リーゼルは身震いした。


 以前、カイから聞いたことがある。世の中には、女性に打たれて喜ぶ男性もいるのだと。パウルの場合はさらに特殊で、男性に打たれたい人のようだ。


 もうパウルに対しては、どう接するのが正解かわからない。リーンハルトの退学は実は、もっとも彼に対して有効的な対処だったのかもしれない。


「リー!」


 そこへカイが、勢いよくドアを開けて駆け込んできた。騒ぎを聞きつけたのか様子を見に来てくれたようだ。

 家族と言っても過言ではない彼の登場で、リーゼルは再び涙腺が緩みそうになる。


「カイ……」

「ごめん! 俺が付いていなかったせいで……!」

「カイのせいではないから……」


 カイと同じ部署だったなら、このようなことも回避できたかもしれない。けれど、陛下の侍従になると決めたのはリーゼルだ。彼はなにも悪くない。


 悔む様子のカイに、ディートリヒが声をかけた。


「カイ・アイヒ卿だったか」

「はい陛下」

「リーンハルトと友人のようだな。邸宅まで送ってやってくれないか」

「承知しました陛下」


 丁重に引き受けたカイは、それからリーゼルの肩を抱いてドアへと導いた。今ばかりは他人の目があっても、完璧使用人のカイは影を潜め、幼馴染としてリーゼルを心配している。


「リー、俺たちの家へ帰ろう」

「うん……」


 二人が静かに執務室を去ったあと、レオンはディートリヒに視線を向けた。


「陛下。この者の処遇をどういたしましょうか。……陛下?」


 しかし未だ、ディートリヒは呆然とドアを見つめたまま。レオンの声など聞こえていない様子。

 そして、ぼそっと呟いた。


「今、アイヒ卿は、俺たちの家(・・・・・)と言わなかったか……」

「ああ。アイヒ卿はシャーフ家に仕える家ですから、タウンハウスで同居しているのでしょう」


 地方貴族ではよくあることだ。なぜわざわざ気にするのかと、レオンは疑問に思う。


「はは。まさかこんなところに、伏兵がいたとはな……」


 ディートリヒは、さらによく解らない笑い声をあげたが、その表情は獲物でも狙っているかのように恐ろしいもの。

 それを見ていたパウルは、恐怖のあまり床を濡らした。


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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

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