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少年少女の結婚過程《ハイラート》  作者: 三月弥生
消えても変わらぬ証明を
23/25

        寄り添う資格(2)



「あー、その……食事中にごめんね」


「いや、こっちこそ……すみません、気を遣わせちゃったみたいで」


 突然の乱入から数分後。

 神妙な面持ちで向かい合う焔と亜人の少女は互いに頭を下げ謝罪の言葉を掛け合う。

 ――三年E組、リー・シャーフ。

 レイリアが作った朝食にあえなく沈んだ兄、庚と同じクラスに在籍する羊の亜人である少女は気まずげに首を横に振った。


「ううん、まだ昼休みだもの。慌ててたとは言え貴方達やレイリア様が食事の最中かもって考えなかった私が悪い、本当にごめん」


「気にしないでください、それよりレイリアを探してたんですよね? 慌ててたって事は急ぎの用事ですか?」


「まあね……急ぎって意味じゃもう手遅れなんだけど、とにかくレイリア様だけじゃなくて弟君にも会いたかったから丁度良かった」


「俺も?」


 血相を変えてレイリアを探していたと思ったら自分も対象だったことに焔は首を傾げる。

 リーはレイリアと同じ亜人族、彼女の名前に様という敬称を付けて呼ぶと言う事は生まれも育ちも同じだろう。そんな彼女がレイリアが学園に登校してきたことを知って会いに来ることは特別おかしな事では無い。

 しかし、レイリアだけでなく自分にも用があるとなるとあまり心当たりは思い浮かばなかった。


(兄ちゃんと同じクラスみたいだし、今日休んだ理由を聞きたい……くらいしか思いつかないけど)


 同じ学年でも話をしたことがない生徒も居る、そのうえ学年が違えばそれこそ会う機会すら殆ど無い。兄のクラスメイトとは言え会うのも話すのも初めて……これは考えるより彼女から話を聞かせてもらった方が早そうだ。


「言うまでも無い事だと思うけど、レイリア様と弟君の婚約についてなんだけど」


「………………」


 前言撤回、思い当たる事が無いどころか思い当たる事しかなかった。むしろ自分達の所に来るのが納得出来すぎる内容である。


「あの、その話ってもうシャーフ先輩のクラスまで話が広がってるんですか?」


「広がってるというか全学年全クラスの朝礼で担任から話があったと思うんだけど? えっと、君達は二人と同じクラスの子達だよね。君達も聞いてないの?」


 焔と微妙に話が噛み合わない事を怪訝に思ったリーは蚊帳の外になりかけている武と志保に眼を向けた。


「いやー、うちの担任は九重先生なんで」


「当事者の焔君達を含めても他のクラスより事情には疎いと思いますね」


「ああ、あの……」


 武達の口から刳朗の名を聞いて合点がいったのか、リーは苦笑を溢す。

 リーが自分の担任から聞いた話は刳朗が面倒だからと省略し、響が吐き気と戦いながらも焔に伝えたかった事でもある。その話を聞くことが出来なかった焔達と認識の差異が出来てしまうのは当然の事だった。


「午後の授業まで、まだ時間もあるし良かったら私が聞いた話を教えてあげるよ?」


「「「是非お願いします」」」


「……お願いします」


 リーからのありがたい申し出に焔達は揃って頭を下げる。


「いきなりだったから驚いたけど、正式な公表はまだ先だから〈イリス〉から学園内に留めるよう緘口令がでてるの。でも、先に庚君とミルディ様の婚約会見が先立って聞いた時は更に驚いたよ」


 生徒と教師の間で出席の有無や今日一日の予定を確認する朝の朝礼で次々と聞かされる人間族と獣人族、亜人族の種族間に置ける重大発表。しかも、その当事者が自身のクラスメイトだと知ったときの衝撃は凄まじいの一言。

 その上、クラスメイトの身内も一緒にと追い打ちを掛けられた時は声も出せなかったと遠い目をするリー。


「普通は驚きますよね」


「人間族からしてみれば尚更衝撃的だったでしょうね」


「シャーフ先輩の言う通りね、他の種族の子達とも違和感なく一緒に勉強してるけど価値観の違いだけはすぐに受け入れるのは難しいもの」


「でもよ、国全部を種族交流の溜めに使ってくれ何て言って、その為の場所を提供してんのは俺等の国だろ? うちの学校だってその先駆けじゃねえか」


「ええ、弟君の同級生君が言った通りよ。光稜学園は社会にでる為に必要な知識、力の扱い方だけじゃ無くて、自分以外の種族と頻繁に後流を持てるよう学校行事を通して種族交流を推進してるわ。だからレイリア様と弟君の婚約、ミルディ様と庚君の婚約は私達に取ってこれ以上無い素晴らしい象徴になるんだけど……ちょっと問題がね」


「問題って……」


「レイリア様と弟君の婚約を疑問視してる子達がいるの……その、主に君達と同じ学年の獣人や亜人の子達なんだけど」


「それが普通の反応だと思いますよ」


 焔に投げかけられた疑問に気まずそうにリーは答えを返す。だが、表情を曇らせる事も落胆することも無く焔はリーの言葉を受け止めた。


「おいおい! なに簡単に受け入れてんだよ、それにシャーフ先輩もさっきと言ってることが反対ですって。焔とレイリアちゃんの結婚は喜ばしい事だって言ってたじゃないですか、なのに何で二人の結婚をごねる奴が出てくるんですか!?」


「落ち着けって、武。別にシャーフ先輩が悪いわけじゃ無い、それに今の話だってちょっと考えれば誰だって納得すると思うぞ?」


「納得って何を?」


「いや、俺はつい最近まで〈契約術〉が使えなかったんだぞ。そんな人間と獣人族歴代最強と名高い〈獅子王〉の娘が結婚するって知ったら誰だって心配になるって」


 現に、その極論とも言える理念の元に行動している組織の一員と命がけの戦いをしたのだ。あの一戦があったからこそリーの話してくれた事に動揺すること無く、ただ事実として受け止めることが出来ているのだろう。

 命がけの戦いと陰口とまで言えない周囲の不満や不安を比べるのはおかしいが、あの戦いと比べればこれくらいで落ち込んでなどいられない。


「確かにレイリアと出会う前の俺なら落ち込んでたとは思うけど、今はレイリアとの事だけじゃ無くて〈契約術〉の事も頑張りどころだ。落ち込んでる暇なんてないって」


「こ、これが身を固めた男の余裕ってやつか…………何て眩しいんだ」


「武の言う余裕とか眩しいとかよく分からないけど、焔君が良い意味で変わったのは分かる。それに余裕とは違う落ち着き方、もしかしなくても今回の解決策が思いついてたりする?」


「それは勿論」


 落ち着いた表情に自信に満ちた笑みを浮かべる焔。

 そんな友人の造作も無いと言った態度に武と志保は「おおっ!」と声をあげ、確かな成長を感じさせる焔に期待に満ちた視線を向けた。


「全然思いついてないに決まってるだろ!!」


「「……えーっ?」」


 思わせぶりな言いだしは何だったのだろう、何も解決策が見いだせていないと口にすると同時に両手で頭を抱える焔の姿を見て二人は気の抜けた声を溢す。


(シャーフ先輩の話を聞き終わってからずっと考えてるけど全然どころか本当に何も思いつかない…………ど、ど、ど、どうしたらっ!?)


 さっきまで平静を保てていた焔だったが、いざ問題の解決策を求められると表面上で取り繕っていた落ち着きが剥がれ墜ちる。


(相手は同じ学校の生徒で、レイリアと同じ種族。しかもアスクと違って実力行使じゃなくて普通に俺達の結婚を疑問視してるっていう真っ当な反応……間違っても力押しなんか出来ない!)


 アスクの時は殺されそうになった、それも自分だけで無くレイリアもだ。あの時はそうさせない為に真っ向から挑み、ヴォルカニカの力を借りて追い返すことが出来た。けれど、今回はそうはいかない。今度の相手は自分と同じ学生で、命を狙ってくるわけでも力ずくでレイリアと引き離そうとしている訳では無くただ自分が本当にレイリアに相応しい相手なのかと疑問を持っているだけなのだ。それを自分がレイリアと一緒にいる事でハッキリと指摘できないだけで、問題自体は命がけの戦いよりずっと穏便である。

 しかし、だからこそ自分がどう動けばレイリアだけで無く同じ立場にある兄とその婚約者、そして自分達の結婚に誰よりも期待と援助を注いでくれている母達の努力を無駄にせずにすむのか。何より自分とレイリアの関係に疑問を抱いている生徒達を納得させられるのかが分からない。

 頭を抱え眉間に皺を寄せ無言で思考の海に潜る焔の形相は鬼気迫ったものだった。


「良し、いつもの焔だな」


「情けない気もするけど、らしいと言えばらしいのかもね」


 だと言うのに武と志保は反対に安堵の表情を浮かべる。

 種族が違えどレイリアという一人の少女を想い、支え、支えられる焔の姿は恋を育む相手を持たない武達には眼が霞むほどの眩しさと自分達では届かないというなんとも言えない疎外感を感じさせられたのだろう。

 しかし、目の前で慌てふためく友人の情けなくもよく知る姿に二人は胸を撫で下ろすのだった。


「でも実際、放っておいても良いこと無いよな」


「それは間違いないわ……シャーフ先輩、何か良い解決方法ってありますか?」


「うーん、無くは無いん――」


「あるのか! あるんですか!! あるんですよね!? あるなら今すぐ教えてください、お願いしますっ!!」


 必死に解決策を模索する中で、藁にも縋りたかった焔の耳に届いたのはリーの鶴の一声。何処か気乗りしていない様にも聞こえる声音なのだが、焔はその事に気付くこと無く椅子から飛び降りて膝を折り、コンクリートの堅く冷たい床面に額をこすりつけた。

 恥も外聞も無いとはこの事だろう、コンマ一秒も躊躇うこと無く見事なまでの土下座をくり出す焔。


「お、教えるから頭を上げてよ。元々、レイリア様と弟君の婚約について変に騒がれる前に解決しようって相談したくて探してたんだから」


「あ、ありがとうございます!!」


「良かったな、焔! 少なくてもシャーフ先輩は味方みたいだぞ」


「他にも焔君に味方してくれる人っているんですか?」


「うん、基本的に三学年は協力者だと思ってくれて良いよ。でも表立って協力は出来ない、あくまで弟君の頑張りに掛かってるんだ。提案者としては申し訳ないんだけど」


「そんなこと無いですよ、凄く心強いです!!」


「そう言ってくれると私もほっとできるよ、余計なお節介になるかもだし……でも、その心配も無いみたいだし出来る限り手助けさせてもらうね!」


 この件に関して当事者であるレイリアは除くとして、武と志保が味方してくれているので焔は決して孤立無援ではない。だが、そこに庚のクラスメイトで理解者で解決策まで準備してくれているリーの増援は涙ものである。


「それじゃ早速だけど、これからどう動くか決める前に弟君に聞いておきたいことがあるんだけど良いかな?」


「はい、何でも聞いて下さい。俺に答えられる事なら全部答えますから」


「なら遠慮無くレイリア様との私生活はどんな感じなのか確認させてもらうね」


「あの………………それ、本当に必要ですか?」


「必要ですかって……解決策を練る為には、二人が今どんな状況なのかを確認するのは必須だよ。私の方から質問していくけど、弟君はそれに答えてくれれば良いから」


「は、はあ……」


 自分達が普段、どんな風に過ごしているか答えるだけで本当に問題の解決に繋がるのだろうか。しかし、すでに解決策があるような事を言っていたのだから決して無駄な事では無いのだろう。

 焔は戸惑いながらもリーの質問を待つ。


「まずは、そうだねー……ご飯はどっちが作るとか決めてる? 当番制とか?」


「えっと、基本的には俺が作ってます。偶に母さんに変わって貰う事もありますけど」


 レイリア達と一緒に暮らす今もそれは変わらない。 

 最初は何でも良いから自分に出来る事で家族を支えたかったからだが、今では生活習慣の一つだ。体調が悪い時には母に変わってもらいはするものの、逆に家事をしていないと落ち着かないくらいだ。


「お掃除は?」


「俺がやってます」


「洗濯とかも?」


「洗濯もやってましたけど、そのレイリアとかミルディさんの……し、した、した、下着、とかがあるので今は…………」


「あー、うん。それは、そうだよね」


 リーの質問に淀みなく答えたいた焔だったが、衣服の洗濯を担当する以上は避けては通れない下着の扱いに関しては口籠もるざるおえなかった。日常的に家族が着ている物も洗濯しているとは言え、そこはどうあっても思春期の男子。

 一つ屋根の下で想いを寄せる少女と、年の近い兄の婚約者の物ともなれば意識したくなくとも意識せざるおえないのは当然のこと。要らぬ誤解や逃げられない羞恥心に悩まされるよりも、頼むことが出来る物は頼む。

 同棲をする上で役割分担をするのは決して悪いことでは無いのだから。

 これには質問を投げかけたリーも頬を朱くし、様子を見守っている志保も気まずそうに視線を外す。

 言うまでもなく武は興味心身で耳を傾けていたが、此処でも志保の容赦無い教育的指導を喰らって冷たいコンクリートに突っ伏していた。


「将来を誓い合った婚約者同士とは言え、流石に下着を見たり見られたりするのは恥ずかしいよね。うん、あからさまに欲望に忠実なより良いと私は思うな」


「あ、ありがとうございます」


「とりあえず弟君の方はこれでオッケーだね、次はレイリア様ですね。弟君から聞いた限り、お二人の中は良好なようですけど何か不満とかありますか?」


「…………一つだけ」


「あ、あるんですか! それは一体どんな事ですか!? 今後の生活に差し支えないのであれば是非!!」


「あんなにイチャイチャしておいて不満が……焔の奴なにしたんだ?」


「下手に口出ししないほうが良いわ、私達じゃ焔君と立ってる土俵が違いすぎる! ここは静観に徹した方がいいでしょうが!!」


 昨日は武と志保が達観するほどの桃色の空気を醸しだし今朝に至っては行ってらっしゃいのキスをすませ、ついさっきは恋人達の定番的『はい、あーん』までしている。リーが言った通り誰が見ても聞いても焔とレイリアの関係は良好その物だ。だが、レイリアの思いもしなかった一言にリーは困惑と驚愕を隠せないまま問いかけ、武と志保は即座に自分達には手に負えないと口を噤む。


「…………ごくりっ…………」


 そして目の前で不満があると言われてしまった焔は、顔から血の気が引いていき真っ青な顔色で息を飲み彼女の口から語られる胸の内を待つ。


「それでレイリア様……弟君に対する不満というのは?」


「……焔が、何もしてくれない……から」


「「「「…………??」」」」


 まるで死刑宣告を受けた罪人のようにレイリアの答えを待っていた焔だったが、レイリアの口から出た言葉に瞼を瞬かせる。聞き間違えたかと他の三人に眼を配るも、リー達もレイリアが何を言っているのか分から無いと首を横に振った。


「あのレイリア様、弟君が何もしてくれないというのはどういうことでしょうか? もしかしてさっき弟君が言っていたのは嘘だと……」


「違う。焔は美味しいご飯を作ってくれる、私が掃除をしてる時、洗濯しているときも手伝ってくれる」


「な、なら弟君が何もしてくれないというのは?」


「……焔の方から手を握ってくれない、キスしてくれない。私に……触れてくれないから」


(何言っちゃってるんですか、レイリアさあアアァァんぁぁああああっ!!)


 焔は今日一番の赤面顔でレイリアの爆弾発言で生じた純度百パーセントの羞恥心があげた声を飲み込んだ。しかし、その一方でレイリアの不満がなんなのかを理解させられてしまったリーと、それを固唾を呑んで見守っていた武と志保も焔に負けず劣らずの一瞬で顔を真っ赤に染め上げていた。

 焔や武達だけで無く、この場で最年長であるリーでさえ刺激がありすぎる不満。それは簡単に簡潔に、難しく考えること無くありのままに言葉の意味を理解するだけな簡単な答え。

 ――要は焔の方からも自分に手を出して欲しいと言うこと、それはもう色々とである。


「強くなろうって頑張って固くなった掌も、柔らかいほっぺも、温かい唇も、全部に触れたい。触れれば感じられる熱が……焔が傍に、目の前にいるって教えてくれる」


 衝撃的な告白に固まる一同を余所に、レイリアは腰をあげ碌に喋れずに居る焔の頬を両手で優しく包み込んだ。


「私の前に、私の大好きな人がいる……それを教えてくれるから私は焔に触る。だから焔にも私を触って欲しい、焔が好きなところを好きなように好きなだけ」


「お、おち、落ち着けレイリア! シャーフ先輩の前なんだぞ、あと武も志保もいるぞ!  人目のあるところで今の発言は拙い!! って言うか、二人きりでも拙いどころか二人っきりの方が危ないですけどっ!?」


 今更な反論でレイリアを止めに入る焔だったが、その効果は虚しくもゼロ。レイリアは焔の言葉に耳を貸してはいるが止まる気配は無い。


「でも、そうすれば焔にも伝わると思う。言葉だけじゃない……私も焔の傍にいるって。だけど焔は、焔からぎゅっとしてくれた日から何もしてくれない」


「あれは、そういう雰囲気とか流れとかもあったけど、あの時はそうしなくちゃレイリアを安心させられないと思って――ほら! 今日は頭撫でたよな!?」


「それをもっとして欲しい、そうすればもっと焔を感じられるから」


「レイリア、レイリアさん! 謝る、謝るから!! ほんっとに話を聞いてっ!? 」


 特に悪い事をしたわけではないのだが、焔はレイリアの有無も言わせない言葉責めに謝罪の言葉を溢す。レイリアも焔の性格を知っているはずなのだが、表情にでなかっただけで彼女も色々と不満――不安を溜め込んでいたのだろう。

 容赦無く焔を言葉責めにしてはいても、チャームポイントの猫耳はへにゃりと下がり尻尾の動きも緩慢だった。


「……なら、焔も触ってくれる?」


「そ、それは色々と心の準備が! 覚悟が必要でですね!」


「私……魅力、無い?」


「ありすぎるから困ってるって話なんですけどおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 何を話しても話が噛み合わない事に焔の精神は際限なく沸き上がる羞恥心の前にオーバーエンド寸前である。助けを求めようにも的確に助け船を出せる庚はおらず、このやり取りを羨ましく思いつつもレイリアを宥められるミルディもいない。

 いるのは焔と同じく顔を赤くして我関せずと明後日の方向を向く同級生と上級生だけ。


「ああ……から頼まれ……まさか、こんな…………うぅ、…………安請け合いしすぎた……」


 そんな中、しゃがみ込むリーは震える声で弱音を吐く。だが、その声は小さく慌てふためく焔達の耳には届かなかった。それでも幾分か気を紛らわすことが出来たのか、露骨ではあったが大きな咳払いをして焔に言い寄るレイリアに声を掛けるリー。


「あー、レイリア様。夫婦間の問題は、やはりご自宅で話し合った方が良いと思いますよ。ですので今は婚約に納得し切れていない子達の対応をしましょう」


「…………分かった」


「そ、それで肝心の解決策っていうのは?」


 レイリアが渋々引き下がってくれた事に安堵した焔は、すかさず話題転換の波に乗ろうとリーに解決策の内容を求めた。


「二人が答えてくれた事から用意しておいた解決策の一つが使えると思う、それも用意したものの中で一番簡単で手っ取り早いやつだね」


「そんなお手軽な方法があるんですか!」


「うん、その方法って言うのがね――レイリア様と戦う事なんだよ」


「……はっ?」


 話の路線が元に戻ったことで焔の赤かった顔も徐々に落ち着きを取り戻していく。しかし、それは青ざめるといった変化はないが、焦り、困惑といった感情が顔を出していた。




「だから、弟君がレイリア様と戦うんだよ!!」

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 そして、リーの提案である解決策に焔は動転の叫びを上げるのだった。






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