第25話 祝・初勝利! でも、何かが『ズレてる』
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迷宮の奥へと進んで、俺たちは一度休憩を取ることにした。
戦闘の疲れを癒してると、スマホがピコンと鳴る。
『階層:第八区画 記憶適応型エリア』
『踏破情報を確認中……ルルの記憶に基づくフィールド構築を開始します』
「あれ、次は私?」
ルルがちょっとだけ目を丸くする。
霧が晴れて、目の前に現れたのは――。どこか静かな住宅街の一角。
そして、ひとつの家の前に立っていた。
「ここ……私の家だ。中学生の頃に住んでたところ」
扉が自動で開き、俺たちは中に入る。リビング、廊下、そしてその奥には、整えられた一室があった。
机、本棚、ぬいぐるみ。整頓されたその部屋に、ルルがゆっくりと足を踏み入れる。
「この部屋、ぜんぶ……懐かしい」
彼女は机の引き出しをそっと開け、奥にあった古びたキーホルダーを取り出した。
「これ、あの頃……」
その瞬間、部屋の空気が微かに震え、淡く光る映像が現れた。
そこには、小さなルルと幼なじみの少年がいた。
映像の中、小さなルルは笑っていた。その隣で少年もにこにこと笑っていた。
最初は、ただ仲の良い幼なじみ同士にしか見えなかった。
でも映像が進むにつれて、ルルの表情がほんの少しずつ曇っていく。
「この記憶……本当にいるの、かな」
彼女がぼそりと呟いた。
映像の中、少年がルルの肩に触れる。その手が、少しずつルルの背中を撫でるように滑っていく。
笑っていたルルの顔が、こわばる。
「遊びって言ってた。『秘密の遊び』だから、誰にも言っちゃだめって」
ルルの声が震えていた。
「小さかった私は、それを……拒めなかった」
彼女はキーホルダーを握りしめた。強く、痛いほどに。
「それからずっと、誰にも触れられたくなくなった。剣を持って、強くなって、誰にも踏み込ませないようにした」
静かだった部屋が、ほんの少しだけ暖かくなった気がした。
「でも……それでも、たまに思うんだよ。誰かに、気づいてほしかったって」
彼女はゆっくりと振り返り、俺の目を見る。
「御崎くん。あの時の、君の《いいね》……ちゃんと、届いてたよ」
俺は返す言葉が見つからなかった。
ただ胸の奥がぎゅっと痛くなって、何かを抱きしめたくなる。
ルルはふっと笑った。
「あの頃、誰にも言えなかったのにね。今こうして、自分で話してるなんてさ」
「……話してくれて、ありがとう」
俺はそう言うのがやっとだ。
「……ううん。聞いてくれて、ありがとう」
ルルはそう言って、少しだけ目元をぬぐった。その瞬間、部屋の空気がふわりと変わる。
スマホが反応し始めた。
『記憶ルート:解放完了』
『感情ログの保存に成功しました』
ルルの部屋が、ゆっくりと霧に包まれていく。でもその霧はもう怖くなかった。
「じゃあ、次行こうか。今度は、誰の記憶かな?」
ルルがいつもの笑顔に戻って、俺の手を引く。その手は、すごくあたたかかった。
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