第23話 記憶の扉、その先で『また会えたら』
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階段を下りた先は、今までとちょっと違う空気だった。
空気がやけに静かで、音が吸い込まれていくみたいな感覚があった。
俺のスマホがピコンと鳴る。
『階層:第七区画 記憶適応型エリア』
『踏破情報を確認中……ユナの記憶に基づくフィールド構築を開始します』
「わ、私の記憶って……。ちょっと待って、なんで急に私!?」
ユナが半歩下がるけど、もうマップの表示は止まらない。
広がった先は、学校みたいな作りだった。
廊下、ロッカー、そして教室。
「あれ……これ、私の中学の廊下だ」
ユナが呟いた。
ルルが興味津々で教室の扉を開けると、中には机が整然と並んでいて、黒板には『ようこそ』って書いてあった。
「これ……全部、ユナの記憶から?」
「ちょっとやめてよ、恥ずかしいってば!」
俺は黒板の隅に描かれた落書きを見て、思わず笑った。
猫耳キャラと『放課後、屋上集合!』の文字。
「このへん、やたらとリアルだな……」
「あ――!! それ、私のじゃないからね!? 友達が勝手に!!」
ちょっとした騒ぎになってるけど、なんだか空気はやさしい。
記憶がこんな風に迷宮に影響してくるなんて、少し不思議な気分だった。
教室を抜けた先には、保健室のような部屋があった。
ベッドが並んでいて、カーテンもついてる。
「うわ……ここも覚えてる。熱出して寝かされたとこ」
ユナが苦笑いしながらカーテンをちらっとめくる。
「中に誰かいたりしてな……」
俺が冗談を言った直後、スマホが鳴った。
『幻影型記憶パターンを検出。記憶の再現を開始します』
「うわ、マジで出た!」
カーテンの奥、ベッドにぼんやりと人影が浮かび上がる。
ユナと同じ制服を着た女の子。笑ってるけど、声は聞こえない。
「あの子……同じクラスの子だ。よく話してた……けど、引っ越しちゃったんだ」
映像が消えると同時に、マップが再構築され新しい通路が開かれた。
『記憶ポイント到達:解放ルートを追加しました』
「こんなふうに、ちゃんと記憶が道になるんだな」
「いい記憶だったから、通してくれたのかもね」
「……悪い記憶だったら、どうなるんだろ」
ユナがポツリと呟いたけど、すぐに「ま、考えても仕方ないか」って笑った。
その笑顔が、ちょっとだけ強がってるように見えた。
通路を抜けた先は、階段の踊り場みたいな広場だった。
天井が高くて、少しだけ光が差し込んでいる。
マップがピコンと更新された。
『エリアボスの存在を感知。警戒レベル:高』
「ボス……来たか」
ルルが短くつぶやく。
ユナはちょっとだけ顔をこわばらせたけど、すぐに気を引き締めるように深呼吸した。
「御崎くん、準備できてる?」
「まあ、心の準備なら……」
そのとき、マップの右上に真っ赤なマーカーが点滅した。
ぐん、と動いている。こっちに向かってくる。
「やば、移動型だ!」
「FOEってやつ!? 一歩ごとに近づくタイプだよね!?」
「名称は出てないけど、たぶんそれだな……!」
俺たちはすぐさま退路を確認し、戦闘準備に入った。
でもどこかで、不思議と落ち着いていた。
きっと、ここまで一緒に来たふたりがいたからだ。
「さーて、派手にやりますか!」
ユナが笑って、拳を構えた。
「任せといて。スレンダーの意地、見せたげる」
ルルが剣を構える。
「俺も……やれること、全部やる」
真紅の光が近づいてくる。重い足音が階層全体に響いた。
次の戦いが、始まろうとしていた。
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