第21話 塔の分岐と、うっかり踏んだら『トラップ芸術』
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塔の内部に足を踏み入れた瞬間、スマホの画面が自動的に切り替わる。
表示されたのは、碁盤のようなマスで構成されたダンジョンマップ。
俺の視界とリンクし、一歩踏み出すごとにマスが青く塗りつぶされていく。
『マップ更新:現在位置を記録中』
『周囲5マス分を自動検知します』
「……やっぱ、来たな。マッピング式の迷宮」
俺はスマホを軽く傾けた。マップ上には白いマスと、探索済みの青いマスが広がっていく。
「これ……、歩いたとこだけ記録されるのか」
「わっ、こういうの、ちょっと燃えるかも!」
ルルは嬉しそうにくるりと1回転する。
「まあ、マッピング系の迷宮って情報命だしね。あたしも嫌いじゃないよ」
ユナも興味津々といった顔で、マップを覗き込んだ。
「こっち、3マス先で行き止まり。……でも、なにかあるっぽいな」
マップにはうっすらと光の波のようなものが揺れている。
一行は、慎重にそのマスへ向かって進んだ。問題の場所にたどり着いた瞬間、スマホが反応した。
『この場所には仕掛けがあります』
『調べますか? ▶はい/いいえ』
「うわ、ほんとに出た。選択肢……」
「罠か、ご褒美か……。運だな」
「迷宮って基本、優しくないよね? 大体『押したら爆発』とか、『踏んだら奈落』とかじゃん?」
ルルが若干警戒した様子で一歩下がる。そのすきに、ユナがずいっと前に出た。
「なら、私が押す!」
「ちょっ、待てユナ!? 軽率すぎない!?」
「いいの! 私は直感派なの!」
ポチッ。
ユナがスマホの『はい』をタップした瞬間、足元の床がゴウンと音を立てて沈んだ。
「うわあああ!? やっぱりトラップかーい!!」
足元の板がバネ仕掛けで跳ね上がり、派手に後方へ吹き飛ばされるユナ。
ルルが爆笑しながら駆け寄った。
「ユナ、無事!? っていうか、すごい跳ねっぷりだったよ!」
「痛い……。でも、なんかスッキリした……!」
『罠を発動しました:ダメージなし』
『マップに《この場所は罠だった》と記録しました』
俺は苦笑しながら、画面に新たに書き加えられた『赤いバツ印』を確認した。
「……罠は、選択肢を選ばないと分からないってことか」
「つまり、試してみないと正解も罠も見えない」
「うわ、これ思ったより手ごわいやつだ……」
その後も、マップの各所で選択肢が出現する。
『祭壇に触れますか? ▶はい/いいえ』
『この宝箱を開けますか? ▶はい/いいえ』
『うっすら光る壁に手を当てますか? ▶はい/いいえ』
押せばアイテムを得ることもあれば、またしてもトラップが炸裂することもある。
マップには、そのすべてが記録されていく。
スマホは、すでに20以上のマスを『探索済み』として塗りつぶしていた。
ルートは複雑に枝分かれし、既にどこから来たのかも分からなくなりそうだった。
「御崎くん、これちょっと難しくない?」
ルルが顔をしかめながら画面を覗き込む。マップには未踏ルートが左右に3本、上に1本伸びている。
「いや、分かる。探索は楽しいけど、脳がだんだん疲れてくる……!」
ユナは両手をあげて伸びをしながら、大きな欠伸をひとつ。
「でもさ……なんか、こういうの久々で楽しいかも」
その言葉に、俺は小さく笑った。
「うん。単純だけど、地道な歩みがちゃんと結果になるのって悪くないよな」
そのとき、マップの右上に新たなマークが浮かんだ。
『強敵シンボルを検知しました』
『現在位置との距離:7マス』
『移動型:プレイヤーの行動に反応して接近します』
「……来たか。FOE系」
指先でそのマスを拡大する。真紅の丸が、一定間隔でこちらに向かって動いている。
「これ……。『一歩動いたら一歩近づく』ってやつ?」
「そう。だからこっちの行動数で敵の移動も決まる。戦うか、避けるか、早めに決める必要がある」
ルルの瞳が鋭くなった。
「私ああいうの、結構燃えるんだけど」
「燃えないで!? 逃げよう!? まだレベル低いって!」
すばやく逃走ルートをマップに記録し、最短で下階層に抜けるルートを確保した。
敵の影がマップのすぐ隣の列にまで迫ったとき――。
『この扉を通過しますか? ▶はい/いいえ』
立ちはだかるのは、どこか不気味な鉄扉。
「押すか……」
ためらわずに『はい』をタップした瞬間、扉が開き次の階層への階段が姿を現した。
敵はマップの境界線で止まり、霧の中に静かに消えていった。階段を降りながら、ルルがぽつりと言った。
「蓮くん。なんか迷宮の扱い方慣れてきたね」
「ん……。まあ、マップって性格出るんだよ。地道に着実に。……それが一番安心する」
ユナが横からひょっこり顔を出す。
「さすが、《地味さのプロ》!」
「……お前、そうやってからかうのやめないよな」
「ふふふ、安心するでしょ? こっちは《直感型の天才》なんだから」
軽口を交わしながらも、次の階層の空気は張り詰めていた。
階段を降りきった先、霧の中から再び選択肢が浮かび上がる。
『あなたの選択が、ここから先を決めます』
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