第2話 誰だお前!? いや、そっちこそ誰だよ!?
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足音が止まった。
通路の先、ひんやりした石壁の影から、ひょこっと誰かの頭がのぞいた。
――女の子、だ。
年は……たぶん、俺と同じくらいか少し下くらい。
腰まであるポニーテールに、やたら動きやすそうな格好。肩には武器らしき何かを背負ってる。
だけど、それよりも――
(……え。何だその胸。デカイ……)
「ちょっと!? どこ見てんのよ!」
どん!
突如、石つぶてが飛んできた。
あぶなっ、と身をよじってよけたものの、ギリギリで頬をかすめた。
「ちょっ、なんで石投げた!? 今の完全に殺意あったろ!?」
「見てたじゃない、思いっきり! ていうか変態!?」
「いやいや、待て待て待て! お前こそ誰だよ!?」
互いに警戒モード全開。通路の真ん中に、奇妙な緊張感が漂う。
女の子は少し間を置いてから、じっとこちらを見た。
「……あんたも、さっきこの迷宮に『飛ばされた』の?」
「たぶん……。そう、なのか?」
俺はスマホの画面を見せた。Mapphoriaはまだ静かに稼働している。
女の子はそれを見た瞬間、目を見開いた。
「それ、同じアプリ……」
「お前も?」
「……うん。起動したらここに来てた。訳もわからないまま、気づいたら最初の通路でスライムに追いかけられてさ。
武器のひとつもないっていうのに、こちとら逃げ回って……!」
どこかで聞いたことのあるようなセリフだな、と思った。俺もだよ、マジで。
「とりあえず……敵、いないよね?」
「たぶん。でもさっき通路で変なのに追われた。骨っぽいやつ」
「あ、それ私も見た。仮面かぶってたでしょ?」
「そう、それ」
目を合わせたまま、ふたりともふっと息を抜いた。
敵が共通なら、たぶん同じ階層からスタートしてる。妙な安心感があった。
「……で、名前。あたしは真白。真白ユナ。19歳、迷宮初心者」
「俺は御崎 蓮。20歳、大学生。……元・探索者」
「げっ、本物のプロじゃん!」
「いや、違う。2年前にやめた。そっちは?」
「インドア派。RPGはやるけど、体育はサボるタイプ!」
胸を張る真白に、ツッコミたくなるのをこらえた。
彼女のスマホを覗き込むと、やはりMapphoriaが同じように起動している。
表示されているマップは、俺の画面とほぼ同じだった。
違うのは――。
「お前のスキルある?」
「あるある! えーっとね……。『簡易マップ・レベル0』って書いてある」
「俺は『迷域マップ・ユニークコード001』。……レベル1ってなってる」
「レベルもコードも違うんだ?」
「たぶん、個人ごとに違うやつなんだろ。ランダムか、特性か……わからないけど」
とにかく、今わかってることはふたつ。
ひとつ、ここは現実。
ふたつ、俺たちは『似たようなスキルを持ってる』。なら、次の答えは簡単だった。
「真白、ひとりで動けるか?」
「……本音言っていい?」
「言え」
「めっちゃ怖い! さっきから膝ガクガクだし!」
本人は泣き笑いみたいな顔で言ったけど、握ったスマホが微かに震えてるのが見えた。
それでも逃げずにここに立ってる、それだけで十分だ。
「じゃあ、一緒に行こう」
「えっ、いいの?」
「マップスキルがふたりいれば、進める道も倍になる。多分な」
「ふふん、頼ってよね? 私は地図系のアイテム収集なら得意なんだから!」
あんまり自信満々に言うから、思わず笑ってしまった。
「それにしても……」
真白はチラッと俺のスマホを見て、つぶやいた。
「『ユニークコード001』って、なんか特別っぽくない?」
「うん、俺もそれ思ってた」
「まさかさ、あんたチート系主人公だったりしない?」
「だったらもっとド派手なスキル欲しいわ……。マップ表示しかできないんだぞ?」
「いや、地図って重要だよ!? マジで! RPGでマップ埋めるの超好きなタイプだし!」
「つまり『マッピング中毒者』ってこと?」
「失礼な。ちゃんと『マッピング愛好家』って呼んで」
なんだか思ったよりも元気そうで、ちょっと安心した。けどその直後――彼女の表情が、少しだけ陰る。
「でもね。私……ずっとひとりだったら、たぶん途中で泣いてたかも」
ふと漏らした声は小さかったけれど、重みがあった。
「ほんとに、一緒に来てくれてありがとう」
正面からそんなことを言われると、こっちが照れる。だから俺は、スマホを掲げてニヤッと笑った。
「マップに出てたんだよ、お前の場所。赤点じゃなくて、青点でな」
「え、マジで!? 私『仲間マーカー』扱いなの!?」
「自覚あるなら、ちゃんと役に立ってくれよ?」
「おっけー、がんばりまーす!」
……この先に何があるか、俺たちはまだ何も知らない。でも、ひとつだけ確かだった。
――地図は、まだ『全部』は埋まっていない。
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