帝国第二皇子視点 兄は俺達にも恐竜でしたが、かわいいエリが抑えてくれました
俺はこの世界最大の帝国の第二皇子だ。
まあ、第二皇子だから、基本はこの帝国を継ぐわけはない。
というか、あの狂人的な兄には力では絶対に敵わない。
何しろ兄は今では恐竜皇子だ。
その魔術の量も大きく剣術の腕も確かで、小さい時から兄が継ぐのは決まっていた。何しろ9歳の時にすでに父や剣聖以外の将軍たちとは互角に戦っていたのだから。
帝位継承争いなんてするまでもなく、誰が強いかは一目瞭然だった。
それに、剣聖亡き後は、俺達兄弟の武闘系の教育係になっていたので、逆らったら終わるというのが小さい時から本能的に叩き込まれていた。
それに、我が帝国は基本は一夫一妻、皇帝と言えども世界の真理を破るわけにはいかない。
別に教会を擁護するわけではないが、昔からそうだ。だから当然皇帝の妻も一人で死別しない限り同じだ。
我が家も第一皇子のレオンハルト兄から三番目のマルクスまで同じ母だ。お家騒動の起こりようもなかった。
でも、俺が7歳の時に、侯爵家から嫁いで来た礼儀作法や勉強に厳しい母は、東方10カ国の、いやあれはおそらくチエナの示唆を受けたAAAのテロで殺された。
あの時は宮殿にも殺伐とした空気がみなぎり、皆暗くなっていた。
そんな時に、現れたのが、その東方との戦いで戦死した剣聖の娘のエリーゼだ。
3歳時のエリは、その母の血を受け継いでいるみたいで、俺から見ても可愛かった。
その動きも3才児らしく、ちょこまかして可愛げがあった。
父がその母を見て鼻の下を伸ばしているのは知っていた。まあ、俺達の鬼母に比べたら、剣聖の奥さんはとても優しそうだった。
しかしだ。そのエリが何をトチ狂ったのか、我が狂犬兄上を見て「馬になれ!」って言い放ったのだ。
俺はよほどやめろ、殺されるぞと言いたかった。兄に殺されるから言えなかったけれど。
乱暴な兄を止められるのは剣聖か父だけだった。
その父はくだんのエリの母と仲良くしてここにはいなかった。
兄は弟の俺達にも容赦せずに死の特訓をしてくるのだ。ここはこの子も半殺しの目に遭うと思ったのだ。
しかし、だ。
兄はなんとこの子の言うように馬になってやったのだ。
「「「えっ?」」」
俺達は開いた口が塞がらなかった。
皆驚いてぽかんと兄を見てしまったのだ。
「お兄ちゃん、もっと早く! 今度はあっち!」
エリは命知らずにもあのレオン兄に次々と命令していくのだ。
「いや、あの」
「エリーゼ様!」
おつきの者達が必死に止めさせようとしたが、エリは全然平気だった。
そして、あろうことかその馬にした兄の上で寝てしまったのだ。
そして、そしてだ!
なんと、鬼の狂犬皇子のレオン兄がそのエリを抱えて嬉しそうな顔をしているを俺達は見てしまったのだ。
俺達は唖然とした。
「兄上、これは嵐でも来るんじゃない?」
驚いて言う弟の口を思わず塞いだくらいだった。
もう周りの騎士も侍女もびっくりしていた。
そのエリーゼが俺達の義理の兄妹になったのはそれから2年後だった。
俺達に新しい母上が出来て、俺達もとても嬉しかった。
母上は俺達の亡くなった母上と比べてもとても優しかった。
今までは父や剣聖のムチに兄のムチ、それに母上のムチと俺達にはムチしか無かったのに、母上は本当に優しくて俺達の癒やしになってくれたのだった。
何しろ母上は、厳しく向こう見ずなだけの父や教官、兄上に対しても行き過ぎだと思ったら俺達を庇ってくれるのだ。あのまま父や教官や兄の言うように訓練されたら俺達は絶対に死んでいた。何しろ彼奴等の基準がおかしいのだ。
「レオンハルトは耐えられたから……」
おいおい、化け物と一緒にするなよ!
何しろ兄は9歳でゴブリンの巣に置いていかれてもそのゴブリンを殲滅して帰ってきた。
ダンジョンの制圧の最低年齢記録の更新。嵐の海の中からの生還だとか、竜の巣からの生還だとかもう凄まじいのだ。
「そんなレオンハルト様と一緒のレベルで考えられるのは間違っています」
母のその現実を見た言葉に俺達は何度命を救われたことか。
本当に脳筋共をなんとかしてほしかった。
それに一緒に義妹になったエリも俺達にとっては癒やしだった。
偶にままごととかつきあわされて最悪だったが、兄上のダンジョンごっことかに比べればましだった。
何しろ兄はまだ未成年の俺達を連れて本物のダンジョンに潜るのだ。
本当にたまったものじゃなかった。
兄は魔術も剣術も使えるから良いけれど、俺達は普通の人間なのだ。子供に何を求めるんだよ!
「俺が6歳の時には普通に一人でダンジョンに潜った」って兄は自慢するけれど、化け物と普通の皇子様は違うのだ!
「お義兄様。エリも行く!」
その兄を困らせたのが、エリだ。
じだんだ踏んで連れて行けと泣き叫ばれた時にはさすがの兄も困ったのだ。
何とか置いていこうとしたら、
「じゃあ、母上に言う」
とエリは今度は脅してきたのだ。
「絶対に泣き言を言うなよ」
兄はむっとしてエリを連れて行ったが、俺達はほっとした。
これで兄は無理をしないはずだと期待したのだ。
幼いエリを連れているのだ。
絶対にダンジョンの奥まではいかないだろう。
弱い魔物しかいない第一層か第2層で止めるだろうと俺達は思ったのだ。
でも、それが間違いだった。
兄はなんとエリを抱き上げても、最強魔導戦士のままだった!
すでに12歳になっており、ゴブリンだろうが、オーガだろうが、
エリを片手に抱いて平然と戦って倒して行くのだ。
エリもエリだ。普通は怖いとか悲鳴をあげるはずなのに、
「凄い、お義兄様最高!」
とか、言わなくていいのに、褒めまくるのだ。
調子に乗った兄がどんどん、進んでいくので、俺達は置いていかれないようにするだけで精一杯だった。
まあ、片手がエリで塞がっているので、兄は俺達まで余計なことをさせる余裕が無いみたいで、エリが一緒のほうが俺達は楽だったが……
休憩もエリのことを考えてちゃんと取ってくれるし、俺達が合図するとエリも「お義兄様、少し休憩」とエリも俺達を庇って言ってくれるのだ。
一度エリが熱を出して来れなかった時なんて、休憩無しでダンジョンの最深部まで連れて行かれて死ぬ思いをした。
それも帰りも全力疾走なのだ。
「置いていくぞ!」
兄はそう言うと本当に置いていってくれたのだ!
まあ、魔物は軒並み兄が退治していってくれたから危険はなかったが、宮廷に帰るまでが本当に大変だった。
何しろ俺達はまだ10歳未満の子供なのだ!
それだけエリのことが心配ならば、ダンジョンに来るのをやめれば良かったのに!
俺達は心の中でそう思った。
そんな兄はエリに首ったけだった。
エリが風邪を引いたと聞くと、夜通し看病するし、「外にお忍びで行きたい」とエリが頼むと万難排して、本当に連れて行くのだ。俺達からしたらあり得なかった。
俺が「風邪をひいたかも」と言って訓練をサボろうとしたら、
「馬鹿が風邪などひくか、そう言うときは普段の倍、訓練したら治る」
といつもの倍訓練させられたのだ。二度と仮病は使うまいと俺は心に決めたのだ。
そんなエリ命の兄だったが、さっさとエリに告白しておけばよかったのに、ぼうっとしているからエリをサンタルなんかの三流王国に取られたのだ。
エリがいなくなったと知った後の兄はからかうのも可哀想なくらい憔悴していた。
こんな兄を見たのは初めてで、俺は何も言えなかった。
そして、その兄の激怒の対象になったのが、東方10カ国だった。
東方10カ国もいい面の皮だったと思う。
兄の鬱憤の全てをぶつけられて東方10カ国連合軍は壊滅してしまったのだ。
本当に彼奴等も馬鹿だ。
怒り狂ってまっすぐに突っ走ってくる恐竜に、ま正面から当たるなんて愚かなことをすれば、弾き飛ばされて壊滅するのは当然ではないか!
もう少し考えないと。
東方10カ国は平定されて、トチ狂ったサンタルが兄の恐竜皇子の眼の前でエリを婚約破棄して、当然のごとく滅ぼされた。
そして、その後、エリと兄がやっとうまく婚約できたのだ。
世界は平和になった。
ここの所、戦続きで、平和を俺達も歓迎した。
あのいつも怒っている兄が、気持ち悪いみたいにニコニコ笑っていると情報が入ってきて俺は目を疑った。
世界的に見ても、恐竜皇子が静かにしているということが、平和のためにはとてもいいことだった。
このまま、愚かな馬鹿者がエリに手を出そうとしない限り、世界は平和なはずだ。
まさか、眠れる恐竜を起こすような愚か者はいないだろう。
この平和が続けば、俺が帝都に帰れる日も近い。そうしたら新しい婚約者を探そうと俺は期待していたのだ。
まさかそんなバカが本当に居るなんて俺達は予想もしていなかったのだ。
いかがでしたか?
第二皇子視点でした。
この第二部のお話週末くらいに書き出す予定です。
ご期待下さい。








