怒った私は二度とお義兄様を部屋に入れないと決意したのに、パフェを持って来られていつものごとく食べさせられてしまいました
私はお義兄様に何度も唇を奪われて完全にパニクってしまった。
でも、絶対におかしい、キスしてくるなんて!
私達は義兄妹なのに!
私は宮殿に着くと、慌てて自分の部屋に駆け込んだのだ。
絶対にお義兄様はおかしい!
私はとりあえず、部屋にこもって考えることにした。
絶対にお義兄様は変なのだ!
確かに、小さい頃にお義兄様と結婚したいと言った記憶はあるが、それは子どもの戯言なのだ。
お義兄様はこの帝国の第一皇子、いずれは皇帝陛下になるのだ。
その相手が私で良い訳はないのだ。
二代続けてお母様の血が皇后になるのはどうかということなのだ。
それをアリスに言うと、
「でも、お嬢様。前皇后陛下は、サンタルのアルナス子爵家の出身なのです。お嬢様はこの帝国の武の名門ロザンヌ公爵家の出で、それも帝国の恩人剣聖バージルの娘なのです。この帝国において、お嬢様ほど尊き血の方はいらっしゃいません」
「えっ、でも、私は公爵家の直系じゃなくて」
「何を仰っていらっしゃるんですか! そもそも、お嬢様のお祖父様が現公爵様で、十分に直系ではないですか? それにお嬢様のお父上はその次男ですが、長男のシャルル様のお家にも女のお子様はいらっしゃいませんし、現公爵様もシャルル様もお嬢様を大切になさっておられますし、シャルル様は弟の可愛い娘だから養子にするのは何も問題はないとおっしゃっていらっしゃるのです。騎士たちにしてもお嬢様のお父上のバージル様のご活躍で、大勢の騎士の命が救われたのです。その命の恩人の遺児を第一皇子殿下の嫁にするという事は、皇帝陛下からみても、騎士たちの心理から言っても、帝国は遺児を粗末には扱わないと内外に示すことになりますし、十分な美談になります」
「えっ、そうかな」
私はそう言われてももう一つピンとこなかった。
「前皇后様はそもそも、サンタルの子爵家の出で、それは今回統合された国々からしても自分等の娘が皇后になりうるという統治上のプラス要因になりますし、お嬢様は武の名門ロザンヌ公爵家の直系で、しばらく、公爵家からは皇后陛下が出ておりません。何も問題はないのです」
アリスにそこまで言われたらそうなのかもしれないけれど、
「でも、他の家の方々はそう思われないのではなくて。チエナの王女殿下のこともあるし」
「しかし、東方も片付きましたから、とりあえず、チエナの力を借りる必要もありません。今帝国は大陸最強の国家ですから、お嬢様の血筋はチエナの王女よりも下手したら上です」
「そうかな」
私にはもう一つよく判らなかった。
「それにお嬢様は多くの帝国の騎士たちの女神なのです。お嬢様が他国に嫁がれた方が士気が下がります」
アリスの言うのはその点に関してはそうかもしれなかった。
騎士の女神役をやるのは結構大変だったし、お母様も苦労していた。
「でも、相手はお義兄様なのよ。私にとって」
「まあ、そうですけれど、レオンハルト様で、何の問題があるのですか?」
アリスが逆に聞いてきた。
「いや、だってお義兄さまだし」
「しかし、お嬢様の観点から言うと、政略結婚して、一から知らない人の所に嫁に行くと何かと大変ですよ。少なくともレオンハルト様については、幼少の砌から知らないことはないはずですし、レオンハルト様にはお嬢様が遠慮する必要は無いではないですか」
それは確かにそうだ。
「それにレオンハルト様と結婚しても嫁姑の問題はありませんし嫁舅の問題もありません。陛下はお嬢様にとても甘いですし、昔から義理の娘であることは代わりません。
それと女官長からも言われているのですが、陛下とレオンハルト様が喧嘩されてもお嬢様はお二人を押さえられる唯一の方なのです。他の者では陛下やレオンハルト様にきついことはいえませんが、お嬢様なら平気で言えます。お二人に説教できるのは帝国広しといえどもお嬢様しかいらっしゃらないのです。それにお二人を見ているとお似合いではないかと宮廷に勤めているものや、騎士たちはそう思っております」
「それはお義兄様だと思うからよ。恋人はまた別よ。お義兄様のくせに、いきなりキスしてくるなんて絶対に許せない」
「でも、それはとても嫌なことでしたか?」
「えっ?」
アリスに言われて私は真っ赤になった。
「いや、別に……いや、絶対にいやよ」
私は首を振ってアリスに言い切ったのだ。あんな卑怯なことをするお義兄様は嫌だ。
そこへ別の侍女がやってきてアリスに何か囁いた。
アリスが困ったような顔をしたが、
「どうしたの?」
そう聞くと
「レオンハルト様がいらっしゃったのですが」
「会わないわよ。絶対にお義兄様は許さないんだから」
私はムッとして言い放った。
「お詫びに王宮のシェフが作ったという巨大パフェを持ってこられたそうですが……」
「えっ」
私は驚いてしまった。
そう言えば、昔、お義兄様に王宮特製パフェがあればとても嬉しいと言った記憶があった。それをわざわざシェフが作ってくれたんだろうか?
「嫌だというのなら、騎士たち皆で食べてしまうがとのことですが」
「そ、そんな……」
怒った私はどこかに行ってしまったのだ。
「とりあえず、見てみるだけ」
そう言った私が間違っていた。
部屋に入ってきたお義兄様が
「エリさっきは申し訳なかった」
と言って頭を下げてきた手に持っているお盆の上に、大きなフルーツパフェが乗っていたのだ。
見た瞬間とても美味しそうだった。
「ふんっ」
私は怒りつつ、目はパフェに釘付けだった。
「ほら、エリ」
そう言うと無造作にお義兄様がアイスをすくって私の口元に持ってきてくれたのだ。
私の口は私の意志に反してあっさりと開いてしまったのだ。
「美味しい!」
私のほっぺたが落ちそうなほど美味しかった。
「ほら、もう一つ」
一つだけと思っていた私の口はまた開いてしまった。
結局私はお義兄様にまんまと餌付けされてしまったのだった……
ここまで読んで頂いて有難うございます
あと、2話くらいで完結の予定です。








