お義兄様と何を約束したか覚えていませんでした
その日も体は重かったけれど、熱は下がったみたいだった。
「お嬢様、お加減はいかがですか?」
アリスが部屋に入って来て聞いてくれた。
「少しマシみたい」
私が言うと、アリスは私の額に手を伸ばしてきた。
「本当ですね。熱は下がったようです」
アリスが喜んで言ってくれた。
「朝は少しは食べられそうですか?」
「うん、おかゆさんくらいなら」
「判りました。すぐに準備いたしますね」
アリスは急いで部屋を出て行った。
私はぼんやり天井を見ていた。
そう言えばお義兄様の夢を見た。
お義兄様は元気にしているんだろうか?
私がぼんやりとしている間にアリスが朝食を準備して戻って来てくれた。
そして、すくって食べさせようとしてくれるんだけど
「アリス、食べるくらい一人で食べられるわよ」
私がむっとして言うと、
「レオンハルト様がいらっしゃらない時くらい私が食べさせられますよ」
アリスが言ってくれた。そう言えば私が風邪をひいた時はいつもお義兄様が食べさせてくれていたのだ。
昔は私も体が弱くてしょっちゅう風邪をひいていたのだ。
ここ最近は引いた事なんて無かったけれど……
その度にお義兄様がかいがいしく世話をしてくれたのだ。
そして、よく、冷たいアイスが食べたいとお願いすると
「風邪をひいている時にアイスは良くないだろう」
「ええええ! 熱のある時にアイスを食べると熱がアイスの冷たさで下がるような気がするのに」
という私なりの飛んでも理論を私が言うと
「そんな訳ないだろう!」
最初は反対していたお義兄様も
「お願い!」
お義兄様を上目遣いでお願いしたら、
「仕方がないな」
とお義兄様も折れてくれて、良く厨房からアイスを持って来てくれたのだ。
その時のお義兄様に食べさせてもらうアイスはとても美味しかった。
「はい、お嬢様、あーーーーン」
アリスがそう言って私の口元にスプーンを持って来てくれるので、思い出していた私はそのまま口を開けてしまったのだ。
アリスがスプーンを入れてくれて
「熱い!」
思わず私はむせてしまった。
「あっ、熱かったですか?」
慌ててアリスは水を飲ませてくれた。
「すみません。そう言えばお嬢様は猫舌でしたね」
アリスが思い出したように言ってくれたんだけど、
「アリス、あなた、私の専属でしょ」
さすがの私もむっとして文句を言ったら
「すみません。だって、食べさせるときは絶対にレオンハルト様がすると言われて、私がさせてもらったことは無かったので……」
アリスが言い訳してくれるけれど。
「だから、自分で食べるから」
私が言い張ると
「たまには私にも食べさせもらっていいじゃありませんか? レオンハルト様がいらっしゃらない時くらいしか私は出来ないんですから」
アリスが言うんだけど、
「えっ、そう言えばお義兄様は?」
こういう時に真っ先に来てくれるお義兄様がいないのに私は気付いた。
「えっ? レオンハルト様は東方十か国が反乱を起こしたので、その鎮圧に向かわれたのです。昨日その事を告げにいらっしゃったではありませんか?」
「えっ、お義兄様は戦場に向かわれたの?」
私は初めて知った。
「昨日、聞かれなかったのですか?」
アリスが驚いて聞いて来た。
「お義兄様、昨日来ていたんだ」
私は昨日のあれが夢では無かったのを知った。熱でうなされていたので、何を聞いたかまではよく覚えていなかった。
「でも、レオンハルト様は部屋から出て来られた時はとても上機嫌でしたよ」
アリスが言ってくれるんだけど……お義兄様は何で上機嫌だったんだろう?
私のキョトンとした顔を見て、
「何かお嬢様と約束したとかおっしゃられて、それはそれは上機嫌でした」
「えっ、お義兄様と何を約束したんだっけ?」
私はよく覚えていなかったのだ。
「えっ、そうなんですか? 『早速衣装の準備をしなければなるまい』と、とてもご機嫌でしたよ」
「うーん。私に衣装作ってくれるって事は、また、パーティーに出ないといけないの?」
お義兄様狙いの女たちの鋭い視線の嵐に耐えないといけないのだろうか?
私はうんざりした。
「えっ、お嬢様、おそらくそんな事ではないと思いますよ」
「えっ、そんなことでは無いって、それよりも酷い事があるの?」
お義兄様は今度は何をさせるつもりなんだろう?
パーティーの女どもの妬みの視線と嫌味の大合唱以上の物なんてあるんだろうか?
私には想像できなかった。
「お嬢様は全然覚えていらっしゃらないのですね」
「だって熱でうなされていたもの。でも、何かで指切りした記憶はあるのはあるのよね」
碌でもないことをまた約束したらしい。
「レオンハルト様もお嬢様が正気の時にされればいいのに! 熱出している時にすることじゃないと思うんだよね」
顔を出したセドリックが言ってくれるんだけど……
私なんかとんでもないことを約束してしまったのだけは判った。
「うーん、お義兄様が確か私の胸で良いとかなんとか、褒めてくれたのは覚えているんだけど」
今まで散々貧乳とか全然ないお子ちゃまだ、とか馬鹿にしてくれたお義兄様が『エリの胸の大きさが俺の好みだ』みたいなことを言われて有頂天になった記憶はあった。
「二人とも私が何を約束したと思う?」
「さあ、下手なこと言うと命が亡くなるので……」
「私の口からは何とも。レオンハルト様が帰って来られたら直接聞かれたらどうですか?」
私が聞いても二人は答えてくれなかったのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
何も覚えていないエリーゼでした……
お話はここから山場に差し掛かります
次話は今夜更新予定です








