AAAトムの視点2 両親の恨みつらみをその子孫らに復讐することにしました
「おかしい」
俺は呟いていた。
恐竜皇子にダメージを与える為の作戦は順調に進んでいるはずだった。
恐竜皇子の想い人の小娘を誘拐して10カ国を平定していい気になっている恐竜皇子の鼻を明かし、混乱させる。恐竜皇子が必死に小娘を探している間に、東方10ヶ国で反乱を起こし東方10ヶ国を復活させるのだ。これが東方10カ国の生き残り連中とチエナ、そしてこの秘密結社AAAが書いた筋書きだった。
この作戦は完璧なはずだったのだ。
「トム大変だ! カジノがガサ入れされた」
ジムが飛び込んで来た。
軍資金を稼ぐためと、要員の隠れ蓑にしていた一つのカジノにガサ入れが入ったのだ。
「今週に入ってから3件目か」
今まで、そんなことは無かったのに、急に帝国の締め付けが厳しくなったのだ。
先日、第4皇子の暗殺に失敗してからだ。
先日王宮に身分を隠して潜入しているメアリーから、第4皇子が孤児院の視察に行くとの報告が入ったのだ。
俺達は今後の事もあり、情報収集のために工作員の一人を孤児院に潜入させた。
決して、暗殺させる事が目的ではなかった。第一皇子ならいざ知らず、第四皇子など殺しても何一つ大勢に影響はないのだ。なのに何をトチ狂ったのか、そいつは偵察任務に失敗したばかりではなく、騎士達に見つかると、今度は第四皇子を暗殺しようとしてくれたのだ。こちらは来るべき大作戦に向けて、第一皇子の思い人の小娘を誘拐しようとしゃかりきになっているのに、端役の第四皇子の暗殺を企てるなど信じられなかった。挙げ句に失敗して、敵の警戒がきつくなって、警備が厳しくなってしまったではないか!
本当にとんでもないことをしてくれた。
その男はテルナンの王族に繋がる男で、帝国に恨みを持つ男だった。結構使える男だと見込んだから、偵察に向かわせたのに……
まあ、第4皇子を暗殺することは失敗したが、恐怖を抱かせることには成功したとは言えたのだが……
これから小娘を誘拐しようという前に、警戒させてどうするのだ!
益々やりづらくなったではないか!
更にだ。同じ頃、我々のターゲットの小娘が恐竜皇子と一緒に出かけたと連絡が入ったのだ。
そちらには、サンタル王国でスカウトした元公爵家の娘で小娘の恋敵だったセリーヌを確認に向かわせた。遠くから二人の仲を確認するに留めるようにあれだけ念を押したのに、小娘に気づかれたかもしれないと報告が上がって来たのだ。
俺があれだけ、遠くから確認するだけで良いと言ったにもかかわらずだ。
新しい奴らは本当に役にたたない。偵察任務も禄にできないではないか!
この元公爵家の娘はまだ使い道があるから、とりあえず秘密の隠れ家に隠したのだ。
それからだ。帝国の追及が激しくなったのは……
セリーヌの行方をしゃかりきになって探してくれているのだ。もっとも帝国の騎士共が絶対に気づかない所にセリーヌは潜伏させたから、見つかりようはなかったが……
セリーヌを探すためか、帝都の入り口に検問ができ、新たな工作員を入れるのも難しくなった。
俺達は仕方なしに、10ヶ国の裏切り者で帝国の属国になったルネゾンとマブリーの連中に接触したのだ。奴らは我らの組織の名前を聞いて一様にギョッとしたが、自国の扱いに忸怩たる思いを抱いていたのも事実だ。我等の背景にチエナ王国が付いているのもプラスになったし、元々両国の王族はチエナの指嗾に乗って反乱するつもり満々だったのだ。
まあ、それを隠すために帝都に人質がてら派遣されてきた奴らは何も知らされていなかったようだが……
本来ならば我等もぎりぎりまで、2国の反乱を内密にするために接触するつもりは無かったのだが、背に腹は代えられなかった。
本国からの指示もあり、彼らは我等の味方をしてくれる事になった。我らの目となり耳となって、帝国の情報を教えてくれたのだ。
しかし、その途端だ。今度は我々の拠点が次々にガサ入れの対象になったのだ。
下手したら、逆に情報が漏れているのかと疑わないまでもなかったが、それらしき形跡もない。
本当にどういう事なのだ?
やはり、セリーヌが見つかったのが、いけなかったのだろうか?
遠くから確認するようにとあれだけ指示をしたのに!
第4皇子の暗殺を謀った者もだ!
本当に二人とも馬鹿な事をやってくれたものだ。
今後の予定に響くではないか!
しかし、泣き言を言っていても始まらない。
取り合えず、作戦の賽は投げられたのだ。帝国の第一王子が今この帝都にいる間が好機だ。10カ国の残党とルネゾン、マブリーの両国軍、それとチエナの派遣してきた特殊部隊が着々と蜂起の準備をしていた。
我らはここ15年かけて少しずつ宮殿には人を潜り込ませてきた。
だからいくら帝国が探っても宮殿内の面々はそう簡単にはバレないだろう。
そして、夜会まではもうすぐた。
前回、カフェギャオスでは、あの恐竜皇子がエリーゼの小娘にデレデレなのが確認できた。
何人もの目撃証言はあったし、うちの工作員も遠目に確認したそうだ。
もう、こうなったら、東方10か国の復活の為にも、あの小娘を誘拐して第一皇子を慌てさせるしかない。
もし第一皇子を足止めできれば、蜂起した東方10か国軍が帝国軍などに負ける訳は無かった。
そう、あの恐竜皇子さえいなければ、そもそもこんな状況にはなっていなかったのだ。
奴さえいなければ、残りの帝国軍など何するものぞ。
我らの工作が上手くいって、現地で徴兵された兵の中でも多くが反乱軍にはせ参じるとの情報を得ている。
東方の帝国軍が内部崩壊して潰走することになるのは確実だった。
戦闘の過程で第二皇子と第三皇子も上手く行けば殺せるかもしれない。
そして、この帝都では愛する娘を人質に取られて苦しむ恐竜皇子が見られるのだ。
恐竜だろうが何だろうが、愛するものさえ人質に取れれば何とでもなる。
最後は恐怖に打ち震えながら我がAAAの前に跪くしかないのだ。
俺の先祖の恨みつらみのすべてを小娘にぶつけて、甚振ってやるのもいいかもしれない。
俺はニヤリとした。
縛られた恐竜皇子の前で、残忍な方法で小娘を甚振ってやったら奴はどうするんだろうか?
泣いて許しを請うのか? それとも発狂するのか?
我が母や父がそうであったように!
帝国と敵対していた王国の王だった我が父は、母と俺が帝国に捕まったのを知って投降してきたのだ。
その時の将軍が当時の帝国第三皇子だった。彼の仇名が残虐皇子。捕虜を捕虜とも思わず、虐待、虐殺の限りを尽くした皇子だった。
皇子は投降してきた父の前で泣き叫んで命乞いする母を散々甚振った後に惨殺したのだ。
そして、それを見て息子だけでも助けてやってくれと叫ぶ父の前で俺も斬られたのだ。
ただ、俺は、致命傷ではなかったみたいで、その後命ばかりは助かり、半死半生で居たところをAAAの面々に救われたのだ。
俺はその時のことを片時たりとも忘れたことはなかった。
その第三皇子は後に反逆を企てて今の皇帝の祖父に殺されたが、俺は帝国に対する憎しみを忘れたことはなかった。
帝国の皇子共は大なり小なり屑なのだ。恐竜皇子然りだ。こいつは本当に残虐非道で、何人ものAAAの面々がこいつに殺されたのだ。
その帝国の恐竜皇子と呼ばれ周りから怖れられる皇子が、その場に立った時にどういう反応をするのか、俺はとても興味があった。
帝国の第一皇子さえ殺せれば、後は、昔東方10カ国に大敗を喫した皇帝なぞ敵ではあるまい。潜入させているメアリー等に暗殺させても良いだろう。
そうなればいくら帝国と言えども崩壊するしかないのだ。
野蛮な帝国の屑どもよ。我が両親に貴様らが取った残虐非道な行いの償いを今度こそさせてやる。
俺は心に決めたのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
さあて、次はいよいよ宮廷舞踏会です。
エリーゼの運命や如何に?
明朝お楽しみに








