怒りのお義兄様が私達を守らなかった近衛騎士を叱責していたらお義父様まで現れました
パシーン
大きな音とともに私は頬に痛みを感じた。
そう、私はベアトリスに頬を引っ叩かれていたのだ。
「姉上!」
驚愕したシスの声がしたが、私はシスが叩かれていなくてホッとした。
私が叩かれるくらい問題はない。少し痛みがある程度だ。
と思ったのだ次の声を聞くまでは……
「何をしているのだ!」
そこには氷のような視線をベアトリスに向けるお義兄様がいたのだ。
「お義兄様!」
「レオンハルト様」
皆完全に固まっていた。
何故ここにお義兄様がいるの?
サンタル王国の制圧をお義父様に命じられていたはずだ。
私達はあのまままっすぐに馬車で帰って、今着いたところなのだ。
お義兄様は、私がお義兄様と別れた所から、わざわざサンタル王国まで戻って、王国を制圧して、ここまで帰って来たって事? そんなの無理だ。
どんなに頑張ってもここにいるはずはないのだ。
それが、ここにいるなんて絶対におかしい。
私は眼の前にいるのが幻ではないかと一瞬思ったほどだった。
でも、どう見ても本物だ。
それも怒り狂っている。これは絶対にいけない奴だ。
「お義兄様。いけないんだ! お義父様にサンタル王国の制圧を命じられたのに、無視して帰ってきたのね」
私は取り合えずお義兄様に話しかけてみた。それも、わざと明るい声で話しかけてみたのだ。
「エリ、何を言うんだ。俺は全ての貴族共を降伏させて帰ってきたぞ」
お義兄様は私にいけしゃあしゃあと言ってくれたけれど、絶対に嘘だ。
「そんなの嘘よ。出来るわけないわ」
「俺に不可能はない。何ならお前の伯父に聞けば良い」
お義兄様は私に得意に話してきたのだ。
これはいけるかも。
私は期待を持って話してみたのだ。
「じゃあ、今からお義父様の所にいっしょにいきましょうよ」
「そうだな。これが終わったらな」
ダメだ。上手くいかなかった。
お義兄様のその声は完全に怒り狂っていた。これは絶対にやばい。
下手したら死人の出るやつだ。
私はさらに足掻こうとして、
「ウグ」
お義兄様に強引に口を塞がれてしまったのだ。
「エリが話すと、話しがややこしくなるから少し黙っているんだ」
私の口を押さえながらお義兄様が言うんだけど、私が話をして誤魔化さないと、絶対に死人が出るやつじゃない。
私はなんとか話そうとしたが、無理だった。
お義兄様の声の端々に怒りがにじみ出ていた。
これはもう無理だ。
私の口も塞がれてしまった。こうなったらお義兄様に勝てるのはお義父様だけだ。
でも、今、二人揃ったら更に酷いことになるのは火を見るよりも明らかだった。
私は仕方無しに、黙っていることにした。
「そこのお前ら! 今公爵令嬢が第四王子を張ろうとした時に、何故前に出て、盾とならなかった」
お義兄様は私達の後ろにいた近衛騎士達にいきなり叱責を始めた。
「いえ、相手が公爵令嬢様でしたので我々としても手の出しようがなく」
私達の護衛をしていた近衛隊長が言い訳した。な、何で言い訳するの! そう言うときはただひたすら謝ればいいのに!
私の心の叫びは届かなかったのだ。
「愚か者!」
お義兄様は一喝したのだ。柱が震えた。
お義兄様の一喝に近衛はもちろん、みんな一斉に縮み上がった。何しろ恐竜皇子として近隣諸国に怖れられているお義兄様なのだ。その大きな声は外にいても聞こえたはずだ。
「近衛にとっていちばん大事なのは皇子の命だろうが! 貴様らがそれを盾となって守らずにどうするのだ!」
お義兄様の叱責が宮殿内に響き渡ったのだ。
叱られた近衛騎士たちは固まっていた。
「それも女のエリに庇われるとはどういう事だ。貴様らそれでも騎士か!」
もう騎士たちは何も言えないみたいだった。
「そんな事で近衛を任せるわけにはいかん。貴様らは今日付けで第1軍に編入する。一から鍛え上げるからそのつもりでいろ」
「そ、そんな」
男たちは青くなっていた。
お義兄様の指揮する第1軍、帝国最強に鍛え上げたお義兄様の指揮する最強軍団だ。シスに馬車の中で聞いた所によると、東方10カ国との戦いで大半の国を殆どその一軍だけで降したらしい。
その一軍は訓練の厳しさでも定評があるのだ。まあ、トップがお義兄様だから仕方がないのだけれど。
私に訓練してくれる時も鬼だった。本当にもう死ぬかと思った。でも女の私だから絶対に手加減してくれていたはずなのだ。それに耐えられた上の二人のお義兄様は凄いと女だてらに思ったのだ。
近衛騎士なんて、父が貴族だから、という理由だけで騎士になったという輩もいるそうだ。一時期は守りも厳しくはしていたのだが、出来る騎士はお義兄様が戦場に連れて行ったのだ。残っている騎士たちは禄なのが残っていないのかもしれない。
それに、まあ、今のは確かに騎士がシスを守る場面だった。
本来公爵令嬢が出てきた段階で、そうしなければいけないのだ。
それが出来なかったのだから仕方がないと言えばそうだ。
「で、殿下、申し訳ありません」
そこにヴェリエ近衛騎士団長が飛んできた。
「ヴェリエか、近衛は最近たるんでいるのではないか」
「いえ、そのような」
「今、ここの公爵令嬢が第四皇子に手を出そうとした。それを近衛は自分の身を盾にして守ろうともしなかったのだ。自分の身を盾にして守らずしてそれが近衛か!」
「も、申し訳ありません」
近衛騎士団長は頭を下げたのだ。
そう、怒り狂ったお義兄様にはまずこれなのだ。
「良く言って聞かせますので」
「甘いわ。お母様が殺された時、近衛騎士団長はどうした」
「えっ」
ヴェリエは固まった。
「どうしたと聞いている」
「責任を取ってご自害なさいました」
「貴様もそうなりたいのか」
「いえ、そのような事は」
騎士団長は青くなっていた。
「今、公爵令嬢がナイフを持っていたら、どうなっていた?」
「……」
騎士団長は答えられなかった。
「どうなったと聞いている!」
「はっ、フランシス殿下が刺されたかと」
「違うだろう! エリーゼが代わりに刺されたのだ。俺はそうなったら貴様らを許せる自信がない」
お義兄様がなんか訳の分からないことを言っている。
そして、その手の上には何故か小さな火の玉が出来ているんだけど。
ちょっと、それは爆裂魔術かなにかではないの?
「どうしたのだ。騒々しい」
そこに現れなくても良いのに、お義父様が現れたのだ。
これは最悪の状況だった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
皇子に皇帝まで揃ってどうなるのか
続きは今夜です。
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