お義兄様視点 可愛い弟が小憎らしい弟に変わって俺と義妹の仲を邪魔してくれます
フランシス・ロアール、俺の一番下の弟の名前だ。
「見て見て、お義兄様。めちゃくちゃ可愛いよ」
エリは生まれたての赤ちゃんを見てとてもはしゃいでいた。
「そうだな」
そう、シスは12歳の俺から見ても生まれた時はとてもかわいい赤ちゃんだったのだ。
エリと同じ黒髪で父と同じ碧眼だった。
6歳のエリは甲斐甲斐しく、シスの面倒を見ていたので、必然的にエリとよく一緒にいた俺も良く面倒を見させられた。
でも、その当時は本当に可愛かった。
しかし、徐々にシスが俺とエリの間に入ってきて、邪魔するようになったのだ。
俺がエリと遊びに行こうとすると、一緒に行きたいと泣き叫び、お菓子を食べているとその間に入ってきて、俺にはどちらかと言うと大きくなるにつれて邪魔な弟という感じになってきた。
帝都内にエリと遊びに行こうとして見つかって、邪魔されたことなど枚挙にいとまがない。
そして、エリは俺達の予定が重なるといつでも弟のシスを優先するのだ。
本当に忌々しい、弟だった。
そもそも、エリのサンタル王国の王子との婚約についても、絶対にこの生意気な弟が何かかんでいるに違いなかった。12歳、いや当時は9歳か、のガキが何か出来るわけは無いはずだと皆笑い飛ばすが、こいつは我が皇帝一族の悪だくみの才を一身に受け継いでいるのではないかと思えるほどいつもあざといのだ。エリには一切見せないが……
今回も俺がせっかくエリと仲良くなれて、いい雰囲気になっていたのに、邪魔しに来やがって!
本当にムカつく。
その上、エリの胸に顔を埋めて、俺に向けて優越感満載のどや顔をしてきやがったのだ。殴ってやろうにもエリがいる。こいつは、エリの前では平然と弱い弟ぶりを見せているのだ。
エリはそんな弟を可愛がっているが、何を言っているんだか、こいつは絶対にそんなひ弱な奴ではない。我が皇帝家の血を引き継いでいるのだから。
何しろやる事がえげつない。俺に、サンタル王国を平定するようにとの父の命令書を持って来やがった。
それも、俺の頭の上がらないシャルルまで連れてきやがって!
相手がシャルルで無かったのなら、俺はそいつに強引に任せてエリと一緒に帰ったのだが、シャルルが一緒ではどうしようもなかった。
これもそれも絶対に弟の悪巧みのせいだ。こいつは使えるものなら何でも使うのだ。俺とエリの間を邪魔しようと本当に小さい時からよく暗躍してくれた。それが大きくなるにつれてどんどん規模が大きくなっていくのだ。
「くっそう! こうなったら、即座に貴族を降伏させてやる。シスの野郎、覚えておきやがれ!」
俺はレッドに飛び乗ると、第五軍を置いてけぼりにして、直ちにサンタルの王都に一人で駆けて、舞い戻ったのだった。
そして、即座に大使館に乗り込むと、
「レトラ、レトラはいるか」
俺は入るなり、あのどうしようもない大使を呼んで叫んでいた。
「これはこれは殿下、お早いお帰りで」
そこにはシャルルの長男のパウルがいた。
こいつはロザンヌ公爵家の中では武官でなくて、異例の文官畑で、今は外交官をやっている。
それも話す言葉が、嫌味だ。こいつはおのれの父が派遣されることなどとっくに知っていたはずだ。俺が一緒に来ることも……
「レトラはどこにいる?」
俺が聞くと
「自室に軟禁しましたが……」
「どこだ。案内しろ」
俺はエリーゼを蔑ろにした、ヘボ外交官に会いに行ったのだ。
「レトラ!」
俺が扉を蹴破るように開けると、
「ヒィィィィ」
そこには、怯えきった顔面蒼白なレトラがいた。
今にも殺されるのではないかと怖れた目で俺を見てきた。
「レトラ、ようく聞け。貴様はこの王都に何年いた?」
「こちらには20年になります」
「そうか、20年か、この国の貴族共のことは良く判っているな」
俺が確認すると
「それは当然でございます」
「よし、貴様にチャンスをやる」
俺はレトラを見据えて言った。
レトラはブルブル震えながら俺を見上げてきた。
「この国は我が帝国が制圧することに決まった」
レトラは頷いた。まあ、そうなることは皇帝の怒りを見たら判るだろう。
「皇帝陛下はいたくお怒りで、エリーゼに狼藉を働いたやつは全て処刑しろとおっしゃっている。お前を含めてだ」
俺はお前という所を誇張して言った。
レトラがそれを聞いて更に恐怖に震えるのが判った。
「レトラ、お前は助かりたいか?」
「いえ、それは助けて頂けるのなら」
レトラが俺の質問に必死に俺を見て答えてきた。
「判った。これから俺の言う通りに出来たら救ってやる」
「ほ、本当にございますか?」
レトラは身を乗り出してきた。
「そうだ。ただし死にもの狂いでやれ」
「はい、何でもやります」
レトラは頷いた。
「明日の12時までに全貴族を王宮に集めろ」
「全貴族をでございますか?」
「そうだ。貴族共には伝えろ。明日、12時に来れば領地は安堵すると」
「それは真でございますか?」
驚いてレトラは聞いてきた。俺の後ろのパウルも驚いているはずだ。
「俺は嘘は言わん。東方10カ国でもそうした」
「しかし、我々はエリーゼ様に酷いことをいたしましたが」
「今回だけは許してやる。寛大にもエリーゼが許してやれと俺に頼んできたからだ。判るか、俺はエリーゼには甘い。それと父の皇帝もだ」
俺は噛んで含めるようにレトラに言った。
レトラが頷く。
「ただし、二度目はない」
「に、二度とエリーゼ様を蔑ろになどいたしません」
レトラはコクコクと頷いたのだ。
「ただし、12時に間に合わなかったものは、所領没収だ。これを直ちに全貴族に伝えろ。1分1秒でも遅れたら、俺直々に行って、その領地を接収する。その時逆らっても万が一にも生き残れないのは王子の末路がどうなったか、見れば判るな」
「はい、それはもう」
俺が脅すとレトラは再度コクコクと頷いた。
「よし、では直ちに大使館の全員で手分けしてやれ。言うことを聞かない奴がいれば俺自身が出向くからすぐに知らせろ。明日の12時には帝国の第五軍が到着する。それに間に合わなかったら帝国の第五軍が攻撃に向かうと伝えるのだぞ。この国の軍隊など第五軍にかかれば瞬殺だ」
「了解いたしました。直ちに貴族を説得に参ります」
レトラは尻に火がついたように飛び出していったのだ。
「宜しかったのですか? あのようなことを認めて。陛下はエリーゼを辱めた貴族の領地を全て没収しろとおっしゃっていらっしゃっていた様に思いますが」
パウルが心配して聞いてきた。
「大丈夫だ。俺がエリーゼの願いを聞いてそうしたと言えば、親父もそれ以上言えまい。それ以上言えばエリに話をさせる」
「まあ、それは陛下もエリーゼに甘いですから」
俺の言葉にパウルはなんとも言えない顔をした。
「なあに、このようなちっぽけな国の貴族がどうなろうと大勢には影響しまい」
俺は真実そう思ったのだ。
「しかし、貴族共は集まるでしょうか?」
疑い深そうにパウルは聞いてきた。
「なあに、その時は攻撃するまでだ」
俺は当然のごとく言い放ったのだ。
「まあ、心配する必要はないだろう。皆ペトラの話を聞いたら堰を切ったように集まってくるさ」
俺は自信たっぷりに言い切ったのだ。
そして、俺の言う通りになった。
大半の貴族がその次の日の12時には集まってきた。
来なかった貴族は既に逃げ去った後だったのだ。
ここに1日でサンタル王国は帝国の領土と化したのだ。
「よし」
俺は直ちに帝都に帰るためにレッドに飛び乗ったのだった。
あのボケナス弟が邪魔する前に、なんとしてでもエリとの仲を進展させないと。
でも、あのボケナス弟は甘くは無かったのだ……
ここまで読んで頂いて有難うございました。
命のかかっている大使は必死に働きました。
次回王宮に帰ったお義兄様を待つものは?
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