戦場で人が死ぬのを初めて見てショックを受けた私をお義兄様は抱き締めてお姫様抱っこをしてくれました
「えっ」
私はその現実をみて、信じられなかった。
そこにいた300人が一瞬で消滅していたのだ。
お義兄様の逆鱗に触れただけで……
「アンドレ……」
そこにはもう誰もいなかった。あのムカつく王子も……
存在しなかったのだ。
私は呆然と立っていた。
「えっ、エリ?」
お義兄様が私の様子を見て驚いてこちらに歩いてきた。
「エリ、どうしたんだ。泣き出して」
お義兄様はとても狼狽していた。
「えっ、泣き出したって……」
私は慌てて目に手を持って行った。
手は涙で濡れていた。
「お前ひょっとして、あの王子を愛していたのか?」
お義兄様が頓珍漢なことを言ってくるんだけど、
「別に愛してなんかいなかったわよ。ほとんど相手にもされなかったし」
私は泣きながら言った。
「じゃあどうして泣いているんだ?」
「判らないわよ。いきなり前にいた人がいなくなって……」
私も戸惑っていた。
「仕方がないだろう。あいつはエリを妾にして可愛がるって言ったんだぞ。そんなの許せるか!」
お義兄様が言うんだけど……
「でも、何も殺すことは無かったんじゃないの?」
「しかし、奴は俺に戦いを挑んで来たんだ。俺を殺そうとしてきたのは向こうだ。戦場に立ったら躊躇することなどできない」
お義兄様のいう事はもっともなのだ。そもそもお義兄様に挑むなんて言う馬鹿な事をしてきたアンドレが悪いのだ。私はお義兄様のいう事がもっともだという事は頭では理解していた。
でも、それと感情が受け入れるかと言うと別なのだ。
「でも、でも……」
お義兄様はそんな私を見て困惑していた。
「レオン、エリーゼちゃんは戦場は初めて何じゃないか? だからショックだったんじゃ……」
トマスさんが横から言ってくれた。
「そうか、エリは戦場は初めてだったのか」
お義兄様の声に私はお義兄様に頷いた。
「それはすまなかったな」
お義兄様が私を抱きしめてくれたのだ。
私は何故かお義兄様に抱かれて涙腺が緩んで、お義兄様の胸の中で号泣していた。
別にアンドレが好きだったわけではないが、人の死というものがよく判っていなかったのだ。
「ただ、エリ、これだけは理解してくれ。知っている奴がいきなり死ぬ。それが戦場だ。でも、剣を抜かれた限り俺も手加減は出来ん」
お義兄様は私にゆっくりと話してくれた。
そう、戦場で戦うという事は、人の命を奪うという事なのだ。
お義兄様のいるところはそういう所なのだ。
お義兄様は剣を向けられた限り、戦うしかないのだ。戦う限り手加減は出来ない。
下手な手加減は油断を生み、それが自分の死につながるのだ。
それは騎士の女神をやる時に、女神の心得としておばあさまからは説明は受けていたのだ。
私は頭の中では理解していたつもりだったが、感情では理解していなかったのだ。
私は泣きながら理解しようとした。すぐには無理かもしれないが、これが戦場なのだ。帝国にいる限り、これは避けて通れないことなのだ。
私が少し落ち着いた時だ。
「よし、出発だ」
お義兄様はそう叫ぶと、そんな私をいきなり抱き上げてくれたのだ。
それもお姫様抱っこでだ。
「ちょ、ちょっとお義兄様、止めてよ!」
私は慌てたが、
「昔は散々、お姫様抱っこしてって言ってたくせによく言うな」
「その話は止めて」
そう、私はお義兄様に良くお姫様抱っこしてって、せがんでしてもらったのだ。
泣かされた後は特にそう言って駄々をこねていた記憶がある。本当に黒歴史だ。
でも、今はもう子供ではない。もう18も超えた、大人なのだ。
それもお姫様抱っこなんて、めちゃくちゃ恥ずかしい!
私は真っ赤になった。
「おろして!」
しかし、抵抗する私はあっさり無視されて、強引にお義兄様は私を馬車に運んでくれたのだ。
みんなの生暖かい視線が私に向けられるんだけど……
恥ずかしくて私はお義兄様の胸に顔を埋めて隠したのだ。
それがどの様に周りから見えるかなんて判っていなかったのだ。
そんな私を馬車の中に入れてくれたお義兄様は降ろしてくれると思ったのに、そのまま、膝の上に乗せて座ってくれたんだけど、何故?
「ちょっとお義兄様、降ろしてよ」
私が文句を言うと
「昔は散々膝の上に乗せろって煩かったくせによく言う」
お義兄様は言うんだけど。
「それは子供の頃でしょ」
私が文句を言っている時だ。
「あっ、失礼しました」
「えっ、アリス!」
アリスは乗ろうとして私がお義兄様の膝の上にいると知って、何故か馬車のドアを閉じてしまった……
私はアリスに助けを求める視線を向けたが、首を振られて、そのまま御者席のセドリックの隣に座ってしまったんだけど、ちょっと、何でよ!
「昔は俺が嫌がっても無理やり俺の膝に乗ってきたんだぞ」
「だからお義兄様の膝の上が何かと便利で」
そうなのだ。居間にあった机が少し高くて子供用の椅子では少し足りずに、お義兄様の膝の上が丁度いろんな物を取るのに都合が良かったのだ。
その時のことを言われても困る。
「俺が膝の上に乗せるのはお嫁さんだけだって文句を言うと、『お義兄様は乱暴だから誰も嫁に来る人なんていないでしょ。私がお嫁さんになってあげるから』ってエリは言ってくれたのに、いきなり、他のやつと婚約するし……」
その頃、私の好きな絵本の中に王子様がお姫様を膝の上に乗せてお菓子を食べさせている場面があったのだ。絶対にあれは子供用の絵本じゃなかったと思う。何故それが子供部屋にあったか良くわからないが……だから、私は結婚する理想の王子様とお姫様はこういう風にするんだと思っていたのだ。
だからませた私はそんな事をお義兄様に言っていたのだ。本当に黒歴史だ。
それを思い出したから私はお義兄様の最後の言葉は聞いていなかった。
「だから、子供の頃の話だって」
私が必死に降りようとジタバタしたが、
「良いから、泣き止むまでここにいろ!」
そう言うとお義兄様は私の口の中に焼き菓子を入れてくれたのだ。
「おひへいさま……」
私の文句は聞き入れられなかった。
結局、お義兄様は降ろしてくれなくて、私は疲れたのかそのまま寝てしまったのだ……
お義兄様の膝の上で……
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
まだまだ話は続きます。
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