サンタル王国王子視点3 帝国の恐竜皇子を大軍で攻撃して亡き者にして独立しようと思いました
「な、何故、こうなった!」
地下牢に入れられて、俺は頭を抱えていた。
俺はエリーゼが帝国の力のない皇族の娘で、それも亡くなった妾の娘だと思っていたのだ。すなわち、要らない娘を押し付けられたのだと。
それが実は、卒業パーティーに、帝国の最終兵器としても世界に怖れられている恐竜皇子が前線を放り出して駆けつけてくるほど、可愛がられているとは想像だにしていなかったのだ。
全ては俺がきちんと調べなかったのが原因だ。
せめてもっとエリーゼに会っていろいろ話を聞けば良かった。
俺は後悔した。
でも、後悔先に立たずとは先人は良く言ったものだ。
そもそも、エリーゼの立ち位置を良く調べなかった俺が悪いのだ。
俺は周りの貴族共が言うがまま、エリーゼは帝国の皇族の妾の要らない娘だと完全に信じていたのだ。
確かにロザンヌ公爵家の血筋は引いているとは聞いていたが、傍流だと思っていたのだ。
それが傍流どころか、帝国の剣聖バージルの実の娘だとは知らなかった。
故バージル自体は公爵家の次男で、いずれは公爵家から出る予定だったが、そもそも剣聖だ。伯爵位くらいは与えられただろう。それにその剣聖は帝国の皇帝を逃すために戦死したのだ。絶対に伯爵位くらいは死後、贈位されていたはずだ。
剣聖の子供はエリーゼしかいないので、それだけでエリーゼは伯爵なのだ。
当然我が国の領土よりも広い領土を持っていたはずだ。
剣聖の娘、それも伯爵を蔑ろにしたと言うだけでこんなちっぽけな国など簡単に潰れる。
だから王太后はくれぐれも扱いには気をつけるようにと言っていたのだ。
だから、そう言う事ははっきりと教えておいてほしかった。調べなかった俺が馬鹿なのだが……
俺は帝国がいくら強大だろうが、要らない妾の娘にそれ程気を使う必要は無いだろうと、思っていたのだ。それもその娘が帝国の威を借りて、わが愛しのセリーヌに平民どもを使っていじめをしていると信じ切っていたのだ。まあ、エリーゼとしてはあれだけないがしろにされれば、意地悪をしたくなったのだろう。
その剣聖の娘、エリーゼの母と皇帝が結婚していただと!
そうなるとエリーゼは皇帝の義理の娘になるではないか。
母は死後皇后位を遺贈されていたくらいだから、皇帝の寵愛もあったのだろう。連れ子と言っても皇帝はないがしろにはしないはずだ。いや画面の様子からは溺愛していた。そんな娘をこんな辺境のちっぽけな国の王族に嫁がせるなど想像だにしていなかったのだ。
まあ、この国は由緒ある国だ。帝国のようなぽっと出の国ではなくて。
その国に嫁がせる意味があったのだろう。
俺もエリーゼと結婚していたら帝国皇帝の義理の息子になれたのだ。
そうすれば確かにサンタル王国は安泰だったろう。
王太后も必死だったはずだ。
何故、それを誰も教えてくれなかったのだ!
それもエリーゼは帝国の皇帝にいたく可愛がられていた。
それを蔑ろにしたと言うだけで、この国は終わりだったのだ。
その上、パーティーで見る限り帝国の最終兵器と言われる狂犬皇子、いや今は恐竜皇子か、のお気に入りがエリーゼだろう。
でないとこんな辺境の地に帝国の第一皇子なんかが来るわけはないのだ。
俺はそれを全て知らなかったのだ。
最後はエリーゼの扱いを知って怒り狂った皇帝の前に、俺は父に廃嫡されてしまった。
最悪だった。
そもそも帝国の大使からしておかしかった。大使はエリーゼが妾の子供で、婚約破棄しても問題ないと太鼓判を押してくれたのだ。これは我が国を貶めるための陰謀だったのか?
いや、陰謀など張り巡らさなくても、テルナンを平定したあの皇子ならば、号令一下この国は滅んでいるだろう。
という事はあの大使はどうしようもない奴だったのだ。情報収集も出来ない。
そうか、帝国内の権力闘争の陰謀であの娘を虐める必要があったのか……
そうであれば俺は嵌められたのだ。
でも、俺は元々セリーヌが好きだったのだ。
色々画策したお祖母様等が悪いのだ。
くっそう!
このままでは俺は下手したら帝国を恐れる両親に責任を取らされて処刑されてしまうだろう。
実の息子を金のために売るくらいだ。平気でやりかねなかった。
でも、俺はこんなところで朽ち果てたくなかった。
「アンドレ様」
そこへ、セリーヌの父のモンテロー公爵がやってきた。
なんと公爵は地下牢の鍵を開けてくれたのだ。
「良かったのか? 鍵を開けても」
俺が尋ねると
「エリーゼに対する我らの扱い、皇帝が知ればどのみちただでは済まないでしょう」
笑って公爵は言ってくれた。
まあ、それはそうだ。大半の貴族がエリーゼを馬鹿にしていたのだ。
「それよりは、帝国第一皇子とエリーゼを倒し、帝国に反乱を起こすしか我らに生き残る道はありますまい」
公爵が言ってくれた。
「反乱を起こすというのか?」
俺は驚いた。
「野蛮な帝国に比べて、元々われらサンタル王国の方が由緒正しい国なのです。今までじっと静かにしていましたが、ここらが潮時でしょう。どのみち、静かにしていても、帝国は黙っておりますまい」
確かに、第1皇子はここは大人しく帰ってくれたが、いずれ大軍を持って攻めてくるのは確実だった。
「帝国各地で反乱の兆しがあります。我らがここで狼煙を上げれば後を追って反乱する国もありましょう」
公爵は言ってくれた。確かにその可能性はある。どのみち滅ぶのならば、公爵のいう事にかけてみても良かった。
それに今は第一皇子もほとんど部下を連れてきていない、少数だ。やりようによっては我軍で勝てる可能性があった。
「今は皇子一行の軍勢はたったの10騎です。帝国に入る前に我らが捕らえられれば十分に勝算もありましょう」
「我が方は何人だ」
「近衛を中心に千人ばかり揃いました」
「敵の100倍か」
いくら恐竜王子とはいえ、10騎に1000人で襲われればひとたまりもなかろう。
「更に魔術師を10名手配いたしました。戦力的には我らの方が圧倒的に上です」
公爵は言い切ってくれたのだ。
「よし、行くか」
俺は頷いたのだ。
最悪、負けてもエリーゼさえ捕まえて人質にすれば皇帝も下手なことは出来まい。
何なら、俺の妾にしてやってもいいのだ。本来由緒正しい我が国は、帝国の女など、妾の地位がふさわしいだろう。
この俺に対して、尊大な態度で威張りまくってくれた帝国皇子諸共捕まえて、命乞いさせるのも一考だ。
あのエリーゼに命乞いさせるのもいいかもしれん。
俺はほくそえんだのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
エリーゼたちの運命や如何に。
続きは今夜です。








