お義兄様視点9 エリとの間が全然進展しないと思っていたら、周りから見たら完全なバカップルになっていました
その日の夜俺はセドリックからエリの現状をいろいろ聞き出した。なんとエリはこちらに来て祖母の具合が悪くなるとすぐに屋敷から追い出されたらしい。
それを聞いて、俺は完全にプッツン切れていた。アルナス子爵家にはエリがいると思って父も多額の援助をしていたはずなのだ。
「そのエリを追い出しただと!」
「しーー、レオンハルト様、声がでかいです」
「何故、俺に報告しなかったのだ」
「エリーゼ様からしないで欲しいと頼まれまして」
「そうはいっても、限度があろう」
俺はセドリックを睨みつけた。
「そう思い、アリスと相談して、アリスが何度か報告していたはずですが」
俺はそれ以上セドリックには何も言えなかった。
王宮の文官共だ。あいつら俺がいないのを良いことに、いい加減にしていたか、そうか誰かが意識的に送らないようにさせたか……
俺は帰ったら犯人を早速に探り出すことにした。
次の日、着替えてきたエリを見て俺は固まったのだ。
エリはいつの間にか大人になっていて、とてもきれいになっていた。
昨日もそう思ったのだが、化粧をした今日は更に際立っていた。
「お義兄様、やっぱり変ですよね。化粧を落としてきます」
エリは俺が固まったのを見て変な格好だと勘違いしたみたいだ。俺は慌ててエリの手を引いて止めた。
「とてもきれいだ」
なれないことを話したものだから、声が小さすぎた。
俺がエリに好意があると知らしめるには、エリにはっきりと言わないと駄目だとアリスにもセドリックにも言われたのだ。
そう言うものかと口に出してみたのだが、なれない言葉はとても言いにくい。
「えっ? 何か言われましたか?」
エリが聞いてきた。
なんでこんな恥ずかしい思いまでしてこんな事を言わねばならないのだ!
と俺は思ったのだが、アリスもセドリックも両手を握ってもっとはっきり言えと合図してくる。
「あまりに可愛いから、驚いた」
俺は渾身の力を振り絞って言ったのだ。
そうしたらエリは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして驚いてまじまじと見てくれたのだ。
何かその表情もとても可愛い。
でも、絶対に俺がそんな事を話したのが変だったのだ。
日頃からこんな事を言わない俺が言えば絶対におかしいと思うだろうとアリスとセドリックを睨みつけたら、二人は満面の笑みを浮かべて頷いてくれたのだ。
ええええ! いまのが正解なのか!
「時間がないから行くぞ」
俺は照れ隠しでエリを引いて歩き出したのだ。
ぐんぐん歩いていくと、
「お義兄様、ちょっと早過ぎ」
あまりに恥ずかしかったので、早く歩きすぎたみたいだ。
「あっ、すまん」
慌てて、謝って歩くスピードを落とした。
「もう、お義兄様ったら、私が余りにも可愛くなっていたからって、何も照れなくても良いのに!」
俺はエリの言葉に固まってしまった。
なんでだ! なんでこいつはオレの心を読んでいるんだ?
そんなに俺の顔に出ていたのか?
「まあ、そうだな」
俺は素直に頷くしか出来なかったのだ。
その反応にエリも驚いていたがなんでだ?
歩いているうちにカップル限定喫茶『ヘモジ亭』に到着した。
「あれ、やっぱり列になっている」
エリのがっかりした声が聞こえた。
「ごめんなさい。お義兄様。並ぶ羽目になってしまって」
エリは謝ってきた。
「いや、別に。エリと並ぶなら、構わない」
俺は頷いたのだ。
アリスとセドリックからはカップルなんだから並ぶところもデートです。そこで仲良く話して親愛の情を深めるのです、と言われていた。でも、親愛の情を深めると言っても何を話せば良いんだろうか?
「それよりも最近のエリの話を聞けたら嬉しいんだが」
取り敢えず、触りから入れば良いだろう。でも続きは……
「アンドレとは上手くいっているのか?」
俺は馬鹿だ。なんでわざわざ恋敵の男の話をしなければいけないのだ。
俺は自分の頭を思いっきり殴りたくなった。
「まあ、殿下とは程々にしていますよ。
それよりも友達のシャロットが、この前帝国の詩人ハーゲッツ・ルーピンを授業でハゲツルピンって答えたのよ」
「それはないだろう」
俺はエリが話題を変えてくれたことにホッとしたのだ。
「エリーゼ、何を人をだしに笑ってくれているのよ」
そこにエリーゼの友達が二人後ろから声をかけてきたのだ。
クラスメートみたいだ。エリはこちらの国の平民の友達を作って仲良くしていたみたいだ。
貴族には全く相手にされていないみたいだったが。
本当に意味が判らない。エリを馬鹿にすることがどういう事かこいつら理解しているのか?
途中出てきたこの国の侯爵家の令息等にもエリはバカにされていたのだ。
取り合えず、俺はエリが子爵本人で貴様らよりも地位は上だと教えてやってぎゃふんと言わせてやったのだ。やつらは尻尾を巻いて逃げて行った。
しかし、エリをないがしろにするという事は、帝国の皇帝を敵に回すという事だ。貴族どもはそんな簡単な事を何故理解していないのか判らなかった。
俺はこの国が辺境なあまり帝国の情報がほとんど入って来ない地で、なおかつプライドだけがやたら高い貴族どもが支配している国だという事が判っていなかった。
結局それやこれやで、俺はエリとあまり甘い雰囲気になることもなく、そのまま席に案内されたのだ。
中ではカップル達が皆、巨大なパフェの入った容器を二人してつついていた。
結構皆、イチャイチャしているし、いい気分なのだ。
「ああ、これこれ、これよ」
でも、エリは二人の気分を楽しむではなくて、カップルの前にあるパフェをいかにも物欲しそうに見ていたのだ。
これでいい雰囲気になれるのか?
俺は一抹の不安を抱いた。
「お客様も当店自慢のカップル限定ビッグパフェで宜しいですか」
「はい。お願いします」
もう、エリは最初から食べる気満々なのだ。
もっともこいつは昔からそうだったが……
俺達のアイスクリームを物欲しそうに見ていて、いつも俺達3人からアイスクリームを巻き上げていたのだ。
そして、巨大ジャンボパフェが出てきた。
「これは凄いな」
俺は流石にその大きさに驚いた。
こんなにたくさん食べられるのか?
俺が不安に思うほどの大きさなのだ。
「お義兄様。甘いものいらないのなら私が全部食べるから」
エリが言ってくれるんだけど……
「お前、これだけ食べると太るぞ」
俺は思わず言ってしまった。後でセドリックとアリスから散々ダメ出し食らったのだが、条件反射だ。もう仕方がなかった。
「私は大丈夫よ」
「明後日卒業パーティーなんだろう。衣装が入らなくなっても知らないぞ」
これも絶対にアリスが聞いたらダメ出しする言葉だった。
「ふんっ、良いのよ。別に」
エリはやけになって、スプーンをアイスクリームの山に突っ込んで大きくすくってくれた。
「おいおい、そんなにたくさん取らなくても、俺はそんなに食べないから」
俺は慌てて言った。でもエリはいつもこうなのだ。
俺は取ったりしないのにいつも最初は大口を開けて食べてくれるのだ。
二人で良い雰囲気になるもくそもなかった。
そもそも食べ物でエリといい雰囲気になるのは無理だった。
俺は諦めたのだ。まあ、まだまだ時間はあるはずだ。
エリは美味しそうにほおばるが、やっぱり塊が大きすぎたみたいで、食べるのに四苦八苦していた。
俺は首を振ると今度は小さくすくったアイスをエリの口の中に入れてやったのだ。
こうすれば、ちゃんと食べられるはずだ。
「美味しい!」
エリがとても幸せそうな顔をしてくれた。
そう言えばこの笑顔が見たくてよく、エリに俺の分のデザートを食べさせていたような気がする。
俺はさらにもう一口放り込んだ。
エリは微笑んでくれた。そして、今度はエリがお返しに一口大きめにとって俺の口の中にいれてくれた。
「どう、美味しいでしょう?」
俺はエリの言葉に頷いた。
まあ、エリが喜ぶだけあってうまい。
アイスは口の中で絶妙にとろけてくれるのだ。
「本当だな」
俺はそう言いつつ、エリの口の中にもう一口入れてやった。
うーん、これっていつもと何も変わらないじゃないか!
帝都でチョコレートパフェを食べに連れて行った時もエリと食べさせ合いをした。
なんか周りの視線が、あれだし、黄色い声が時たま周りから上がっているが、それもいつものことだ。
俺はこれがカップルの間で有名な食べさせだということを知らなかったのだ。
周りが俺達を見てなんて甘いカップルなんだろうとささやきあっていたなんて知らなかったのだ。
俺は二人の間は全く進展がなかったけれど、エリがおいしいパフェを食べてくれたからまあ良しとしようと勝手に満足していたのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
今度こそお義兄様視点は終わりです。
次はエリ視点に戻ります。
次の舞台はエリを蔑ろにしていた子爵家です。
今夜更新予定です。








