お義兄様視点6 妹に振られた腹いせに東方10カ国を攻撃しました
パリンっ
地面に落ちたグラスが砕け散る音がした。
エリがサンタル王国の王子と婚約した!
チエナ王国の王女ホンファから聞いた事実に俺は頭が真っ白になったのだ。
それからどうやって屋敷に帰ったか覚えていなかった。
俺は王女に言われるその時まで、どれだけエリの事を好きなのか理解していなかったのだ。
エリを娶るのは可愛い妹を母の遺言に則って一生涯面倒を見てやるくらいだとしか考えていなかった。
でも、それは違ったのだ。
エリがいなくなる!
俺の前から……そんな……
その先にはどんよりした真っ暗な空間しか存在しなかった。
エリが婚約したと聞いた瞬間俺は悟ったのだ。
俺がエリの事をどれだけ愛していたか。
そして、エリが俺の前からいなくなるという事が俺には耐えられそうになかった。
エリは本当に生意気で、俺の気に障ることも良く言ってきたが、俺のことを本当に良く考えてくれていた。一度俺が魔物退治で死にかけたときなど本当に心配してくれたのだ。
俺は騎士の誓いでエリにプロポーズすることによって、帝国の他の男達を牽制できたつもりでいたのだ。
帝国第一王子で口より手が先に出る狂犬王子と対決してまでエリに近寄るなんて勇気のある奴などいるはずはないと高をくくっていたのだ。
エリが他の男に取られるなど考えたこともなかったのだ。
それがエリの母の母国のサンタル王国の王子がかっさらって行くなど想像だにしていなかった。
サンタル王国など30年前に我が国の属国になった本当にちっぽけな国だ。東方の小国のテルナン王国の半分以下の領地しかないのだ。
誇れるところなどエリの母の母国と言うだけではないか。
そんな小国の王子に俺が負けるなんて……
俺には信じられなかった。
俺は取り敢えず、帝都に帰ることにした。まだ間に合うかもしれないと一抹の希望を持って。
神馬のレッドに頼み込んで、俺は駆けに駆けたのだ。
レッドは通常10日以上かかる所を5日で駆け通してくれた。
でも、遅かったのだ。
エリは出発した後だった……
「親父、これはどういう事だ!」
俺は完全に頭にきて父の執務室に乗り込んだのだ。
「何のことだ?」
父はとぼけてくれた。
「エリのことに決まっているだろうが! 俺が好きなことは知っていたはずだ。なのに、何故属国の王子なんかと婚約させたんだ!」
「仕方なかろう。 エリーゼがそれを希望したのだ!」
「な、何! エリが希望しただって!」
俺はその言葉を聞いてショックのあまり固まってしまった。
「そうだ。俺もあんなちっぽけで吹けば飛ぶような小さな属国の王子なんかにエリはやりたくなかった。あんな王子のもとにやるなら、お前のほうがまだましだったわ」
「じゃあ、なんで行かしたんだ!」
「仕方がないだろうが、エリーゼがそれを望んだのだ。俺の反対を振り切ってエリーゼは行ってしまったんだよ」
「……」
「そもそも貴様がエリーゼにはっきりと言っていないから悪かったのではないのか。エリーゼはお義兄様が反対するからとさっさとサンタルに行ってしまったのだぞ」
親父の言葉に俺はそれ以上何も言えなかった。
そうだ。俺がもっとはっきり言えばよかったのだ。
この前会った時に、10カ国を降ろした後は俺と結婚して欲しいと言えばよかったのだ。
俺は勝手にエリが待っていてくれると思っていたのだ。
俺がすべて悪かった。
俺はそれから部屋にとじ込もった。
もうすべてのことがどうでも良くなった。
ただ酒に溺れたのだ。
来る日もくる日も酒を煽った。
もう人生もどうでも良かった。
と言うか、この先希望も何も無くなったのだ。
エリのいないこの先の人生なんて俺には何も考えられなかった。
そんなある日だ。障壁で守られていたはずの俺の部屋の扉が爆発したのだ。
そこには怒髪天の親父が立っていた。
「レオンハルト! いつまでうじうじしている!」
そう叫ぶと親父は俺を殴ってきたのだ。
俺は親父のゲンコツをまともに食らって吹っ飛んで窓ガラスを割って庭に叩きつけられていた。
「クソ親父! よくもやってくれたな」
俺は立ち上がった。
そこに親父がなんと爆裂魔術をお見舞いしてくれたのだ。
俺は障壁で防いだ。
ドッカーン
凄まじい爆発が起こった。
「ふんっ、やっと目を覚ましたか。さっさと東方10カ国に行って降ろして来い」
そう言って親父は外に出ていこうとした。
「はああああ、何を好き勝手なことを」
完全に切れていた俺は親父の後ろから爆裂魔術をお見舞いしたのだ。
間一髪で親父は障壁を張ったみたいだが、爆風で振っ飛んで壁に頭から突っ込んでいた。
ざまあみろだ。
俺は嬉しくなった。
「おのれ、レオンハルト! 良くもやってくれたな」
「ふんっ、来るなら来い」
俺達はそこからお互いに魔術で攻撃し合ったのだ。
当然手加減はしていたが、宮殿の中で爆発して壁や扉が吹っ飛んだ。
「ギャー、お姉様の部屋が!」
俺達は弟のシスの悲鳴に慌てて駆けつけてみると、父の放った爆裂魔術がエリの部屋の扉を吹き飛ばしていたのだ。
「ああ、親父やったな」
俺が言うと、
「何を言っている。あの爆裂魔術の跡はお前のだろうが」
父の指差す方を見ると窓ガラスが全部吹き飛んでいた。
やばい、俺には怒り狂うエリの姿が思い浮かべられた。
昔から親子喧嘩をする度にエリが止めてくれたのだ。
今日はそのエリがいなかったからここまで大事になったのだ。
宮殿内は結構大変なことになっていた。
俺は後始末を親父に押し付けると、慌てて東方10カ国に向かったのだ。
そうだ、元々俺は東方10カ国を降してエリにプロポーズするつもりだった。
たとえエリが婚約していようがなかろうと俺はエリと約束したように10カ国を降してからプロポーズしようと俺は決意したのだ。
それに、東方10カ国は俺の母の仇で、エリの両親の仇でもあるのだ。
そもそも、東方10カ国がさっさと降伏しないから俺はエリに逃げられる目に遭ったのだ。
俺は俺の心の中で全ての原因を東方10カ国に押し付けたのだ。
俺は1軍を引き連れてテルナン王国に赴くと、まず、降伏を勧告しようとテルナン王国の国王と面談を要求した。
それに対してテルナン王国はなんと、国王が出てくるのではなくて、外務次官の男爵を出してきたのだ。
こちらは帝国第一皇子である俺様が出てきたにも関わらずだ。
その上、そのバットン男爵とやらは小癪にも俺様に直ちに降伏せよと抜かしてくれたのだ。この俺様に向かってバットンは俺様に何の臆する所もなくそう言い切ってくれたのだ。
俺はその勇気に感動したあまり、バットン男爵を殴り倒していた。
バットン男爵は木の壁に頭から突っ込んでいた。
一緒にいた従者は真っ青な顔をしてブルブル震えていた。
俺はバットンを拘束させるとその従者を逃がしてやったのだ。
俺の降伏勧告の書面と一緒に。
おのれテルナン国王め。良くも俺様をここまでこけにしてくれた。
元はと言えば全てテルナンが余計な抵抗をしてくれたからなのだ。素直に我が国の傘下に入ってくれればバージルが死ぬこともなく、俺の母が殺されることもなかったのだ。まあ、そうなればエリと兄妹には成れなかったかもしれないが、元々剣聖の娘で公爵家の孫なのだ。俺の婚約者になる可能性も十分にあったのだ。そうすれば俺がこんな苦労をしてこの国を攻める必要も無かった訳だ。
素直に降伏してくれば許してやったものを。もう俺は許す気はなかった。
俺様を怒らせたことを後悔させてやる。
俺は軍を進めたのだ。
国境の砦は一瞬で叩き潰して、テルナン王国内に進出したのだ。
慌てた10カ国はテルナンに慌てて援軍を派遣してきたが、俺はすべてが揃うのを待つつもりはなかった。
敵が平原で軍を集めていると聞いた時だ。俺はそれを叩くことにしたのだ。
敵は勢力は5万くらいになっていた。
一方の我軍は1万。
俺はその時、エリに振られてやけになっていた。
勝とうが負けようがエリはもう婚約してしまったのだ。
もう、俺のことなんてもうどうでも良かった。
そんなところへだ。テルナン国王から信書が届いたのだ。
『野蛮なる帝国の狂犬へ。貴様の母にしたようにお前も殺されたいと見える。この地で待っておるぞ』
それは宣戦布告の書面だった。場所はここから2時間位の距離にある平原だった。
俺はその書面に完全に切れていた。
もう、こうなったら俺もエリの親父みたいに斬死しても良いかもしれない。
そうだ。もう、俺の命なんてどうでも良いのだ。
ただ、テルナン王国軍を殲滅する。俺はそう決めたのだ。
「ようし、行くぞ」
俺は馬に乗った。
「先に行っている」
「おい、レオン、待て!」
「えっ、ちょっとレオンハルト様!」
俺はトマス達が止めるのも聞かずに唯一人駆け出したのだ。
もう、命なんてどうでも良かった。俺は神馬のレッドをひたすら駆けさせたのだ。
さすが神馬だ。
1時間もしないうちに敵の大軍が見えて来た。
そして、その真ん中の天幕の前にテルナン王国の王旗が見えた。
敵はテルナン国王自らが出てきたらしい。
「ウォーーーー」
俺はただ1騎、そのテルナン国王の天幕に向かって馬を駆けさせたのだ。
途中で騎士が襲ってきたが、爆裂魔術を浴びせて吹き飛ばす。
目の前にの地面にはどうやらやたら多くの魔道具の罠が仕掛けられているみたいだが、俺の乗っているのは神馬の中の神馬、汗血馬のレッドなのだ。
そんな罠などかかるわけもなかった。
俺は罠の中を突っ走ったのだ。
敵もまさか俺が一騎で突っ込んでくるとは思っていなかったみたいで戸惑っていた。
俺は敵が態勢を整える前に王の天幕の前に出たのだ。
そこには丁度慌てて天幕から出てきたテルナン国王がいた。
俺は剣を一閃させてテルナン国王を一刀両断したのだ。
「テルナン国王を討ち取ったぞ」
俺はそう叫ぶとあたり構わず、爆裂魔術を放ったのだ。
各地で爆発が起こり、敵は大混乱になった。
俺は剣を当たるを幸いに斬りに斬りまくったのだ。
敵も国王をいきなり討ち取られて組織だった抵抗も何もなかった。
しかし、さすがの俺も疲れてきた時だ。
遠くに砂塵が見えたのだ。
俺に続いて神馬を乗っている騎士たちが駆けてきたのだ。
そして、その後ろには残りの軍勢が見えた。
敵は慌てて撤退に入った。
その敵を俺達は後ろから突いたのだ。
敵が壊乱敗走した。
それを我軍は追尾、敗残兵に紛れて王都に突入したのだ。
テルナンの王宮が落ちたのは翌日だった。
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