お義兄様視点5 妹の両親の仇を討つことにしていたら妹が属国の王子と婚約していました
俺はその後父に呼び出されて怒られた。
「レオンハルト! 貴様、何も知らないエリーゼに騎士の誓いにかこつけてプロボーズするとはどういう事だ!」
「どうと言われても、俺は今際の際の母上の遺言を守ろうとしただけです」
俺は父の怒りの前でもいけしゃあしゃあと答えていた。
「はああああ! 何を言っている。あれはエミリーがひとり残されるエリーゼを心配して、義理の兄に後を託しただけであろうが!」
父はさらに激怒してくれたが、
「俺は母上に、一生涯エリを護ると誓ったのです。エリが変な男に捕まって結婚したら守れないではありませんか。それに他国に嫁がれて、俺の目の届かない所に行かれたらどうしようも無いでしょう!」
「しかし、エリーゼはお前の義理の妹だろうが!」
父は叫んでくれた。
「それがどうしたのです。過去に義理の妹と結婚した例など山程あります。全能神の伴侶は実の妹だったではありませんか」
「神話の頃の話をするな! それにそもそもエリーゼはお前を兄としか見ていないだろうが」
「まだ、12歳ですから仕方がないでしょう」
俺は余裕で答えていた。
「何を言うのだ。そもそも、エリーゼはお前の誓いの言葉の意味を知らないだろうが! なのに、あんな事を言いおって! エリーゼは何も考えずに頷くことしかできなかったではないか! あんな、詐欺まがいなことをしおって、俺は認めんからな!」
父が言ってくれた。
「その件については大人になったらもう一度ちゃんとやりますよ。そもそも父上もエリが他の男の所に嫁に行くよりも、私の妻になる方が余程安心でしょう」
「何処が安心なのだ! 貴様のようなガサツで喧嘩っ早い男など、どう考えて安心できる相手だというのだ? 心配しか残らんわ」
「何を言っているのです、父上。俺はエリに手を上げたことは一度もありませんよ。それに子どもの頃から一番面倒を見ているのは俺です。エリも慣れているし、そもそも住まいも全く変わらないのです。父上のそばにいることになりますし、これほど安心することは無いでしょう」
「うううう、取り敢えずだ! エリが大人になってお前を伴侶にして良いと認めない限り俺は認めんからな!」
「それで全然構いませんよ。絶対にエリを俺の方に向かせます」
俺は父に言いきったのだ。
この時は俺はいずれはエリが俺の方を向いてくれると信じていたのだ。
俺は俺なりに考えた。
まずはエリの相手にふさわしくなれるようにならないといけない。
そうならないと、俺の父もエリの父方の祖父母の公爵夫妻も認めてくれないだろう。
騎士になった俺は、一軍の指揮権を与えられたので、まずそれを必死に訓練した。
帝国の仮想敵は取り敢えず、前回悲惨な目に合わされた東方10カ国だ。
一国一国は大したことはないが、外敵に対しては協力して当たってくる。その集団の軍は危険だった。
それを父が軽視した結果、前回の大敗に繋がったのだ。
そして、その事が結果としてその地でエリの父の剣聖が死ぬことに繋がったのだ。
俺はエリの父の仇討ちをするためにも、東方10カ国を攻略することを目標にしたのだ。
しかし、1軍の兵力1万くらいでは、普通にやっても勝ち目はなかった。
そもそも10万の大軍で前回は負けているのだ。
しかし、東方10カ国は国土において帝国の10分の一以下、人口においても20%も無い。そんな国と帝国が全面対決したら普通は帝国が圧倒できるはずなのだ。
でも、結果は大敗した。
俺はその原因がチエナ王国の援助にあると睨んだ。
帝国の敗戦から10年が経ち、敗戦の研究も進んでいた。
チエナは多民族国家で我が帝国の国土で3割、人口で40%もあった。
また、チエナ人は商売にも長けていて、その商人は全世界に散らばっていた。
チエナはそんな同胞たちから色んな情報を手に入れているのだ。更に宮廷の勢力争いも激しく、チエナ人は悪巧みがとても得意だというのが判ってきた。
そのチエナを牽制するために、俺はチエナと東方10カ国の間にある商業国家フロジーヌに目をつけたのだ。
そして、まず、帝国の商人に利をちらつかせて、フロジーヌに我が方につくように工作したのだ。
フロジーヌは丁度お家争いの真っ最中だった。その弱い方にチエナ商人の娘が嫁しているとかでチエナと東方10カ国はそちらを応援していたのだ。
こいつらは本当に馬鹿だ。
俺はそれを利用して強い方の味方に付いたのだ。
チエナの勢力に負けそうになっていた勢力は、我が帝国がバックに付くことによって力を盛り返したのだ。
焦ったチエナ方は傭兵部隊と言う名の軍隊を送ってきたのだ。戦力的に1万。我が方も俺の一軍1万で対処した。
1対1では日頃から鍛えに鍛え抜かれている我軍が負けるわけはなかった。
我が方は傭兵団という名のチエナ軍を完璧なまでに叩き潰して、フロジーヌを我が国の味方にしたのだった。
戦後処理を俺は帝国の外交部に任せて、帰還の途についた。
俺は東方の珍しい物を大量にエリに持って帰ったのだ。
真珠や、宝石も持って帰ったのだが、その中でもエリはコメという食物を殊の外喜んでくれたのだ。
せっかく集めた宝石は
「ふうん。きれいね」
の一言で終わりだった。
俺は配下のトマスやジェミリーに若い女の子が興味を持ちそうな装飾品をわざわざ選んでもらったのにだ。まあ、トマスとかジェミリーに聞いたのが間違っていたのかもしれないが……
しかし、そんなエリは、コメを見た瞬間変わったのだ。
「お義兄様! ひょっとしてその白いものはコメというものではないのですか?」
身を乗り出してものすごく興味を示したのだ。
俺が驚くほどに。
そして、頷くと、すぐに炊きたいと言いだして、料理長に頼んで炊いてもらっていた。
それを食べる幸せそうなエリの笑顔に俺は癒やされた。
俺にとっての初めての戦場はそれだけ過酷だった。
「お義兄様、戦場は大丈夫だったの?」
エリは心配して聞いてくれたが、俺はそう心配してくれるエリがいると思うだけでその殺伐とした戦場に耐えられたのだ。
久しぶりに会ったエリは少し女らしくなっていた。
俺はそんなエリを宮殿の尖塔に連れて行ったのだ。
「エリ、俺はこれから4年でお前の父や多数の帝国人を殺してくれた東方10カ国を何とかする。それが出来たら俺の願いを聞いてくれないか?」
俺はエリに頼んでいた。
「お義兄様。でも、それは危険なことではないの? そんな無理はする必要はないわ」
エリが言ってくれた。
「しかし、東方10カ国は帝国にとって喉仏に刺さったトゲだ。奴らをなんとかしない限り帝国の未来はない」
俺はエリに言ったのだ。何しろ東方10カ国はテロで我が母の命も奪ってくれたのだ。いつ何時またテロを仕掛けてくるか判ったものではなかった。
その標的がエリにならないとも限らないのだ。
俺はエリを狙われるなど耐えられなかった。
それとこれは噂だが、2年前に流行った流行病も東方10カ国が流行らしたという話まであったのだ。
禍根は早急に断つ必要があった。
俺はエリと、俺が東方10か国を何とかした暁には俺の願いを聞いてくれると約束することに成功したのだ。
馬鹿な俺はこれでエリとはうまくいくと思ってしまったのだ。
チエナと東方10か国の間に楔は打ち込んだ。しかし、東方十か国を攻撃している時に背後からチエナに暗躍されると厄介だ。
俺は次の手としてチエナを探ることにしたのだ。
幸いなことにチエナから留学の誘いが来ていた。
俺は一緒に行くやつらを学園の同級生らを中心に選抜し、チエナに乗り込んだのだ。
厄介な事にチエナには学園時代に俺にアプローチしてきた王女がいたが、俺は適当に王女をあしらいつつ、学園時代とは違い、他の女どもとも適当な距離で付き合ったのだ。
そうしつつ、チエナ内の派閥関係の把握に努めた。
東方に進出してもチエナを何とか抑えられそうだと判断出来てそろそろチエナを引き払おうとした時だ。
俺はエリがサンタル国の第一皇子と婚約したのを王女から聞かされたのだ。
ガチャン
俺は手に持っていたグラスを思わず落としていた。
「それは本当の事なのか?」
「はい、私の懇意にしている商人から今朝聞いたのですから確かですわ」
王女ははっきりと言ってくれた。
その言葉は俺を絶望のどん底に落としてくれたのだった。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
御忙しい中誤字脱字報告、感想、良いね等して頂いて有難うございます。
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さあ失意のお義兄様は……
続きは今夜です。








