怒りのお義兄様の前に王子は断罪されました
「俺の名前はレオンハルト、帝国の第一皇子だ」
お義兄様の言葉に会場は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「えっ、帝国の第一皇子殿下って、なんで、エリーゼのお兄様がそうなるの?」
「何言っているのよ。エリーゼって帝国の皇室の出よ」
「でも傍系だって言っていなかったっけ」
「それはエリーゼのお父さまの出身のロザンヌ公爵家の話よ」
「でも、第一皇子殿下の妹っていうことは皇女様なの?」
「エリーゼのお母様が、お父さまが亡くなられた後に皇帝陛下の妻になられたそうよ」
「それよりも、レオンハルト様っていうと、確か東方十カ国を2年間で制圧したっていう狂犬皇子様?」
「違うわよ、今は恐竜皇子よ」
「恐竜?」
「何でも10万の大軍に1人で突撃して全軍を殲滅したそうよ」
「えっ! たった一人で10万もの軍勢を!」
「そうよ。その暴れる様が太古に生息していた恐竜にそっくりだったんだって」
「じゃあ、私達はどうなるの?」
「恐竜皇子を怒らせたら、命がないわよ」
「そんな! 逃げないと」
皆が恐慌した時だ。
「ええい、静まれ! 第一皇子殿下の御前であるぞ。全員跪くのだ」
トマスさんが号令をかけてくれた。
その一言で、逃げようとした貴族の子弟の面々が慌てて跪いた。
騒いでいた私のクラスメイト達もそれを見て続いて跪いた。
更には私達に敵対しようとしていた王国の騎士たちも青くなって全員跪いていたのだ。
私も跪こうとして、お義兄様に抱きとめられてるんだけど……
皆跪いているんだから、私も跪こうとしたのに……一人だけ立っていたらめちゃくちゃ目立つじゃない!
私はお義兄様を睨んだけど、お義兄様は離してくれそうになかった。
一方の私達を糾弾していたアンドレ第一王子は、お義兄様の正体を初めて知って完全に腰を抜かしていた。
「そ、そんな、馬鹿な……何故、帝国の第一皇子がこんなところにいるんだ? 今も東方諸国にいるはずでは……」
とか、ぶつぶつ呟いている。
「それは可愛い妹の卒業パーティーがあると聞いたからな。何はさておいても駆けつけたのだ」
お義兄様が王子の独り言に答えていた。
「エリーゼが、可愛い妹だと? 皇族の中の単なる妾の連れ子じゃ無いのか?」
そう王子が言った瞬間だ。
王子の真横をお義兄様が放った爆裂魔術が走った。
ドカーン
遠くで爆発する。
「母上を侮辱するな! その言葉二度と使えば次は無いぞ」
お義兄様の怒りに王子はコクコクと頷くことしか出来なかった。
「エリーゼの、いや我ら皇子全員の母上は、確かに生きておられる間は、我ら皇子3人の生みの母に遠慮なさって皇后を名乗られなかっただけだ。お亡くなりになった後に、父の皇帝から皇后の称号を追賜されている。我ら皇子3人も母上にはとても世話になっているのだ。帝国において母上のことをそんな言葉で呼べば、不敬罪が適用されるぞ。貴様はそんなことも知らんのか!」
お義兄様はそう言うけれど、それは帝国民なら皆知っていることだけど、属国までは知られていなかったのかもしれない。
「お母様の身分が低くて苦労なさったのね」
と貴族連中から嫌味ったらしく良く言われたのだが、お義父様の所にお母様が嫁いだ時は、既に先の皇后様はお亡くなりになっていて、お義父様の正妻はお母様しかいなくて、私は決して肩身の狭い思いはしていないのだ。兄達3人も本当に良くしてくれたし。私達は本当の兄妹のように過ごしたのだ。
「そもそも属国の王子風情が我が妹エリーゼを呼び捨てにするなどおこがましすぎるわ。
その言動から言ってエリーゼの父が帝国の英雄、剣聖バージルだと知らぬのだろう」
王子はキョトンとしているが、王国の騎士たちの中で動揺が起こった。
そう、私の父は生きている時から帝国の英雄で、全ての騎士の目標だったのだ。私はその一人娘で、私の出自をとやかく言う者など、王宮は元より帝国内にも一人もいないはずだった。
「15年前に我が帝国軍は東方諸国の奇襲攻撃に遭い、殲滅の危機に陥った。その時にただ一人で敵の大軍を引き受けて戦死したのが、エリーゼの父親、剣聖バージルだ。
父は未だにその事に感謝しているし、帝国軍の多くはその事を忘れていない。
エリーゼに無礼を働くということは我が帝国軍に喧嘩を売るに等しい。それを貴様らは理解していなかったのだろう」
お義兄様は全員を見渡してくれた。私にイジワルをしたり、酷いことをした貴族達は青い顔をしている。
「それに、エリーゼ自身が12歳の時から3年間、帝国の騎士の叙任の時の女神役をしているのだ。帝国の騎士の多くの者の叙任の時の女神がエリーゼなのだ。この意味が判るか?」
お義兄様は騎士たちを見た。その言葉に真っ青になっている騎士もいた。
「エリーゼに何かあれば我が帝国の大半の騎士が駆けつけるだろう。そうなれば、このサンタル王国など即座に制圧されてしまうだろう。言動にはくれぐれも注意することだ」
騎士や貴族の子弟たちの中には青さを通り越して真っ白な顔をしている者もいた。
「そのように帝国で大切にされているエリーゼが、そもそも属国に過ぎないこのサンタル国に来るなど本来は有り得ないのだ。そこのくず王子など、本来ならば婚約者候補にすら上がらなかっただろう」
お義兄様の声に王子は青くなるしか無かった。
「エリーゼの母上の故郷がこのサンタル王国であるという理由とその母上の母、エリーゼの実の祖母と貴様の祖母の王太后が泣いてサンタル王国に嫁いで欲しいと三顧の礼をして頼み込んだから、エリーゼが折れただけだ。それも俺様のいない間にだ! 俺はこの件で未だに父を許していないがな」
なんかお義兄様が不吉なことを言っているんだけど……何か王宮でお父様とやり合ったんだろうか? 王宮が酷いことになっていなければよいのだが……私は不吉な予感しかしなかった。
「ただ、父自身の認識としてはエリーゼにこの国の3年間の留学を許したという認識しかないそうだ。婚約の話は卒業後改めて、貴様らの王子自らが帝国に馳せ参じた上で決めると親父は言っていたからな」
更にお義兄様が不吉なことを言い出したんだけど……
まあ、どちらにしろ、お義父様は私が王子から婚約破棄されたと聞けば怒り狂うことは確実だった。そもそも今回の婚約の件はサンタル王国側から我が帝国に頼み込んできた案件なのだから。この件はお義父様も、父の実家の公爵家のお祖父様も、元々大反対だったのだ。
それを王国側の熱意に私が負けて受けたのだ。
お義父様の頭の中では嫌がる私を無理やり王国側が泣き落として連れ去ったという認識なのだ。その私がこんな扱いを受けているなんて知った日には怒り狂ってこの国を攻め潰すように軍を動かす可能性は十二分にあったのだ。
そう、私が婚約破棄されたなんてお義父様が知ったら絶対に軍を動かす。
私はお母様が愛したこの国の存続のために、どうやって誤魔化そうかと頭を悩まし出したのだ。
でも、それはもう遅かったのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
王国の運命やいかに?
続きは今夜です。








