王子の断罪中にお義兄様が自分の身分を明かしてくれて会場中に激震が走りました
「エリーゼ・アルナス、貴様との婚約をここに破棄する」
私はアンドレ王子に言われた瞬間、固まってしまった。
私の3年間の努力が泡と化した瞬間だった。
少し前までは、私なりに必死に頑張ってきたのだ。
3日前にもうお前をエスコート出来ないと言われるまでは……
最近は少し諦めモードだったが、最初の頃は、中々会ってくれようとしないアンドレ王子に、会えるように大使館を通じていろいろアプローチもしたのに……
ゲームのように、セリーナを虐めることもしなかったのに……
結局、ゲームのように婚約破棄されてしまった。
私の努力は完全に無と化したのだ。
そのショックで私はその場に崩れ落ちそうになった。
でも、その私の体をお義兄様が黙って抱き止めてくれた。
私は何も言わないお義兄様の心遣いが有り難かった。
それにここに一人で立たされていたらショックのあまりこの場にへたり込んでいた。でも、お義兄様が一緒にいてくれる。まあ、何やりだすか判らないのが玉に瑕だが、最強の援軍には違いなかった。
「その婚約破棄の理由は、エリーゼが平民共を使ってこの私の横にいる公爵令嬢たるセリーヌを虐めさせたことだ」
アンドレは何か言ってくれたんだけど……
公爵令嬢を虐めてたってどういう事? 酷いことを貴族共にされていたのは私なんだけど!
私は思わずムッとしてしまった。
「殿下が何か言っているぞ」
「あなた達、何かしてくれたの?」
「やりたかったけれど、してないわよ」
「そもそも貴族達に意地悪されていたのはエリーゼじゃない」
「あの王子嘘つきね」
「嘘つき王子だ!」
後ろで私のクラスメイト達が騒ぎ出してくれた。
さすが、持つものは友達だ。学園時代の友情は一生物だとお母様も言っていた。
「黙れ、そこ! 証拠は上がっているのだ」
王子がそう叫んでくれたが、証拠って何処に? 誰かが嘘をついたってこと?
王子は横にいるロベールを見た。
そのロベールが隣の男を見る。
うん? あんまり見たことない顔だ。B組だろうか? 下位貴族みたいだ。
「私はヴィエリ男爵家の息子ピエールです。暗くて良く見えなかったのですが、平民の男どもがセリーヌ様の靴箱にゴミを入れているのを見ました」
何言ってくれているのよ。されたの私じゃない!
私は思わず叫びそうになった。
「平民の男どもを使うとは卑怯なことだな」
なんか王子が言ってくれてるんだけど……
「私はマノー子爵家のアレットです。暗くて良く見えなかったのですが、平民の女どもが二階からセリーヌ様に水をぶっかけるのを見ました」
えっ? それ、何一つ証拠になっていないんじゃないの? 暗くて見えないって、それじゃそもそもやったのは貴族かもしれないじゃない! 誰がやったかも判っていないし、そもそもやったのが平民だとしても、私が指示したかどうかもわからないじゃないの。
こいつらそれで証拠のつもりなの?
王子のお粗末さがそのまま出ているんだけど……
こんないい加減な奴らでこれから国の運営が出来るのか?
私はげんなりしてきた。
「エリ、帝国に帰ろう!」
そこに突然我に返ったように、お義兄様が理由のわからない事を言い出してくれたんだけど……
「ちょっと、お義兄様、いきなりどうしたの?」
私はお義兄様を見た。
今まで私が色々言われて静かにしているのがおかしいと思ったんだけど……
ひょっとして、今まで他のことを考えていて、全く聞いていなかったとか……
お義兄様をよく見ると完全に吹っ切れた顔をしている。私は今婚約破棄されたところなのに、なんでそんなに爽やかなの?
私はさすがにムッとした。
「お義兄様、何言い出すのよ。私は今セリーヌ様を虐めたとか言われて糾弾されているんだけど」
私が非難を込めた視線で見ると、
「エリは虐めたのか?」
「虐めるわけ無いでしょ」
お義兄様の問に私は答えると
「なら良いだろう。帰ろうぜ」
お義兄様はそう言うと私の手を取って歩き始めようとするんだけど……
「おい、待て」
王子が慌てて叫んだ。
騎士たちが私達の前に群がり出てくるんだけど……
「参ったなあ。俺はエリとここでは問題を起こさないと約束させられているから静かにしているだけなんだが……
これ以上いるとプッツン切れて何をしでかすか保証はしないぞ」
お義兄様が物騒なことを言い出した。
「お義兄様! 暴れないって約束したわよね」
私は思わずお義兄様に注意した。
「でも、こいつ等が攻撃してきたら反撃するぞ。そうなったらこいつらの命は保証しないが」
お兄様が睨めつけると、思わず騎士たちが一歩引いた。
「そもそも、俺がなんでこんな茶番に付き合わなければいけないんだ」
お義兄様が言い出してくれた……茶番、茶番ってたしかにそうかも知れないけれど、今されているのは私よ!
「ひどい! お義兄様!
今、妹の私が婚約破棄されたところなのよ。それを茶番って何よ。それも嬉しそうに!」
「いや、エリ、それはだな、嬉しいのは事実なんだが……」
「やっぱり、人の不幸を面白がっているじゃない」
私は完全に切れていた。
「いや、違うぞ。俺はエリの不幸を喜んではいない」
「じゃあなんでそんなに嬉しそうなのよ」
「いや、嬉しいのは俺の個人的なことでだな……」
お義兄様が必死に言い訳しているんだけど、私は許せなかった。
「ええい、貴様ら人の話を聞け!」
言い合いを始めた私達に王子が叫んでくれた。
私は断罪されていたのを思い出した。
「お前ら、人の話もちゃんと聞けないのか」
王子はゼイゼイしながら言ってくれたんだけど……
「ふんっ、ならば聞くに値することを話せよ。くず王子」
お義兄様が言い放ってくれた。
「お前、殿下になんということを」
側にいた騎士が唖然としている。
「き、貴様。言うにかこつけて何を言ってくれる。誰がくず王子だ!」
「だってそうだろうが、婚約者がいるにも関わらず、他の女をエスコートする男をクズと言わずしてなんと言うんだ」
ええええ!
お義兄様が常識論を話してくれた。非常識の塊のお義兄様に常識論で諭される者がいるなんて、普通はあり得ないのだ。
家族に言ったら、皆信じてくれないだろう。
「そ、それは、そこのエリーゼがセリーヌを虐めるから」
「俺の妹を呼び捨てにするな!」
お義兄様の一喝が入った。
その大声に思わず周りの面々がぎょっとしている。
「帝国の属国の王子風情に妹を呼び捨てにされる謂れはない」
お義兄様が言い切ってくれたんだけど、いや、だから私はその属国の子爵に過ぎないんですけど……
この雰囲気の中言えなかったけれど……
「な、何を言う。貴様こそ、テルナン伯爵と称しているが、そんな伯爵家は帝国に存在しないそうではないか。帝国のレトラ殿が教えてくれたぞ」
お兄様の威圧に腰砕けになりながら、なんとか王子が反論してきたんだけど……あの大使、そんな事言ったの?
でも、そもそもお義兄様が伯爵だろうが無かろうが、お義兄様の地位には全く関係ないと思うんだけど……
「いえ、殿下、それは違っておりまして」
なんか大使がその傍で青くなって腰を抜かして座りこんでいるんだけど……普通お義兄様に睨まれたら帝国で生きていけないわよね。
「トマス、レトラって、誰だ?」
「さあ」
お義兄様の声にトマスさんが首を振るんだけど、
「この国の大使よ」
仕方無しに私が教えて上げた。
「大使のくせに知らないのか? まあ、こんな辺境の国の大使ではまだ聞いていないのも仕方がないかもしれないか。お前をテルナン伯爵にすると親父に言われただけだからな、」
お義兄様が笑って言ってくれた。
「そうだろう。だから伯爵でもないわけだ」
王子が喜んで言っているんだけど、そう言う問題じゃないんだって! ひょっとしてこの王子お義兄様が誰か知らないの?
私はその可能性に思い当たった。2年前まではお義兄様は帝国の隣の大国に留学していたし、ここ2年間は東方戦線にいて、こちらの方に来たことはなかった。
そのくず王子の横でレトラが必死に何か言っていた。
「どうしたのだ。レトラ大使、真っ青な顔をして……恐竜、恐竜って何だ、この男が帝国の伯爵でもないのが判れば十分だろうが」
「そうだな。まあ、俺が伯爵だろうが、なんだろうが、関係はない。
くず王子の言うことは正しい」
お義兄様は不適な笑みを浮かべて言ってくれた。こんな、笑みをお義兄様が浮かべた時は碌な事がない。
「俺の名前はレオンハルト、帝国の第一皇子だ」
お義兄様が笑みを浮かべて名乗った瞬間、会場に激震が走ったのだ。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
お義兄様の正体が判明しました。
続きは明朝です。
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