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①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章 ~スカートめくりま扇と神様ヒロインのエロ修羅場!?編~  作者: ぺんぺん草のすけ


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いざ、門外へ!(2)

「イブさま……なぜ……わたしを……おみすてに……」

 その女のようなモノに釘付けになったタカトの目は、先ほどから小刻みに震えていた。

 体の細胞が危険を感じ、頭では「逃げろ」と分かっているのに、体はまるで動かない。

 尻もちをついて動けなくなったタカトのズボンは、漏れ出た小便で濡れていく。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 女のようなモノが吠えた。真紅に染まった目が大きく見開かれる。


 ――荒神っ!

 タカトの心臓がバクバクと鳴り、呼吸は浅く速まる。

 震える手が地面を掴み、体は固まったままだ。


「だれかぁぁぁぁ! 私をたすけてよぉぉぉぉ! おねがいだからぁぁぁぁ! 死ぬのはいやぁぁァァ! 消えるのはいやぁぁァァ!」

 荒神の叫びは悲痛な金切り声。

 大粒の涙をたたえた赤い瞳が、腰の抜けたタカトをじっと睨む。


「ねぇ……私の苛立ち……あなたにわかる? ねぇ……」

 荒神の声は尖り、けれどどこか切実だった。


 タカトは小刻みに首を振る。

 言葉にならない恐怖に押しつぶされそうだ。


「わかるはずないわよねぇ…… 」


 荒神の叫びが一瞬静まる。


「イブのくそアマに生気だけ吸われた、私のこの気持ちがァァァァ!」


 荒神はタカトに迫る。

「あんたも一緒に死になさいよぉぉ!

 私と一緒に消えなさいよぉぉぉ!」

 大きく振り上げた手が、ゆっくりと振り下ろされる――。


 ワン!


 その時、崖の上から小さな塊が荒神の女の顔めがけて飛んできた。

 それはタカトがエサをやっていた子犬だった。


 子犬は必死にタカトを救おうと飛び込み、荒神の鼻に噛みついた。


 顔に引っついた子犬を引きはがそうと、荒神はとっさに前足を掴んだ。

 そして力任せに地面へ叩きつける。


「キャイン!」

 子犬の悲鳴が響き、その前足はいびつな方向に折れていた。


「このくそ犬がァァァァ!」


 荒神は子犬の腹を思いきり蹴り上げた。

 高く宙を舞う子犬の体は、川の流れにぽちゃんと落ちる。

 まるで木の葉のように、どんどんと流されていった。


「ワンちゃん!」


 タカトはとっさに川へ飛び込もうとした。

 だが、宙に浮いた身体はそれ以上、前へと動かない。


 手足をバタバタと動かすが、一向に川へたどり着けない。


「逃がさないわよ……ボク……」


 そう、タカトは今、荒神に襟首をつかまれていたのだ。


 ――ひぃぃいぃぃ! 誰か助けてぇ!


 その時である。


 ズバァァァァン!


 一振りの剣が荒神の腹を薙ぎ払う音が響いた。


「ぎゃぁぁぁぁぁあ!」


 悲鳴を上げる荒神は、掴んでいたタカトを放り投げた。


 転がるタカトの頭上には、剣を真横に構える青年の姿があった。


 ――カッ……カッコいい……


 そう、この青年は、タカトの家に訪ねてきて、父から剣舞を教わっていたあの青年だ。


 だが、その足はブルブルと震え、顔は今にも泣きだしそうだった。


 ――やっぱ……カッコわるい……


「そのまま続けろ! 神祓いの舞を!」


 崖の上からは、厳しい表情の父・正行が見下ろしていた。

 澄んだ鈴の音が、辺りにチリーンと響く。

 その横では、母・ナヅナが優しく鈴を鳴らしながら、歌を紡ぎ始めた。


 意を決した青年はくるりと体を回す。

 剣を振り抜き、荒神の体を切りつけた。

 まるで剣舞のように、次々と斬撃が繰り出される。

 そのたびに、荒神の体から赤黒い生気がはじけ飛び、少しずつ、確実に気を削っていった。


 荒神の女は泣き叫ぶ!

「早くして! 早く! 荒神の気を払ってぇぇぇぇ!」


 必死に振られる剣だったが、なかなか荒神の気を払いきれない。

 どうも歌と剣の呼吸が合っていないのだ。

 いや、メロディと動きは合っている。

 おそらく、あの青年は必死に練習をしたのだろう。

 だが、それでも波長、呼吸が合っていなかった。


 ナヅナの歌は正行のためのもの。

 この青年のためのものではなかったのだ。


 そんな時、森の中から美しい歌声が聞こえてきた。

「おそいぞ! ビン子!」

「ごめん! イブってのに会ってた!」


 茂みの中から駆け出してきた少女に、青年は偉そうに命令する。

「そんなことは今はどうでもいいんだ! 一気に払うぞ!」

「ウン!」


 そこからの舞は美しかった……

 父とは違い、まだ粗削りだったが、どこか優しくて温かい気持ちになる舞だった。


 それを見つめる小さなタカトの目には、自然と涙があふれていた。


 荒神の気が消え去るとともに、神は元の姿へと戻った。

 だが、その姿はどんどんと薄れていく。

 それでも優しい笑顔を浮かべたまま、神はゆっくりと空へと消えていった。

「ありがとう……私を救ってくれて……」


 その様子を見つめる小さなタカトは、正行に尋ねた。

「あの荒神はどうなったの?」

「ああ、元の神様に戻ったんだよ」

「でも……消えちゃったよ……死んじゃったの?」

「いや、ちょっとお休みしているだけさ。また生気が宿れば、この世界に戻ってくるんだ」

「今度は、優しい神様に会えるかな?」

「ああ、きっと会えるよ。きっと……」

 正行は小さなタカトの頭に優しく手を置き、消え去った神の姿を追うように空を見上げた。


 第一の騎士の門の前で空を見上げるタカトは、ふと思い出していた。

 ――確かあの後、あの兄ちゃんたちと一緒に、流された子犬を探しに行ったんだったっけ……


 だが、川をどれだけ下っても、子犬の姿は見つからなかった。

 どこかの岸に流れ着き、森の奥へと入ってしまったのかもしれない。

 そうだとすれば、生きているということだ……ならば、それで良かったじゃないか……


 泣きじゃくる自分の頭を、兄ちゃんが優しく撫でてくれたことが、まるで昨日のことのように思える。


 ――でも、あの子犬……今頃どうしているんだろうな……元気にしているのかな……


 って、もう11年も経っているんだぞ!

 子犬のままなわけないだろ!

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