鑑定の神はおばあちゃん?(7)
超有名なアイドルアイナが何者かに襲撃されケガをおったというのである。
その証拠に、倒れこむアイナと背を向けて必死に逃げるベッツの写真がデカデカと掲載されていた。
しかも、ベッツは“アイナ襲撃の真犯人”として、顔写真までさらされていたのである。
「犯人はこのくそガキか!」
「見つけ次第ぶち殺す!」
「アイナの敵は俺の敵! いや全世界人類の敵!」
と言わんばかりに、当然ながら聖人世界の隅々に潜むアイナ親衛隊から目の敵にされることになってしまった。
もう、外を歩けば命の危険がすぐそこにあるような状況だ。
殺気をまとった視線が、窓の隙間から、通りの陰から、屋根の上から──町のあらゆる場所で、ベッツの一挙手一投足を監視していた。
こんな状況だ、ベッツがちょっとでも顔を見せようものなら、すぐに誰かに見つかって、たちまちボコボコにされたのだった。
もはやベッツにとっては世界中が敵になったような感じすらする。
そんなベッツは、全身キャベツの葉に包まれたような着ぐるみの中で、まるで煮崩れ寸前のロールキャベツのように震え続けるのだ。
――俺……童貞のまま死にたくないよ……
そしてこれ以降、ベッツは家にとじこもって出てこようとしなくなってしまった。
どうやら華やかなヤンキー人生から陰鬱なニートライフへと強制ジョブチェンジしていたようだ。
でも、こんな大事件に一人だけ歓喜の咆哮を上げている奴がおりました!
「ベッツローロ! アイナの雌ブタをちゃんとシメてきよったね! さすがおでん組のセンターや!」
そう、それはおでん組のプロデューサーであってベッツの祖母であるペンハーン!
アイナにステージで勝てないのなら、闇討ち万歳!
ってことで、新聞を片手に大喜び!
「これでアイナの時代は終わった! うちらの時代や! おでん組の時代や! おでん万歳!」
てことで、時間をまた今に戻そう。
ベッツが消えた通りには母犬と子犬が取り残されていた。
いまだに子犬は唸り声をあげている。
もしかしたら、今度は目の前のタカトを警戒しているのかもしれない。
子犬だからこそわかる、ほんのわずかな臭い……そう、男の子だったらなじみのある香りだ。
先ほどから、目の前のこの変なガキの股間あたりからはタケノコをゆがいた時のようなあの独特なアルカリの香りが漂ってくるのだ。
おそらくタカトの固い志が、アイナちゃんのくい込み写真集を待ちきれずに夜の妄想をふくらませていたのだろう。
えっ? 違うものが膨らんでるって? 大丈夫だよ! ベッツに殴られそうになった時に、すでにシュンとしぼんで元気がなくなっているからwww って、不発かよ!
そんなタカトは荷馬車から飛び降りると、道に倒れる母犬に駆け寄った。
――元気がないな……
……って、一応言っとくけど、犬のことだからね!? 犬!!
母犬は警戒し、タカトの敵意を確かめるかのように、下腹部のあたりに鼻を近づけた。
そして──ふいに、その鼻がピクリと動いた。
次の瞬間、なぜか甘えた声を漏らし、タカトの足元へとすり寄ってきたではないか。
どうやら、あの“独特なアルカリの香り”が、記憶のスイッチになったらしい。
先ほどまで唸っていた子犬も、あっけに取られたように首をかしげるばかりだった。
タカトはそっと母犬の頭をなでると、急いで荷馬車へと戻ってきた。
そして御者台の上に放ってあった自分のカバンに手を突っ込む。
──まさか、今さらティッシュでも取り出そうっていうのか?
いや、違った。
彼がおもむろに取り出したのは、一つの布包みだった。
その中から現れたのは──ビン子が朝作ってくれた、弁当箱である。
弁当箱の中には、巨大なパイの包み焼きが2個入っていた。
実はこのパイ、食材を買うお金がない迷コック・ビン子が、森からの恵みをふんだんに使い、前日までに仕込んでおいたものだ。
タンポポやヨモギ、ゴーヤなどを丁寧に下ごしらえし、さらに女性ホルモンと似た効果を持つ大豆イソフラボン、女性ホルモンの分泌を促すための高たんぱく質としてイモリの黒焼き、トカゲのしっぽ、そして童貞の血などを惜しみなく混ぜ込んだ。
最後に、悪魔を召喚するかのような呪文を唱えながら、パイに包んで焼き上げた至高の一品──その名も『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』。
「エロエロエッサイム~、エロエロエッサイム~ 我は求め訴えたり、
巨乳の女神よ、 我に巨乳を与えたまえ、
あぁ巨乳、
あぁ巨乳、
とにかく1ミリでも大きくなりたまえ~」
名前の通りとてもほろ苦い。
だが、これを食べても胸は1ミリも大きくなったためしがないのだ。
しかし、悪魔召喚魔法の効果がないわけでもなさそうだ。
というのも、このパイを食べると、なぜかタカトが召喚する茶色いナマコが巨大なトドへと成長するからだ。
「ヒッ!ヒッ!フ――!ヒッ!ヒッ!フ――!
もう!無理ィぃぃぃ!俺の穴からスイカが生まれるぅぅぅ!」
それが、朝のトイレから響くタカトの定番絶叫である。




