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①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章 ~スカートめくりま扇と神様ヒロインのエロ修羅場!?編~  作者: ぺんぺん草のすけ


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鑑定の神はおばあちゃん?(4)

 ということで、ベッツの目の前には、オカマの猫ではなく小汚い犬が一匹、横たわっているではないか。

 ──まあ、こんな犬でもイジメれば、多少は気が晴れるというものだ。


「お前! 汚ねぇな! 足が腐ってんじゃないか! 土下座しろ!」


 ……って、そもそも犬は最初から四つん這いだろうが。アホか。


 うずくまる母犬のそばで、子犬が小さなうなり声をあげている。

 まるで「それ以上、母さんを傷つけるな」と言わんばかりに、小さな牙をむいていた。


 危険を察したのか、母犬は子犬の首の後ろに噛みつくと、懸命に引っ張って距離をとろうとする。

 だが、倒れ込んだ体では力が入らず、子犬をうまく引き離すことができない。


 しかも、子犬は子犬で、母の口を振り払うように首をひねると、今まで以上にベッツをにらみつけ、低く唸り声を震わせはじめた。

 今にも飛びかかりそうな勢いだった。


「なんだ! このクソ犬! さっきからうるせぇんだよ!」


 ベッツもまた子犬をにらみ返すと、右足を勢いよく振り上げた──。


 ――まさか、ベッツの奴、あの子犬を蹴るつもりなのか。

 先ほどからの光景は、タカトにとって不愉快きわまりないものだった。


 犬たちは、ただ道を歩いていただけだ。

 懸命に生きているだけなのに、汚物のように扱われ、理不尽な罵声を浴びせられる。


 ……だが、それは決して他人事ではない。

 タカト自身、何度も経験してきたことだった。

 誰にも理由を問われず、ただそこにいたというだけで、無価値だと決めつけられる日々。


 だからわかっている。こんな場面は、珍しくもなんともない。

 これがこの街の現実であり、空気のように誰もが受け入れている光景だ。


 ──だからこそ、犬たちにも言ってやりたかった。

 「気にするな」「相手にするな」

 ……そう、思っていたのに。


  目の前の母犬は、傷つき、倒れ伏したまま動けない。

 それでもなお、子を守ろうと必死に体を引きずり続けている。


 子犬もまた、幼い体で母をかばい、威嚇の声をあげている。

 勝ち目などない。ベッツと子犬、どう考えても力の差は歴然だ。

 それでも子犬は牙をむき、吠え立てていた。母を守るために、全身で抗っているのだ。


 一体、この犬たちのどこが“汚い”というのだろうか。

 母が子を思う気持ち。

 子が母を思う気持ち。

 それは犬でも人でも、変わるはずがない。


 それを踏みにじるベッツの方こそ、犬畜生以下ではないか。


 つい、タカトは我慢できずに大声をあげてしまった。

「ベッツ! お前の方がうるさいんだよ!」


 目の前にいる母犬の姿が、自分の母のそれと重なった。

 幼かった頃、魔人に襲われ、恐怖に押しつぶされて動けなかった自分。


 ――あの時、俺は何もできなかった。


 その記憶は今も胸の奥に深く刺さったまま。

 何度も何度も夢の中で鮮明に甦り、冷たい汗となって流れ落ちる。

 今でも、「守れなかった」という言葉の重みが身体の芯をえぐり続けているのだ。


 もしかしたら、自分は本当は子犬のように母を守りたかったのかもしれない。

 もっと、抵抗できたのかもしれない――

 でも、怖かった……

 あの時の魔人の緑の双眸。

 体が動かなくなってしまったのだ……


 ――情けない……


 だからこそ、今ここにいる母犬と子犬だけは、絶対に傷つけさせたくない。

 そしてなにより、理不尽な暴力が無垢な者に降りかかることが、どうしても許せなかった。


 自分の体が小突かれるのはいくらでも耐えられる。

 そんな体の痛みなど、いくらでも我慢できる自信がある。


 だがしかし……


 誰かが小突かれるのを見ているのは、心が痛むのだ。

 それは自分が小突かれるよりも、はるかに重い痛みで……

 そんなヒリヒリとした痛みは……

 ――本当に……耐えがたい……

「テメエはニワトリか! このモヒカン野郎!」


 今朝の鶏蜘蛛騒動でさんざんな目にあったベッツは、「ニワトリ」という言葉にカチンときた。

 ――ニワトリなんて言葉、もうしばらく聞きたくねえんだよ!

 まさにトラウマ! カマドウマ!


 トラウマに触れられたベッツは顔を真っ赤に染め、カマドウマのようにピョンと勢いよくタカトへ振り向いた。


「なんだと! タカトぉぉ!」


「子犬相手に吠えるなよ! うっせぇんだよ! このチキン野郎!」


「チキン! 今チキンって言ったのか!」


 カッチン!

 怒りで肩を震わせながら、ベッツは荷馬車のそばのタカトに近づいてきた。


 ベッツは単に、子犬で鬱憤を晴らそうとしていただけだった。

 それなのに、急にタカトが噛みついてきやがった。

 いつもはへらへらしているくせに、なぜか偉そうにどなりつけてくる。


 しかも、その横にはビン子が、少し驚いたような目でタカトを見つめている。

 もしかして、今のタカトのことを男らしいとでも思っているのか。


 へなちょこなタカトが、ビン子の前で子犬を守ろうとイキがっているのが、

 ベッツには無性に腹が立った。


 ――あぁ、今日は最悪だ……


「おい! タカト! イキるなよ! 荷台から降りてこい!」

「アホか! 降りろと言われて降りる馬鹿がどこにおるんじゃい!」

「ならば、こっちから行ってやるよ!」


 ベッツが荷台の柵へ手をかける。


 ――ひぃぃぃぃぃ!


 先ほどまでの威勢はどこへやら、一転してびびりまくるタカト。

 なにせ今のタカトには、ベッツと闘う手段がまったくないのだ。

 カバンの中には『スカート(のぞ)きマッスル君』は入っておらず、あるのは『スカートまくりま扇』だけ。

 だが、ベッツは男の子。

 そう、スカートではなくズボンをはいているのだ。

 ――どないせいっちゅうねん!

 この状況で、弱小タカトとベッツが喧嘩になったとしても、

 おそらく一方的に殴られて終わるだけだろう。

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