第六の騎士の門(10)
タカトとビン子は、荷馬車を宿舎の裏手に回した。
その背後には、レンガ造りの倉庫が一棟──ひっそりと佇んでいる。
「……ま、どうせ、ここに運ぶんでしょ」
ビン子は溜め息混じりに呟いた。
もちろん、ここから先は人力だ。
馬車を引くのは馬でも、荷を運ぶのは人間である。つまり、彼女たちだ。
荷積みのときは権蔵が手伝ってくれたが、荷降ろしはタカトとビン子の二人だけ。
そして、そのうち一人──タカトは、いわずもがなの戦力外。
結果、またしてもビン子のワンオペがスタートした。
タカトはというと、荷馬車の上で荷物を持ち上げる“演技”に余念がない。
「んーっ、よいしょっと……(持ってない)」
そんな調子である。
この光景も、もはや日常風景。
見かねた守備兵たちが、いつものように手伝ってくれた。
「ビン子ちゃんってさ、働き者だよな。絶対、いい奥さんになるタイプ」
若い守備兵が、にこやかに言う。
「保証するよ。なんなら俺の嫁に来ない?」
「断固、お断りしますw」
タカトは、荷馬車の陰からそのやりとりを聞いていた。
表情は──若干ムッとしている。
──はぁ!? どこがいいんだよ、あんな貧乳女の……
だが、ビン子がまんざらでもなさそうに微笑むと、何故だか余計に腹が立ってきた。
だが、ビン子は笑いながら即答する。
「それは断固お断りしますw」
守備兵は肩をすくめ、荷物を抱えあげながらつぶやく。
「ってことは、彼氏がいるんだな?」
「いませんよ~w」
そう言いつつも、ビン子は何気なくタカトのほうをチラリ。
「そんなのいませんよw」
笑いながらビン子は手を振った。
しかし、何かが気になったのだろう。
チラッとタカトの様子を伺った。
だが、そのタカトは彼女を一瞥すらせず、別の守備兵と防具を運んでいた。
いや、運ばされていた。
「ほら行け!」
「ちょっ、ちょっと重いって!」
守備兵たちに半ば強引に首根っこを掴まれ、
一番重い荷物を担がされるハメになっている。
──いわば、教育的制裁である。
いつもビン子に荷降ろしを押し付けているタカトを見かねて、
守備兵たちが“しれっと”お仕置きしているのだ。
「こら、タカト! ちゃんと腰入れろ!」
「入れてますってば!」
「じゃあ、なんでフラつくんだよ!」
「俺、か弱いんですよ……少しはいたわってくださいよ……」
「そうか。なら後で、お前のケツをやさしくいたわってやるよ!」
「た、助けてぇぇぇぇ! ビン子ちゃぁぁぁん!!」
タカトの絶叫が、倉庫の前に響き渡った。
守備兵たちの笑い声とともに、門前広場の空に吸い込まれていった──。
えっ?
「なんで守備兵たちがタカトを手伝ってるの?」って?
「さっき女子学生のスカートめくりの犯人を捜すって、広場に飛び出していったはずじゃなかったの?」って?
……お、おぉぉ……鋭い……。
いやだなぁ、もちろん忘れてなんかいませんってwwww 旦那!
じゃあ、どうして彼らが倉庫に戻ってきてるのかだって?
はい、それはですね──
犯人が見つかったからです!
うん? どういうこと?
スカートめくりの犯人はタカトのはずだろ?
でも、さっき守備兵たちと道具を運んでいたよね?
真犯人は確かにタカトではあるが……ぶっちゃけ、守備兵たちが納得すれば、犯人なんて誰でもいいんですよ!
ということで、時間を少々巻き戻し! ポチッとな!
キュル~キュル~キュル~(って、分かるんかいな、この擬音www)
門前広場で、スカートめくりの犯人を捜していた守備兵たち。
そのとき、広場の一角から子どもたちの歓声と──どこか芝居がかった声が響きわたった。
「ハハハハハ! 仮面ダレダー! 今日こそお前の最期だぁぁぁッ!」
「なにっ!? ツョッカー!」
「さあ行け、我が忠実なる戦闘員!」
……
……
シーン……
「……どうした、ツョッカー! 戦闘員は!?」
「ちょっ……ちょっと待って! え、遅刻!? 戦闘員が遅刻ってマジで!?」
そのとき。
ステージ裏からゼェハァ言いながら黒い影が駆け込んでくる。
──あれは!
土手を爆走していた女の子4人組(※ただし一人オッサン)の一人!
全身黒タイツに白骨プリント、ツョッカーの“セントウイン”だ!
「はぁ……はぁ……す、すみません……お、おくれました……イィィ……」
「お前、今何時だと思ってんだよ! 首領に言いつけるぞ!」
「イィィィィ! 首領にはちゃんと挨拶してきましたっ!」
「え、マジで? じゃあ最初から連絡してよぉ~……」
そのやりとりを横で聞きながら、黒いフルフェイスのヒーロー(たぶん仮面ダレダー)が遠慮がちに手を挙げた。
「……あの、ツョッカーさん。そろそろ俺、必殺技いってもいいですか?」
「あっ、ごめんごめん! OK、やっちゃってー! いけ! 戦闘員!」
「イィィィィィ!」
仮面ダレダーが派手に手を回し、ベルトに手を当てる!
「仮面ダレダー! 48の必殺技のひとつ──ダブルタツマキッ!!」
ゴゴゴゴゴ……
背後の巨大扇風機がうなりを上げて回転を始める!
そして──
セントウインがその風を受け、くるくると回り出す!
まるでピルエットを決めるバレリーナのように──
ふわり、と舞い上がるスカート。
……ん?
スカート……?
戦闘員がスカート履いてるーッ!?!?
「イィィィィィィィィ!!」
盛大にクルクルと回転しながら、ステージの脇へと消えた──その直後!
銭形のとっつぁん……にしか見えない守備兵の声が響いた!
「貴様を逮捕する!」
その声に、ステージ脇で肩を上下させていた女子学生の体がビタッと止まった。
頭にはオイルパン。走りすぎたせいか、顔には妙なズレが生じていた。
……そして、カツラの隙間から覗くモミアゲが、妙に存在感を放っている。
──おいおい、まさか……
ルパン・サーセン!?
「……とっつぁん?」
「へっ?」
そこには手錠をかけられた仮面ダレダーがいた。
ステージの上で呆然と自分の両手を見下ろしている。
えええぇぇぇぇぇッ!?
なんで⁉ 仮面ダレダーが逮捕? ルパン・サーセンじゃないの?
「貴様を女子学生スカートめくりの現行犯で、逮捕する!」
肩を落としてステージを降りていく仮面ダレダーと、子どもたちの歓声に得意げに手を振る銭形のとっつぁん。その姿はまさにヒーローショーの主人公って……オイ!
──というわけで、事件はめでたく(?)解決!
……というか、あの戦闘員、女子学生だったのか……
って、これ……解決したのスカートめくり事件じゃなくて、ただ戦闘員の正体が女子学生って分かっただけじゃん……
まぁ……そうとも言うwww




