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①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章 ~スカートめくりま扇と神様ヒロインのエロ修羅場!?編~  作者: ぺんぺん草のすけ


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第六の騎士の門(8)

 幾日か、そんな日々が続いたある日のことだった。

 座布団にじっと座っていた幼女は、ふとドアの隙間からこちらを覗く小さな男の子に気づいた。


「何してるんだ?」

 少年はドア越しに声をかけてくる。

「……なにもしてないよ」

 幼女は座ったまま、小さくつぶやいた。


「ふーん。で、お前、誰?」

「私? ……わたし、神さま……らしいよ」

 どこか寂しげな笑みを浮かべながら、幼女はそう答える。


 すると、少年の顔がぱっと明るくなった。

「じゃあさ、じいちゃんを金持ちにしてよ!」

 その無邪気な言葉に、幼女はふいにうつむき、膝の上でぎゅっと両手を握りしめた。

「……ごめんなさい。できないの……」


 少年はふと、幼女の前に置かれた手つかずの食べ物に目を留めた。

 むっとした顔でドアを開けると、ズカズカと部屋に入ってくる。

 皿の上のお供え物を乱暴に奪い取ると、睨みつけるように言い放つ。

「なんで食わねーんだよ! 食えよ! そんなんだから、死にそうな顔してんだろ!」


「でも……」

 か細い声で答える幼女の目が、かすかに揺れる。


「ったく、もう!」

 少年はお供え物を掴み取ると、無理やり少女の口元へ押しつける。

「いい加減にしろよ! 飯を食えっつってんだよ!」


 だが、幼女は震えるように首を振った。

「……だって、私……何もできないの」


「ふざけんなよ!」

 少年の声が鋭く響く。

「じいちゃんが、自分の分をお前に食べさせようとしてるんだぞ!」


 その言葉に、幼女の目が見開かれた。

 ──え……

 まさか、この食べ物……おじいさんの分だったの?

 いつもここに置かれているってことは……

 もしかして、おじいさん、ろくに食べてないんじゃ……?

 もしかしたら、この残った傷んだ食べ物を……?


「じいちゃんのためにも、ちゃんと食えよ!」

 皿からこぼれたお供え物が、床に転がっていく。


「……」

 幼女の目から、ついにぽろりと涙がこぼれた。

 私は、何もできない……

 生きてるだけで、迷惑なのに……

 どうして、生まれてきたんだろう……。


 皿に汚れた頬をそむけながら、幼女はしゃくり上げて泣き出す。

「もうやめて……! 私には、何もないの……私は、空っぽの人形なの……!」


「ふざけんなよ!」

 少年の怒鳴り声が重なる。

 その言葉は、叱咤でも慰めでもなかった。ただ、魂ごとぶつけるような、真っ直ぐな叫びだった。

「お前は人形なんかじゃねえ!」


「だったら……何なのよ……! 私、一体何なのよ……! 名前すらないのに……!」


 一瞬の沈黙。

 やがて、少年がぽつりと言う。


「……そっか、名前がないのか」

 そして、ニコリと笑った。


「じゃあ、俺がつけてやるよ。お前は今日から、貧乏神のビン子だ!」


「貧乏神って……」


「バカだなあ、ビン子! 貧乏神ってのはな、貧乏をぶっ壊して、福を呼ぶ最強の神様なんだぞ! ……知らんけど!」


「……」

 赤く腫れた目を、幼女はゆっくりと上げた。


「だいたいさ、これ以上貧乏になりようがねぇんだし、ビン子がいて困ることなんて、ねぇよwww」


「……私……ここに、いてもいいの……かな……?」

 その瞳は、まだ涙を湛えていたけれど――たしかに、希望を探していた。


「当たり前だろ! この状況で貧乏神が逃げたら、ガチで貧乏まっしぐらじゃねーかwww」


「……ふふっ……www……」

 ビン子はくすりと笑った。

 胸の奥に溜まっていたものが、少しだけ和らいだ気がした。


 少年はその笑顔を見逃さなかった。

「だから笑え! 飯食って笑え! 笑う門には福きたるって言うじゃねーか! ワハハハハ!」


 その瞬間、ドアが勢いよく開き、怒鳴り声が飛んできた。

「このドアホ! ここには入るなと何度言ったらわかるんじゃ!」

 権蔵がずかずかと入ってくる。

「タカト! だいたい神様に向かって何しとんじゃ! このドアホが!」

「じいちゃん! どアホって2回言ったぞ!」

「ドアホにドアホ言って、なにが悪いんじゃ! このドアホ!」

  権蔵はタカトの首根っこをつかむと、そのまま部屋の外へと引きずっていった。


   * * *


 古びた机の前に座ったタカトは、黙々と芋をかじっていた。

 その向かいで、権蔵は花茶をひと口ずつ静かにすするだけだった。


 ──ガラガラ。

 奥の部屋のドアが、そっと開いた。


 そこに立っていたのは、金色の目に涙をたたえたビン子だった。

 手には、タカトが散らかしたお供え物をひとつひとつ拾い集めた、汚れた皿がのっている。


「……一緒に、お食事をしても……よろしいですか?」


 か細い声に、権蔵は思わず息を飲んだ。

 その様子を横目に、タカトが芋をかじりながらぼそりと言った。


「なんだビン子かよ。ここ座れよ。もう俺たち”家族”だろ」


 目も合わせず、タカトは座ったまま自分の隣を少しだけ空けた。

 そこには、人ひとり分のスペースがぽつんとできている。


 ──家族……

 そんなふうに呼ばれたのは、たぶん初めてだった。


 ビン子は小さくうなずき、恐る恐るその隣に腰を下ろす。


 ──私は、ここにいていいんだよね……?


 隣の少年は、相変わらず芋を頬張るだけだったけれど。

 その背中が、ほんの少しだけ、温かく感じられた。


 ビン子の目には、涙が光ったままだった。

 でも、そこには確かに――微かな笑みが浮かんでいた。


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