黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(11)
――仕方ない……ココは小汚い死体にボディタッチでもして、献身的なところをアピールしてみるか。
セレスティーノは、うっわ最悪……と心の中で全力拒否しつつも、顔はキラースマイルのまま、ピンクのオッサンの手を取った。
ぬめっ……とした感触がした気がしたが、たぶん気のせいだ。思いたい。いや、思わせてくれ。
――ええい……触ったついでだ!
用心深さ(だけ)は本物のセレスティーノ。
ちゃんと最後まで責任をもって確認しようと、指先をオッサンの脈に当てた。
そう! 見た目だけじゃ信用ならん。ブサイクは死んだふりが得意なのだ(偏見)。
――ヨシ! 脈はない! 完全に沈黙!!
やった! 死んだ!!
というか死によったぁぁぁwww わはは!
――オレのパンチ、強すぎィィ! (※本人の感想です)
さて――と。
ここでセレスティーノは切り替えた。冷静に。計算高く。
「この無惨な死体にも愛を向ける優しいオレ♡」って演出をすれば、周りの女どもはもうメロメロ間違いなし!
感動のあまり、自分のことも愛されてるに違いないと錯覚して、発情期の雌犬よろしくシッポふって寄ってくるはず!
そう信じて疑わないセレスティーノ、さっそく情感たっぷりのウソ泣きを開始!
「しくしく……死んじゃダメだよ……戻っておいで……僕の大切なハニー……」
はい出ました、嘘泣き王子の本領発揮。
でもね、泣いてる目元が全然赤くないのよ。しかも口元がニヤけてるのよ。
周囲の女たちは、その全力の演技を完全に冷めた目で見ていた。が、本人は気づいていない。
――しめしめ。ニヒヒ……これで、代わりの女……GETだぜ☆
このときの彼の脳内には、モン〇ターボールの「カチッ!」って音が確かに鳴っていた。
だが、そのときだった。
地面に転がっていたオッサンの口元が、カチッと音を立てたのだ。
――は?
クルリと回る首。
潰れた顔の真ん中にあるはずの目が、腫れあがったまま大きく開き、ジィ~ッとこちらを見上げている。
――うそだろ……?
しかもその目、なぜかキラキラと潤んで輝いているではないか。
さらに頬には血とは別に、まるで**初恋中の少女がほんのり染めたような、真っ赤な紅**が……
――いやいやいや、なんで乙女補正入ってんの⁉
――お前さっきまで犬の死体みたいに転がってただろ⁉
セレスティーノは息を呑んだ。
確かに自分の拳は“魔装装甲”で強化されていた。中型魔物でも一発KOできるクラスのパワーだ。
――確実に殺した……!
――脈もなかった! 顔面もボコだった! 普通ならあの世一直線だろ⁉
にもかかわらず、目の前のピンクのオッサンは、少女漫画のヒロインよろしく、キラッキラな眼差しでこっちを見ているのだ。
――ちょっと待て……目は黒いまま……?
――ってことは、人魔になったわけでもなく……ただの人間ってこと⁉
――ありえないでしょ! まさかの生存⁉
セレスティーノの顔からスッと血の気が引いていく。
「ハイ、戻ってきまじだ❤」
そして――そのピンクの肉塊が、鼻血とよだれを同時にたらしながら、少女のようにニッコリと笑った。
――キモッ!!!
――何そのラブコメ展開!? 誰も望んでねぇわ!!
どうやらセレスティーノが感じたあの一抹の不安は、このピンクのオッサンのゴキブリ並みの強い生存本能だったのだ。
おら! おら! おら!
地獄の底、溶岩がグツグツ煮えたぎるその中で――
ピンクのドレスを翻しながら、鬼どもと壮絶バトルを繰り広げていたのは、他ならぬピンクのオッサン。
「俺を地下闘技場チャンピオン、“ゴンカレエ=バーモンド=カラクチニコフ”と知っての狼藉か! 殺すぞゴラァ!!」
さすがは地下闘技場チャンピオンというだけあって、彼の対応戦力等級99! もはや、化け物並みの強さであるwwww
半泣きで土下座している鬼の頭を、ヒールでぐりぐり踏みつけながら、彼は叫んでいた。
そこへ、遠く人間界から届いた――ひとすじの“愛のささやき”。
――戻っておいで……僕の大切なハニー……
ド キ ュ ー ン ❤
その瞬間、オッサンの目がハート型になった。
少女マンガも真っ青なときめき演出である。
――えっ……今の……告白……?
片思いだと思っていた。
――ワタジ……ずっと……見てるだけでよかったのに……
決して叶わないと思っていた。
――だって……重いって思われたらイヤだったから……!
近づきたいけど届かない……だから……そんなアナタをぞっと見つめるだけでいいと思っていた……
――だけど! だけど! ぞの恋は今! 明らかに相思相愛の花を咲かせたの❤
「ゼレズディーノさまァァッ! 今ずぐ、カレエーナ=アマ子があなたの元に参りま~~ずッ!!」
そう、愛の力は無限大!
瀕死の鬼どもを殴り殺すことすら忘れ、オッサンは三途の川にドボンッ!
そして、まさかのバタフライ泳法で川を逆走!
天界・地獄・人間界、全部スルーして、一直線にセレスティーノの元へ!
今頃、ビビったエンマ大王は半泣きなりながら閻魔帳を書き直していることだろう。
『この男、逃亡犯につきトリプル・ルッツルツルの刑に処す!』
――やはり……将来の不安は、今のうちに潰しておくべきか……?
セレスティーノは真剣に悩んでいた。
まるで保険の見直しを検討するサラリーマンのように、真剣に――。
だが、とどめの一撃をブチかますには、周囲の視線があまりにも痛い。
見よ、この状況を!
血まみれのピンクドレスのオッサンと、それを上から見下ろすイケメン学生服騎士――
これで二発目を叩き込んだ日には、誰がどう見ても“民間人に追い打ちかけてる系ヤベー奴”だ。
――ダメだ……それはさすがにダメだ……
イケメンポイント、マイナス三万とかになる未来しか見えない。
※セレスティーノ調べ。
しかも今の自分は、ただの制服姿。
魔装装甲も開血解放もナシの、言うなれば“ただのイケメン(私服)”。
――その状態で、あのオッサンを倒せるのか?
いや、無理だ。
さっき全力の『魔装装甲(限界突破ずみ)』での拳撃でもビクともせんかったやろ、アイツ。
どんだけ顔面フルスイングしてもピクリともせんやん。
――なんやねん! このピンクのオッサン!
魔物よりタフって、どういう構造しとんねん!?
そんな絶望に頭を抱えるセレスティーノの背後――
アホみたいな茶番に集中を乱された鶏蜘蛛が、ついにイラついて振り返ろうとした、その瞬間!
ズル……ズルズルズル……
鶏蜘蛛の首が――いや、正確には「だった部分」が、徐々に……徐々に……地面へと滑り落ちていく。
そして、ドクンッと血を噴き出しながら、最終的に「ポトリ」。
あっさり首チョンパ。ボディとはあっさり離婚である。
……って、以上!? まじでそれだけ!?
うん! それだけ☆(キラッ)
どんだけぇ~~~♪(某美容師風)
というわけで、
IKK〇さ〜〜ん!
慌てない♪ 慌てない♪ 一休み〜〜♪ ひとやすみ〜〜〜♪
ということでCMはいります!
\\祝☆電撃公開!//
\\誰も待ってないけど完全自己満!//
『ピンクのオッサンとセレスティーノの、愛と感動のなれそめ話』が今ここに!
【悲運の地下拳闘士、運命の出会いに心が震えた……】
『地下拳闘士の華麗なる転身~我が名はゴンカレエ=バーモンド=カラクチニコフ!よっ❤』
☞ https://kakuyomu.jp/works/16816452220505680812
泣くな! 笑え! その前にオッサンどうにかしろ!




