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①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章 ~スカートめくりま扇と神様ヒロインのエロ修羅場!?編~  作者: ぺんぺん草のすけ


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黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(10)

 剣を構え直したセレスティーノは、わざとらしく咳払いひとつ。

 周囲に聞こえるような声量で、どこか言い訳めいた台詞を口にした。

「意外に素早いですね。もうすでに何人か召し上がった後ですか」

 ちら、と女たちの方に視線を向ける。

 というのも、女たちの手前、一振りでかっこよく片をつけて「きゃー素敵!」とか言わせたかったのだ。

 それが、どうだ。

 くちばしかわされたわ、毒液は顔にぶっかけられるわで、まるでマヌケな役回りじゃないか。

 ――かっこ悪い……これは……マジで……


 ――これは、私がミスったのでは決してない!

 セレスティーノは心の中で必死に叫ぶ。

 あの鶏蜘蛛が、たまたま人間を何人も食って、想定外のスピードを手に入れていただけなのだ。

 そうでもなければ、この騎士セレスティーノ様が

 ――この私が! 空振りなど、するはずがないッ!……そうだ。そうに決まってる。うん、間違いない。

 これは事故だ。交通事故みたいなものだ。避けようがなかった!

 きっと、そうだ! そうなんだ! いや、それしかあり得ないんだぁぁぁ!

 ――なにがおかしい! 私は悪くない! 悪いのは魔物の方だーっ!!

 そう心の中で叫びながら、微妙に肩が震えているセレスティーノ。

 魔装装甲の仮面に覆われていてその表情を伺うことはできないが、きっとその下の表情は、とても面白いことになっていたことだろう。

 それほどまでに、セレスティーノの自尊心は崩壊寸前であったのだwwww


 ――もう、許さぬ。たとえ相手がザコの魔物であろうと、容赦はせん。全力でもって、叩き潰す!

 セレスティーノのこめかみに怒りの血管が浮かび上がる。

 仮面の奥で燃え盛るのは、騎士の誇りを汚された男の烈火――その怒りの熱が、鎧の隙間から漏れ出すかのように空気を揺らす。

 「限界突破(げんかいとっぱ)ァァァ!!」

 叫びと同時に、セレスティーノの全身から闘気が噴き出した。

 それはもはや一つの爆発。闘志が、業火のごとく渦巻き、燃え、弾ける。

 「我が奥義をもって……一刀に伏すッ!!」

 その声は大気を裂き、大地を震わせる。


 再び、鶏蜘蛛が空を裂いて飛びかかる。


 セレスティーノは、剣をすっと前に構え、そっと目を閉じた。

 次の瞬間――刀身の周囲に、白く淡い霧が静かに立ち昇りはじめる。

 それはまるで、夜明け前の湖面を包む朝霧のように。

 やがて、剣の周囲にゆっくりと渦を描きながら、霧が舞い踊り出す。

 空気がぴたりと止まったような静寂の中、

 微かな囁きのように、セレスティーノの声が響いた。

 「――鏡花水月(きょうかすいげつ)

 剣先に宿るその霧は、まるで幻を生むように広がり、

 現実と夢の境をゆらりと溶かしていく。


 だが、その言葉と同時――いや、それよりわずかに早く、鶏蜘蛛のくちばしがセレスティーノの胸を貫いていた。

 刹那、勝利を確信したように、魔物はその体内に向けて毒液を叩きつける。

 黒いしぶきが背から噴き出し、それが後方の石畳をじゅうじゅうと音を立てて溶かしていく。


 決まった! ……はずだった。


 ……だが。


 セレスティーノは、崩れない。

 苦しむ気配もなく、ただ静かに、そこに立ち続けていた。

 ……いや、違う。何かがおかしい。

 その体の輪郭が、わずかにゆらりと揺れた。

 次の瞬間、まるで霧が朝日に溶けるように、静かに、優雅に、かき消えていく。

 霧散する幻影。

 目の前で、それは確かに「そこにいた」はずの人間が、影も形もなくなっていく。

 呆然とする鶏蜘蛛の緑の瞳が、虚空をさまよう。


「お待たせ~♪」

 どこか呑気で、さわやかすぎる声が響いた。


 ――は?

 鶏蜘蛛は思わずそちらを見てしまう。

 背中越し、いや――腹越しに。

 ついさっきまで“胸を貫いたはず”のセレスティーノが、ちゃっかり女たちの方へと手を振りながら、すたこら走っていくではないか。

 ――うそやろ……

 思わずそんな言葉が喉まで出かける。

 幻覚のくせに、精度が高すぎたのだ。貫いた装甲の固さ、肉のつぶれた感触、しまいにはちょっとした体温までリアル。

 そして次の瞬間、鶏蜘蛛はようやく気づいた。

 自分がさっき、思いっきり「空気に向かって」毒液を吐いていたという事実に……。

 そう、自らのくちばしが貫いたのは実体ではなかった。

 ただの幻――否、「鏡花水月」の中に映し出された、形ある“虚像”だったのだ。


「ゼレスディーノざまぁ~!」

 待ってましたと言わんばかりに、ピンクのオッサンが喜び勇んでセレスティーノに飛びつこうとした。


 その瞬間。


 セレスティーノの心はついに限界を迎えた!

「くたばれぇぇぇぇぇぇぇ! 魔物ぉぉぉぉぉぉぉお!」

 セレスティーノの右ストレートがおっさんに顔面に

 スパァァァンッ!

 キレイに入ったwwww

 今まで我慢に我慢を重ねてきた。

 それが今、ついに解放されたのだ。

 か・い・か・ん☆

 キツネの仮面の奥では、きっとセレスティーノが恍惚の笑みを浮かべていたことだろう。

 ちなみにこのとき、彼はまだ『魔装装甲(限界突破ずみ)』のままwww

 ハイ!ココで問題ですwwwそんな強化状態の拳で人間の顔面を殴ったらどうなるでしょうか?

 答え:頭がスイカみたいにパーン☆

 その強化された破壊力は大きな岩をも簡単にブチぬくのだから!


 「ブホォァ!!」

 顔面の真ん中がつぶれたオッサンが吹き飛んでいく。

 豪快な放物線を描きながらピンク色の物体が遠ざかっていく。

 その様子を、女たちは目を点にして、ただ無言で見送っていた……


 ――終わった……

 セレスティーノは確信していた。

 この一撃で、すべてが終わったのだと。

 なにせ、『魔装装甲(限界突破ずみ)』での拳撃。

 並の人間なら、頭がスイカみたいにパーン☆である。


 だが……


 セレスティーノの背筋に、ぞくりとした違和感が走る。

 ――なんだ、この違和感は……

 まさか、……恋!?

 ――んなわけあるかーい!! 誰がオッサンにときめくかぁぁぁ!! って、しつこいんだよ!

 脳内で自分にツッコミを入れながら、セレスティーノは不安の原因を突き止めるべく、

 放物線の着地点――落下したピンクのオッサンのもとへと、そっと駆け寄っていくのだった。


 石畳の上に転がるピンクのオッサンは、まるで車に引かれた犬のようだった。

 片目は半開き、口からは泡と血を垂らし、体は見事なまでに脱力。

 ピンクのドレスが血に染まり、哀れさに拍車をかけている。


 女たちは、思わず息を呑んで立ちすくんだ。

 「……え……死んだ?」

 「うそでしょ……」

 「ていうか……頭、さっきより低くなってない?」

 誰もが言葉を失い、黙ってその姿を見つめる。

 まるで、そこだけ時間が止まったようだった。


 一人の少女が、目を覆い、震える声でつぶやいた。

 「……さっきまで、うざかったのに……なんか……かわいそう……」

 別の者は顔をそむけてゲロまで吐き出すしまつ。

 「無理……ムリムリ……もう、見たくない……」


 セレスティーノは、女たちをこれ以上怖がらせぬよう、静かに開血解放を解除すると、そっとその輪の中へと歩を進めた。

 ――確実にヤツは仕留めた!

 そんな確信があるのか、セレスティーノの口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 だが――状況は最悪だった。

 周囲を囲む女たちの目が、完全にドン引きなのだ……

 この状況……ピンクのドレスを着た血まみれのオッサンと、その横に立つイケメン騎士……

 どう見ても、“何の罪もない善良な民草を、(イケメン)騎士が一撃でぶち殺した”絵面にしか見えない。

 というか、事実、そうなのだが……

 ――まずい……まずいぞこれは……!

 セレスティーノは心の中で叫んだ。

 イケメンアイドルとして名を馳せている以上、快楽殺人者の汚名をかぶるのはよろしくはない。

 そんなことにでもなれば、女たちの目が「きゃー♡」から「きゃ……(ドン引き)」へと切り替わってしまう。

 これは非常にまずい! マズすぎる!

 となれば……街でのナンパ成功率が目に見えて低下する。

 ――やばい! やばい! やばい!

 おそらく先ほど感じた不安の原正体はこれだったに違いない。

 ということで、頭脳明晰(自称)イケメンアイドルのセレスティーノは、この難局を乗り越えるための最適解を即座に考え出した。

 そう、紳士ムーブである。

 

「すみません。大丈夫ですか? つい魔物と間違えてしまいました」


 ……おい、ちょっと待て。

 つい魔物と間違えたって、どの口が言っとんじゃ。


 殴られたのは確かにピンクのドレスを着たオッサンだが、どこからどう見ても魔物ではない。

 いや、目を細めて超絶ポジティブに見れば、「色味的には魔物っぽいかも……?」と思わなくもないが、

 だからって開血解放パンチをブチ込んでいい理由にはならん。


 しかもこれ、見方によっては「お前ブス殴ったろ」みたいな発言にも聞こえる!

 ダメ! 絶対ダメ!! セレスティーノ、お前アイドル枠だろ!?

 だが――当の本人は、やりきった感MAXで、めちゃくちゃ爽やかな顔している。

 おそらく脳内BGMは「勝利のファンファーレ」で満たされている。

 ……というかね、そもそもこの状況、どう見ても騎士が民間人殴り殺してる図なのよ。

 それを「大丈夫ですか?」って、いや……“お前が言うな”案件だよ!!


 ――これでどうや!

 セレスティーノは、どや顔で周囲を見回した。

 「魔物と間違えました♡」という、さりげないフォローも添えて、イケメンムーブはバッチリ決まった。

 はずだった。いや、決まったと本人は思っていた。


 だが――女たちの反応は、驚くほど静かだった。

 「………………(冷たい目)」


 ――あれ?

 拍手喝采も、黄色い悲鳴も、きゃー♡も……こない。

 むしろ、「え、なにあの人……」「ちょっと怖……」という空気。

 距離もなぜかじりじりと開いている。


 ――え? おかしくない?


 セレスティーノは内心焦っていた。

 これだけ完璧に決めてるのに、どうしてイケメンポイントが上がらない!?

 それどころか――下がってる!? まさかの減点モード!? 

 ――あのオッサン、そんなに日頃の行いよかったのか? 炊き出し常連とかなのか?

 いや、単にセレスティーノ、あんたの徳が低かっただけじゃね?


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