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①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章 ~スカートめくりま扇と神様ヒロインのエロ修羅場!?編~  作者: ぺんぺん草のすけ


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タカトの心(3)

「よーっ! 熱いね、タカトくーん!」

「超弱いくせにイキんなって!」

「くっさ! オタク臭ハンパねぇ!」

 少年たちが、あからさまな嘲笑でタカトを挑発する。


「なんか、ウ〇コみたいなニオイするよ? あっ、ウ〇コだったぁ~! キャハハハッ!」

「ねぇねぇ、その服、洗ってんの? ってか、洗えんの? ぷーん♡」

 少女たちは鼻をつまみながら、わざとらしく後ずさりしてみせる。

 ヒソヒソと笑い合い、指先でタカトをなぞるようにバカにしてくる。


 ――だが、そんなもの、タカトには聞こえていない。

 いや、聞こえていても気にしないのだ。

 こんな光景は、毎度のことだったから。


「ベッツ、放せって言ってんだよ!」

 タカトは、むしろ静かに、だが明確な意思を込めて叫んだ。

「ビン子に手を出すなって言ってんだよ!」


 その真っ直ぐな目を、ベッツが見下ろす。

「オイオイ、何熱くなってんの? おまえごときが」


 言うが早いか、ベッツはビン子の手を乱暴に放し、今度はタカトの胸倉をつかみ上げる。

「弱いくせに生意気言ってんじゃねぇぞ、オラッ!」


 そのまま突き飛ばされたタカトは、大きくよろける。

 ……が、倒れない。

 地面すれすれで踏みとどまり、顔を上げる。


 いつもなら、とっくにしりもちをついて、子犬みたいに怯えた目を向けてくるのに……今日のタカトは違った。

 ――なんだよ……つまんねぇな。

 そんな不満げな顔をしながら、ベッツが一歩近づく。

 そして、腹へ突き上げるようなパンチを放った。


 「ぐはっ――!」

 タカトの体がくの字に折れる。

 だが、そこで終わらない。

 フラついた足の先が一歩前に出て、ぎりぎりのところで倒れず踏みとどまった。


 ――コイツ……マジで倒れねぇのか?

 見下ろしていたベッツが、ふと違和感を覚える。

 視線を下ろすと、いつものように怯えているはずのタカトが、じっとこちらを睨み返していた。


 その目は、まっすぐで、どこか静かに燃えていた。


 ――……なんだよ、コイツ。


 その時だった。

「こらぁっ! そこのガキんちょども! 何度言わせんの、店の前で騒ぐんじゃないっての!」

 怒鳴り声と一緒に、コンビニの自動ドアが開く。

 現れたのは、タカトたちがよく通う店の店長。

 長身スレンダー、美人。ドスの効いた声とは裏腹に、気風のいい姉御肌で、面倒見もいい。

 タカトはふと、その左手に視線をやる。薬指には、細い銀の指輪が今も光っていた。

 旦那さんはもうこの世にいない。けれど彼女は、それをずっと外さない。


「……全員、まとめて出入り禁止にすんぞ、コラァ」


 低く一言つぶやいた瞬間、ベッツが跳ねた。

「ひぃっ! 今日はこのぐらいにしておいてやるよ!」


 そう叫ぶと、きびすを返して全力ダッシュ。

 他の連中も「やべー!」と笑いながら、それに続いて走り出す。


 女店長は腕を組んで、遠ざかっていく背中を見送りながら、ため息をついた。

「……ほんと、元気だけはいいわね。風邪ひくなよ、バカども」


 まだ足元がおぼつかないタカトに、ビン子が慌てて駆け寄った。


「タカト、大丈夫!?」

「見りゃわかるだろ、痛ぇに決まってんだろうが!」

「えっ、でも今日は地べたに転がってないし……」

「フン、今日はコレがあったからな!」

「コレって……何?」


 ビン子の視線の先には、タカトが握りしめていた奇妙な物体。


 一見すると、バニーガールのフィギュア。だが、そのポーズが妙だった。

 片足を上げてお尻をプリッと突き出し、右手にはお盆――いや、回転する銀色のコマ!?


 ――なんでバニー!? てか、なんでトレイがジャイロ!?


挿絵(By みてみん)


「聞いて驚け! コレは『スカート覗きマッスル君』だ!

 どんな無理な体勢からも、コケることなくスカートの中を覗くことができる姿勢制御のすぐれもの!」


「また、アホなもん作ってからに……」


 ビン子は顔を手で覆った。

 どう見ても“覗かれる側”にしか見えないそのバニーのポーズ。

けど、これがいつものタカトだ。

くだらないことばっかして、ほんとバカで……でも、やっぱりそうじゃなきゃダメなんだ。

 ――心配して損した。まったく、バカ。


 だが、マッスル君を握るタカトの表情は、どこか硬かった。

「……本来、俺の道具は、ケンカに使うためのものじゃない。

 俺の道具は、夢を届けるためのものなんだ。みんなを笑顔にするために……」

 ――それが、母さんの最後の願いだったから。


「……ごめん。私のせいで……」

 いつの間にか、ビン子は両手で顔を覆っていた。

 涙が、指の隙間からぽろぽろとこぼれていく。

 ――またタカトが傷ついた。私のせいで。

 ……やっぱり私、貧乏神なんだ。

 私がそばにいるせいで、タカトは――


「なんでビン子のせいになるんだよ!」

 タカトが声を張った。

 口元に、いつものいたずらっぽい笑みが戻っていた。

「それにさ、俺、最近ずっと芋ばっか食ってたんだよ。

 さっき、あいつらの横ですかしっ屁ぶっかましてやった。ざまぁみろってな!」

 V(ブイ)サインを突き出し、大笑いするタカト。


「バカ……!」

 涙ぐんだビン子の目が、思わず笑っていた。

 ――心配して損した。ほんと、もう……バカなんだから。


挿絵(By みてみん)

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