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①俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます 一部一章 ~スカートめくりま扇と神様ヒロインのエロ修羅場!?編~  作者: ぺんぺん草のすけ


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タカトの心(1)

 カレーのついた芋をほお張るたびに絶叫を上げ続けているタカト。

 権蔵はそんな騒がしい様子にうんざりしたようにため息をつきながら、重い口を開いた。


「おい……タカト……配達の帰りに、ちゃんと食材を買ってくるのを忘れるなよ……」


 毎回、ビン子が食事当番のたびに『電気ネズミのピカピカ中辛カレー』を食わされる身にもなってほしい。

 せめてまともな食材があれば、迷惑コックのビン子といえど、もう少しマシな料理が作れるというものだ。


 そう思いつつも、権蔵の表情にはどこか不安の色が滲んでいた。

 まるで、これから起こる何かを本能的に察知しているかのように――。


「なぁ、タカト……せめて、今日だけは……酒だけは絶対に忘れずに買ってきてくれよ……」


 その声には、切実さと諦念と、そして一抹の希望が入り混じっていた。


 とはいえ、実際の任務は、『騎士の門』の守備隊に汎用道具を届けて、そのついでに『一般街』で買い物して帰ってくる――ただそれだけの、実にシンプルなお仕事……のはず、なのである。


 もしかして、この聞きなれない「騎士の門」とやらが危ないのでは?

 ――そう思ったあなたは、なかなか鋭い。


 「騎士の門」とは、聖人世界に存在する四つの門――「大門」「騎士の門」「中門」「小門」のうちの一つ。

 その門の“外側フィールド”には、常に張り詰めた空気が漂っている。

 なぜならそこは、魔人世界側の「騎士の門」へと直結した、いわば両世界の前線だからだ。


 門自体は閉ざされているが、「騎士の門」は聖人世界と魔人世界にそれぞれ存在し、真正面から地続きで向かい合っている。

 つまり、その境界を越えれば、そこはもう本物の魔人世界。

 一歩間違えば命を落とす、極めて危険なエリアというわけである。


 だが、この門の恐ろしさはそれだけにとどまらない。

 各門の外側フィールドには、他国の“キーストーン”――すなわち、「大門」を開くための鍵が秘匿されている。

 そして、他国から奪ったキーストーンを八つすべて揃えることで、自国の「大門」を開くことができるのだ。


 そう、「大門」を開くことは、すべての国家にとっての悲願。

 騎士たちは、自国のキーストーンを死守しながら、他国のキーストーンを奪うべく、今日も命を賭して戦っている。

 この静かなる侵略戦は、はるか昔より両世界の狭間で、密やかに、だが確実に繰り返されてきたのである。

 まあ、簡単に言えば、「騎士の門」の外側フィールドは、魔人や魔物とガチで殺し合ってる戦場だ。

 って! オイ! やっぱりそこ、危ないどころの話じゃないじゃないか!


 いや、違うのだ!

 タカトが配達に向かうのは『内地』――つまり、融合国内にある「騎士の門」の内側なのだ。

 要するに、門の外側のフィールドに足を踏み入れさえしなければ、そこまで危険というわけではない。

 実際、国内に紛れ込んでくる魔物のほとんどは、『小門』から迷い込んできたちんけな雑魚ばかり。

 そんな連中は、守備兵たちが見つけるなり「汚物は消毒だぁァァァァ!」と叫びながら、きっちり駆除してくれている。

 まあ、もちろん――ときどき《獅子の魔人》みたいなレアモンスター級のヤバい奴が紛れ込むことも、なくはないけど……

 そんなレアモンスター級に出くわす確率なんて、宝くじに当たるよりずっと低い。……たぶん。


 では、もしかして買い物先が危険地帯なのか?

 ……確かに、タカトがよく買い物をする店は危ない店だ。

 危ない――そう、別の意味で。

 なんとそこは、大人のオモチャやコスプレグッズがずらりと並ぶ、子供にはちょっと刺激が強すぎるオ・ミ・セ♥

 とはいえ、食材から酒まで一通りそろってる、実はかなり便利なコンビニエンスストアだったりするのだ。

 ……って、よくよく考えたら……これ、わりと普通やん……普通ぅ!


 なら、どうして権蔵は、今にも泣き出しそうな顔をしているのだろう?

 ――それはね……実は、タカト君が配達に行くたびに、なぜか権蔵じいちゃんの借金が増えるんですよ。


 !?

 えっ? 意味がわからない? まぁ、そりゃそうだ。


 納品用の道具を作るには当然、材料費がかかる。これは常識。

 でも、貧乏暮らしの権蔵一家に、そんなまとまった金があるわけない。これも常識。

 だから、納品で得たお金をそのまま材料費にあてる――つまり、自転車操業ってやつだ。

 ……ところが!

 タカトが配達に行くたびに、なぜかお金が! なくなってくる!

 資金ショート! デフォルト! 夜逃げ! 首つり自殺! 一発K.O.!

 はい、地獄のコンボ完成です!

 そんなわけで、権蔵は泣く泣く、自分の主である“神民”から借金して、その場をしのいでいるのだった……。


 ま……まぁ……だけど……タカト君も人間だ。

 たまにはお金をなくす失敗くらい、あるよね?

 ――だが、それは「たまに」どころの話ではなかった。


「ピンクのドレスを着た毛むくじゃらのオッサンが、チェキ代として持ってっちゃったんだョ!」

「昔話に出てくる怪鳥が、月から飛んできて財布をくわえてったんだョ!」


 無一文で帰ってくるたびに、タカトはしょうもない与太話でヘラヘラと笑ってごまかした。


「このドアホ! そんなウソ、あるかァァッ!」

 当然、権蔵はすぐに見抜いて怒鳴り声を上げる。

 だが、それ以上は――責めなかった。

 どうやら、タカトの“本当の目的”に、権蔵も薄々気づいていたのだ。


 納品を終えたタカトは、買い物へと街へ向かう。

 そこは『一般街』――神民たちが暮らす上層の『神民街』とは城壁で隔てられた、下層民の町。

 そして、その町並みは、神民街から遠ざかるにつれ、どんどんと治安が悪くなっていく。

 タカトが向かうのは、そんな街はずれの外れ。

 毎日のように、なにかしらの騒ぎが起きている、トラブルの坩堝だった。


 借金取りに追われて逃げ惑う女がいれば、その手をつかんで金を握らせる。

 魔物に家を壊された家族が泣き崩れていれば、そっと背後に金を置いて去る。


 ――そう。

 タカトは、女に弱いのだ。

 特に、“女の涙”には……。

 まぁ、だからといって――

 男相手の喧嘩で勝った記録も、これまで一度もないのだが。


 タカトはカレーまみれの芋をほおばりながら、なぜか胸を張った。

「今日は大丈夫だって!」

 唇を真っ赤に腫らし、へらへらと笑っているその姿は、何一つ危機感を感じさせない。


 ――まったく、こいつは……

 苛立ちを隠しきれず、権蔵は湯飲みを机にドンと叩きつけた。

「このドアホが! この前もババアに病院代だって金貨置いてきたんじゃろが! 第一、そのババア、本当に病人だったんか!?」

 ※ちなみに、この世界のお金の単位はこんな感じ――

 金貨一枚=約十万円、銀貨一枚=約千円、銅貨一枚=約十円。

 「大」がつくとその十倍! たとえば、大銀貨なら一万円だ!


 『ピカピカ中辛カレー』でタラコみたいに膨れ上がった唇のタカトが、むにゃっと口を開く。

「だってさ、道の真ん中で血吐いて倒れてたんだよ!? マジで死にそうだったって! なぁ、ビン子!」

 まるで弁護士に助けを求める依頼人のような視線が、ビン子に向けられる。


 ビン子は少しだけ困ったような顔で、ぽつりとうなずいた。

「……うん……」

 ――そう。確かに、あの時もそうだったのだ。

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