第一駐屯地(17)
モンガの奴隷たちがカマキガルの骸と毒消しを荷馬車に積み替えていく。
タカトはふてくされながらも守備兵から毒消しを運搬を完了した旨の受領書にサインをもらっていた。
そんなタカトはいまだに納得ができないようでブツブツ言っている。
「くそっ! ただ働きかよ!」
「まぁ、命があるだけいいじゃない」
ビン子はそんなタカトを優しくなだめた。
荷を積み終わったモンガたちの車列が動き出す。
タカトたちもまた毒消しを運ぶモンガの隊列の後について第一駐屯地へと向かいはじめた。
というのも、当初はすぐにでも帰ろうと思っていたのだが、ジャックがヨークにモンガたちが内地に戻るまでの護衛を無理やり押し付けたのである。
「俺がカマキガルをやっつけてやったんだからさぁ~、それぐらいの仕事はしてくれよなぁ~ 弱っちい兄ちゃん!」
ヨークはその言葉に黙って従うしかできなかった。
第一駐屯地の城壁。
その上に突き出された投石車の数々がタカトたち一行を無機質に出迎えた。
城門が作る黒い影が徐々にタカトたちの上へと覆いかぶさっていく。
そして、ついにその影が切れるとまぶしい光がタカトたちを照らしだした。
そこは駐屯地内に広がる大きな広場。
そんな広場では先ほどまで緩慢に見えていた駐屯地内の守備兵たちの動きが急に慌ただしくなったのだ。
そう、ジャックの帰還と共に守備兵たちの空気がガラリと変わったのである。
その変わりようは部外者であるタカトにも明らかに分かるぐらいに。
ピリピリとした空気。
なにか居心地の悪さを感じる。
タカトたちは走り回る兵士たちの邪魔にならないように荷馬車を広場の隅に止めた。
さてさて、これからどうしたものか。
考えあぐねるタカトに忙しく走り回る一人の一般兵が声をかけた。
どうやら、返り血で汚れているタカトたちがよほど目についたようである。
「お前たち、結構汚れているな。かなり匂うぞ。向こうで水でも浴びてこいよ」
親切心なのか、ただただ邪魔だったのか分からないが、一般兵は広場の反対側を指さした。
その先には簡易のシャワーが涼やかに虹をかけている。
シャワーに使う水を樽からくみ上げているのであろうか、その横では奴隷兵が一心不乱にポンプを押し続けていた。
その様子は見ているだけで暑苦しい。
「あざーす」
大きく返事をしたタカトは自分のカバンの中から手拭いを一つ取り出した。
それには巨乳アイドルのアイナちゃんらしきものがプリントされていた。
らしきものというのは……実は、その手拭いのアイナちゃんは、タカトがいま着ているティシャツ同様にプリントがところどころ剥げ落ちてアイドルどころかババアのような装いになっていたのだ。
だが、そんなことを気にすることもなくタカトは手拭いをさっと肩に回すと、一人さっさとシャワーへと歩きはじめた。
一方、ビン子はどうやら先ほどの兵士の言葉が気になったようで、自分の二の腕のにおいをクンクンとかいでいた。
「ねぇ、タカト、匂うかな……」
まぁ、女の子だから仕方ない。
臭いと言われれば気になるものだ。
スタスタと歩くタカトの後を追いながら何度も何度も嗅ぎなおす。
そして、また、質問を重ねるのだ。
「ねぇ! ねぇ! タカト! 私、匂うかな?」
だが、顔をあげたビン子は見てはいけないものを見てしまった。
言葉が終わらないうちに、すでにタカトは服を脱ぎ終わってスッポンポンになっていたのである。
ちなみに、ここは広場の片隅。いわゆる公衆の面前というやつだ。
そんな青空の下、タカトが手拭いを肩にかけながら真っ裸で仁王立ちしているのだ。
「えっ? 何か言った?」
ビン子の方へと振り向くタカト。
それと共に下半身もバットのように勢いよく回った。
だが、下の方はよく洗っていないので「匂う立ち」といった所かwww
「キャ! せめて前ぐらい隠してよ……」
ビン子は左手で目を隠し、自分の手拭いをタカトへと突き出した。
だが、タカトは左手を腰に当て右手を突きだし振りながら全力で断る!
「断固! 断る!」
いやいや、そんな偉そうに言えるほど立派なものじゃないよ。その振られているものは……
「その手拭いは、お前が使えよ!」
と言い終わると、降り注ぐシャワーに全裸で飛び込んだのだ。
そして、頭をガシガシと洗ったかと思うと、もう飛び出してきた。
カラスもビックリの行水スピード!
早い!
早すぎる!
って、お前……「匂う立ち」は洗ったのかよwww
絶対まだ匂うぞ!




