第一駐屯地(15)
だからこそ、今度は打って変わったように念入りにカマキガルの残骸を吟味しはじめたではないか。
そして、いつしかタカトの目の前には二つの山が出来上がっていたのだった。
一つの山はタカト自身が使う融合加工の素材の山。
どうやらもう一つは権蔵に渡す山のようである。
タカトの山には、カマキガルの鎌や触角など、融合加工に使えそうないい具材が集まっていた。
それに対して権蔵の山は、つぶれた目玉とか……破れた内臓とか…… 一体、何に使うのか分からないモノばかり……
「こんなもんか。これで結構な数の融合加工の道具が作れるぞ」
嬉しそうな表情を浮かべるタカトは、ひと段落ついたかのように腰に手を当てて首を右に左にとストレッチしていた。
確かにこんなに真剣に仕事をしたのはいつ以来のことだろう。
そんな時である。
はるか彼方から、男の声がかすかに聞こえる。
「小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
それにふと目をやるタカトには、地平線の彼方から大きな土煙がこちらに近づいてくるのがよく見えた。
――あれ? この声はどこかで聞いたことがあるような?
「今! 行くからなァァァァァァ! 逃げるなよぉぉぉぉぉ!」
どうやら、空の彼方へ吹き飛んでいたジャック隊長が全速力で駆け戻ってきたようだった。
――ヤバイ……
タカトの表情は一瞬にして引きつった
――やっぱりちょっと、カマキガルの解体に時間をかけすぎたか……
「どうするのよ! タカト!」
またもやビン子の目が涙目に。
タカトをそっと見守っていたことに後悔をしていた。
――やっぱりあの時、タカトの首根っこを掴んででもさっさとこの場を離れておくべきだったわ。
そう、ジャックが戻ってくるまでの間に、カマキガルの素材を荷馬車に積み込んだ上で、さっさと毒消しを駐屯地に運び込み、内地である融合国内にトンズラすればよかったのだ。
って、それだけの仕事量、どのみち多分……間に合いません。
そんな間にも、どんどんと近づいてくる黒きワニの魔装装甲!
なんで? 魔装装甲?
って、戻ってくるジャック隊長……わざわざ開血解放までして魔装騎兵になっておられますよ!
もしかして……かなり頭に来ているとか……
頭にくるよねぇ……
水たまりでツルっと滑ってこかさて……ついには、空の彼方へと飛ばされた。
もう、ジャック隊長のプライドはズタズタ……
やっぱり、これ……ちょっと、やばいのとちゃいますのぉ~
バシン!
タカトの頭がはたかれた。
そう、この場に駆け戻ってきた魔装騎兵のジャックによってである。
魔装騎兵は第五世代! その力は岩をも砕くのだ!
当然、タカト君の頭なんて……
なんとも、なっていなかった。
⁉
ウン? タカトの頭ってそんなに石頭?
いやいや、そんな訳ないやろう。
ビン子のハリセンぐらいで簡単にボコボコになっているんだから。
そう、なぜだか知らないが、今のジャック隊長は超ご機嫌だったのである。
そんなジャックの手には胸から上だけになった神民魔人の亡骸が、長い髪の毛を掴まれてブラブラと風に揺れていた。
スカートまくりま扇ジンベイザメモードRXによって吹き飛ばされたジャック隊長は空を飛んでいた。
まぁ、魔装騎兵は空を飛ぶ能力はないので、吹っ飛ばされていたという表現の方が適当なのだろう。
だが、いまだに降下する様子を見せないその速度。
翼を持たないジャックは、当然、何もできなかった。
ということで、ついに空中であぐらをかきなが考えはじめたのだ。
――クソっ! あの小僧……戻ったら、絶対殺す!
だがそんな時、空を一直線に進むジャックが何やら一つの影に追いついたのだ。
それは空を飛ぶ魔物。いや、魔人であった。
「ハロ~! 魔人ちゃん~!」
並ぶ魔人に対して、にこやかに手を振るジャック。
当然、魔人はびっくり仰天!
「なんでこんなところに人間がいるんだよ! というか、なんでお前、空を飛んでいるんだ!」
そう、人間は普通、空を飛べないのだ。
だから、空を飛ぶ魔物は下から放たれる毒矢ぐらいを警戒していればこと足りるのである。
しかも、この場所には、周りに人間が攻撃できるような拠点があるわけではない。
そんなまったく敵襲なんて想定していなかったところに、いきなり人間が現れたのである。
しかも、なぜか自分と並走して飛んでいるではないか。
ジャック隊長は頬杖を突きながら、魔人に対して質問した。
「お前さ~、ここで何してるの~?」
――おいおい! ここは空の上だぞ。何言ってるんだ?
空を飛ぶ魔人といえども、羽をはばたかさないと飛ぶことはできない。
それが、何だ! この男は!
何もせずにあぐらをかいているだけなのだ。
まさか、この男、どこぞのテロ組織の教祖様?
いわゆる空中浮遊というやつなのか!
「おまえさ~、もしかして神民魔人だったりする~?」
なにも答えぬ魔人を嬉しそうに観察していたジャックは、そっと腰の魔血ユニットに手を伸ばした。
「ならば、なんと……」と、神民魔人が言い終わるよりも早く、ジャックは剣を振りぬいていた。




