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【旧版】深層世界のルールブック ~現実でTRPGは無理げーでは?  作者: のらふくろう
セッション1 『可視光外の秘密』

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4話 キャラクター(後半)

2022年1月23日:

ジャンルをローファンタジーから空想科学に変更しました。

最初SF(VRゲーム)が近いと考えていたのですが、舞台が現実でTRPGがモチーフなので、

ニューロトリオン=魔力、ルールブック=魔導書

という解釈でローファンタジー、ファンタジー要素がある地球を選択しました。

ですが、今後投稿する話の流れを考えるとジャンルはSF(空想科学)が適切だと判断しました。


ジャンル変更ということで混乱させて申し訳ありません。

「ボクがシンジケートでまともに機能していたのは十歳までの五年間にすぎない。『半神化デミゴディス』の方針を巡って分裂したシンジケートはボクたちの所有を争ったんだ。その時点の最精鋭モデルチーム同士がぶつかった大きなものだった。表の世界ではこんな感じで扱われたけどね」


 北米、北欧、中国で富裕層だけの『要塞都市』が三カ所同時にテロ攻撃された記事が流れ込む。合計数百人の犠牲者が出た。アンチテクノロジー団体と言われる容疑者は全員死亡だが身元不明の死体が二十人以上。僕が十三歳の時の大事件だ。


「ボクがいまいるのはシンジケートの一派『財団』の医学研究所、正確には人体実験施設だね。自分では指一本動かせない状態だ。彼らは貴重な実験サンプルであるボクを回復させるために、BMIで刺激を続けている。僕はそれを逆利用ハックしているというわけだ」

「……ならシンジケートとやらに協力すればいいじゃないか」

「スイッチ一つで自分を殺せる相手と協力関係は成り立たない。財団は実験サンプルあるいは実験データとしてのボクを個体としてのボクよりも優先する。だから僕はこのルールブックを作った。僕にとっても唯一の対抗手段なんだ。だけど言った通り現在のルールブックは試作段階だ。どうしても実際に使ってもらって改良する必要がある」

「それでテストプレイか……」


 言葉と同時に、脳に映像が浮かんだ。白いベッドの上に身動き一つせず、チューブに繋がれた少女が横たわっている。それが誰だかはすぐに分かった。明るい金髪と抜けるような白い肌はVRルームで見たGMのアバターとそっくりだった。


「今の話が全部本当だったとして。でも、相手を間違っている。僕には無理だ。君と違って特別な能力なんてない。役に立たない」


 彼女の境遇に同情しないわけじゃない。一連の話は近未来物TRPGならわくわくしたかもしれない。でもこれは現実だ。僕はTRPGのキャラじゃない、しいて言えば『クトゥルフ神話TRPG』の一般人だ。


「過小評価だね。ボクがどうして君を選んだと思う。『インヴィンシブル・アイズ』の適合者のデータにおける君のステータスは『発生S』『制御D』なんだ」

「意味が分からない」

「ニューロトリオンを発生させる効率が1000万人に一人。ただしコントロール能力は一般人以下って意味だよ。シンジケートの選定は二つの掛け合わせだから君はスカウト基準には満たない。ニューロトリオン・コアは制御資質に大きく依存するんだ」

「つまりお呼びじゃないってことだろ。シンジケートからも……君からも」

「ニューロトリオン発生率は人間の高度な情報処理活動である意識に関わる。これはどうしてだと思う?」

「わかるわけがない」


 控えめに解放してくれと頼んだが、返ってきたのは理解できない言葉だ。


「さっき説明したクオリアと関わるけど。意識はとても高度な情報処理なんだ。世界のモデルを作り出すためには情報の統合と自律的という二つの機能が必要だ。つまり、目からの映像、耳からの音声など五感の情報に加え、記憶や感情も含めた多様な種類の情報を「一つの世界」として統合、認識する」

「当たり前のことに聞こえるけど」


 難しい言葉を使っているが、要するに僕たちが自分について認識していることと変わらない。四六時中やっていることだ。今は出来ないけど。


「当たり前に行っているこの情報処理が驚異的なんだよ。コンピュータは単一の種類の情報なら大量かつ高速で処理できる。例えば百万枚の写真に写った猫を探すとかね。だけど、異なる種類の情報を統合することは難しい。いって見ればコンピュータの情報処理は広大な面積(2D)で、人間の情報処理は小さな体積(3D)なんだ。この差が生み出すニューロトリオンに大きな差をつける。さらに人間はその内部世界(モデル)の中に主体としての自分を作り出す」

「自分の中に世界を描く。そしてそれを自分で探索する……」

「【ルールブック】は脳内に【ニュ()ーロト()リオン()を使い()こなす()意識()】を作り出すことで機能する。これは何かに似ているよね」


 似ている。確かにそれはあるゲームそのものだ……。


「…………もしかして君がオンラインセッションに集めたプレイヤーって」

「正解だ。五人とも君のような資質ステータスを持った人間プレイヤーだ。言い方を変えよう。君は【ニューロトリオン・コア】には適合しない、だけど僕の【ルールブック】にとっては最高の適合者だ。そしてそれは今の状況が証明している」


 心臓がドクンと脈打つのが聞こえた気がした。


 自分に特別な能力があるなんて自覚は欠片もない。架空の世界でどれだけうまく立ち回れても現実を変える力にはならない。その程度の分別はある。いや、その分別に従って生きてきた。


 だからこそロールプレイに嵌った。現実とは違う“世界”とその中での“自分”を作り出し、自分の意志と決断で未来シナリオを生み出す。その時脳がフル回転する感覚を持っていた。もちろん、それがごっこ遊びと揶揄されることは承知の上だ。


 だけどもし、そんな現実シナリオがあったら……。


「シンジケートのディープフォトン技術は進歩し続けている。彼らの目的も究極的には脳のニューロトリオンだ。君の資質にシンジケートが目を付けるまで八年、いや三年ないというのがボクの予測だ」

「………………仮に、目を付けられたら、どうなる?」

「シンジケートは君にニューロトリオン・コアを埋め込んでモデルにする。経済的には恵まれると思うよ。モデルの平均収入は見習(ランク1)でも二千万を超える。上限は天井知らず」

「…………全く惹かれないな。モデルといっても、実際は“モルモット”じゃないのか」


 三年後といえば、丁度大学卒業だ。そんな就職先ブラックは御免だ。


「おおむね正しい。高エネルギーのニューロトリオンは人間の脳の高次元活動が生み出す。これは本質的には人体実験しかできないことを意味する。シンジケートがモデルを使う理由の一つは、モデル同士の戦闘が最高のデータを生み出すからだ」

「やっぱりか。“俺”の予想通り…………じゃない!!」


 危なっ。今TRPGロールプレイを始めてなかったか。冷静に考えたら状況は最悪を更新中だぞ。今の話が本当なら世界レベルの異能技術の覇権争い。そんなものに巻き込まれたら命がいくらあっても足りない。大体『人体実験』とか『戦闘』とか明らかに危険が増しているじゃないか。


 『説得』いや『言いくるめ』られたら大変なことになるに決まっている。


 …………だけど、もしこの話が全部本当なら、どちらにしても僕は巻き込まれる。世界を支配する組織にいつの間にかターゲットにされて、ある日秘密組織のモルモット兼見習兵士になるなんて悪夢以外の何者でもない。


 それを考えたらこのRMルール・マスターに乗った方がまだ……。


 いやいや。そもそも、今の話どこまで本当なんだ?


 僕の正気が0になってないなら明らかに異能ニューロトリオン的なものはある。でも、シンジケートやモデルなんてものが本当に居る証拠はない。RMルルがすべてを明かしている保証なんてない。都合が悪いことは隠していると考える方が自然だ。


 大体、この【ルールブック】の力は実際どの程度なんだ。駄目だ、決断するには情報が足りなさすぎる。


「改めてお願いしたい。RoDのルールブックのテストプレイを引き受けてほしい。もちろん今回はテスト、安全なシナリオを用意している」

「安全なシナリオ……?」


 揺れる心の天秤に、甘い言葉が注ぎ込まれる。


「純粋に偵察ミッション。あるイベントでシンジケートが狙う技術が発表されることが分かっているんだ。君には狙われる技術と送り込まれたモデルを現地で探し出してもらう」

「探すだけでいいのか?」

「今回はルールブックとキャラクターシートの試運転テストだからね」

「戦闘はないってこと」

「君が見つかるような真似をしなければ。DPCと違って脳内のキャラクターシートは検知が難しい。シンジケートにとってルールブックもキャラクターも未知の存在だ」

「…………」


 ニューロトリオンやルールブックはある意味直接体験したことだ。一方、シンジケート絡みの情報はすべて彼女からの伝聞にすぎない。これから僕がどうするのか決めるには、両方の情報が必要だ。


 ならばこの『シナリオ』でシンジケートの一端でも観察する。このあり得ない現実(TRPG)を理解するための最も確実な手段ではある。


 ごくりという音がした。無意識につばを飲み込んだようだ。感覚が戻っていることに気が付いた。耳にはエアコンの振動が流れ込み、鼻は微かな残滓となったコーヒーの香りを捕える。腕置きを掴んだままだった右手が目に伸びそうになるのを抑える。


 少なくとも彼女の言った通り僕の感覚は元に戻った。ならば……。


「最後に二つ質問したい」


 確かめなくてはいけないことがある。彼女がRMとして信頼できるかどうか。


「一つ目、シナリオ内での僕の行動は、キャラクターとしての僕が決める。異存は?」

「ない。RoDのキャラクターは自身の意志で動く。そうでなければ君の資質は発揮されない。つまり、ルールブックのテストにならない」

「その結果僕が裏切ったらどうする? モデルとやらを通じて君の情報をシンジケートに売ったら?」

「そうだね。それに対してはこう答えよう。ゲームではダイスを振らなければいけない時がある。違うかな」


 彼女の声から僕の脳が思い描いたイメージは、一緒に最高のセッションを作り上げたGMの物と一緒だった。


「一セッションだけ参加する。キャラクター作成とシナリオの説明を頼む。ルル」

「了解」

2022年1月23日:

次の投稿は明日です。

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