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【旧版】深層世界のルールブック ~現実でTRPGは無理げーでは?  作者: のらふくろう
セッション2 『三毛猫を探せ』

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幕間 天空の芝居

「これで君のプロジェクトは連続失敗デフォルトということになる。この責任をどうとるつもりかね」

「Xomeを失ったことは取るに足らんが、警察に加えて国防隊まで関与させた政治的コスト。それに軍団からの賠償請求だ。これに関しても、君が軍団と交わした契約が我々にとって著しく不利な形であるためだ」

「挙句にプロジェクト自体からも撤退か。君のマネージメント能力に疑義を持たざるを得ないな」


 満天の星々に囲まれた天空の会議室。行われているのは神々による人間の断罪のような場面だった。U字型の席に着座する財団幹部の視線を受け中央に立っているのは今回の責任者である葛城早馬だ。


 月替わりで新しく就任した議長は嘲笑、財務担当幹部は軽蔑、そして彼の派閥の長である先月の議長は失望。自分より遥かに高位の者たちからのつるし上げ。身の置き所もない状況で、早馬はその表情を微塵も変えない、それは明らかに不遜に見える。


「弁明はないということでいいのだな」

「もちろんです。なぜなら私は失敗などしておりませんので」


 若輩の態度に現議長が確認という名の判決を口にしようとした時だった、黙っていた早馬は平然と言った。彼の派のトップである先議長ですら、眉根を寄せた。


「この期に及んで言い訳とは、これは降格どころかメンバーから除外するほかないかな」


 不老長寿という人類史上最長にして最大の目的と秘密を共有するメンバーからの追放、それは実質的に完全無欠の破滅を意味する。


「もちろん、きちんと説明させていただきます。これをご覧ください。本作戦の該当時間、つまりXomeにおいて正体不明の敵対者と財団われわれと軍団のモデルが戦闘を行っていた時間における教団の動きです」


 早馬が東京を中心とした三次元の地図を開いた。教団を現す紫の点が日本列島にはいくつも存在していた。本来ならある範囲内の存在確率にすぎないはずの教団の活動が、その時間帯だけ明確に示されている。


「本プロジェクトが軍団との共同作戦であることを活用し、双方の探索情報を合成したものです。御覧の通り、今回の件に教団のモデルが動いた形跡は皆無です」


 早馬はいくつものスライドをかわるがわる表示した後、新旧の議長に言った。釈明どころか、プレゼンである。だが、ここにいる者たちは内容の意味が分からないほど愚かではない。


「今回の妨害者は教団でも、軍団でもない。もちろん我々財団でもない、そういいたいのか」

「つまり、我ら以外にディープフォトンを使う組織が存在する」

「はい。しかも、その組織は我らシンジケートと異なるタイプのディープフォトン技術を持ち、少なくとも瞬間的な出力は我々のモルモットのDPCを上回っている可能性が高い。これが、今回の私のプロジェクトの『成果』です」


 両手を上げる芝居がかった仕草。裁判所に引き出された被告から、舞台にあがる主役俳優に転じた様だ。早馬の言葉に重役会議ボードメンバーがざわついた。未知の技術を持つ競合者コンペティターの存在、それは間違いなくビジネスにおける極めて重要な要件だ。数知れぬ巨大な名門企業が滅びた要因であるのだ。


「それで、どうするつもりかね」

「この件についてはいまだ不確定要素が大きすぎます。今はまず情報取集のフェーズであると考えます。私に対応をお任せいただきたい。必ずや皆様の判断に資する資料インテリジェンスを仕上げて見せます」


 混乱が収まったタイミングで、沈黙したままの新議長に代わり、旧議長が言った。早馬は恭しく老人ボスに頭を下げた。


 …………


 彼の周囲を取り囲む老いた神々が一瞬で消え、早馬は己がオフィスにいた。


 多国籍製薬企業上杉《Uesugi》の最上階一つ下。清潔な白い壁と上品な机だけの一室は、高級にしてミニマリストのような空間だった。

 彼の視線の先にいくつもの半透明のモニターが開く。シンプルに見える部屋の中は、実際には膨大な情報が存在するのだ。


 その中には当然彼しか知らない物がある。

 彼の指の操作により、空中に三枚の写真が並んだ。『黒崎亨』『高峰沙耶香』そしてシルエットだけのアンノーンだ。優男の顔が酷薄そうに歪んだ。


 そう、これは財団の幹部会にも報告していない彼の独占情報だった。今回の情報は財団と軍団の二体のモデルにより観察されている。すなわち仲介役である早馬は双方の情報を突き合わせて把握することが出来る立場だった。


 Xomeで二体のモルモットが倒された後、彼がプロジェクトを凍結したのは己の独占できる情報が最大化するタイミングだった。ディープフォトン研究においてブレークスルーに繋がる未知の技術と判断し、己自身の利益を追求したのだ。


 つまり、この三人は彼の野心を達成するための大事な道具である。


「この三人の中で一切表に出ないこいつが最重要人物だ。おそらくこの集団の主人マスターだろう。となると、こいつの情報を手繰るためには……」


 顎に手を当てたポーズで広い部屋を横切りながら思考する。窓に着いた彼はふと目の前の光景を見た。タワーを抱える東京湾、そこを行き来する多くの船の光。窓ガラスに映像スクリーンが開く。スクリーンには今まさに太平洋を越えて東京湾に近づく客船が映った。


「そうだな、招待状を用意しよう」


 大都市を見下ろす己が姿をガラスに見ながら、早馬は満足げに頬を釣り上げた。

2022年6月2日:

『深層世界のルールブック』セッション2完結です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


ブックマークや評価、そして感想本当に感謝です。

誤字脱字のご指摘は本当に助かっています。



本日ニコニコ動画に本作のボイス・ショート・ストーリー『デート・スコア』を投稿しました。セッション2のデート後に沙耶香とルルが初めてリンクで会話するシーンを、音声読み上げソフト(Voicepeak)を使って作ってみました。


日曜日にテキストとしても投稿する予定ですが、音声読み上げ用の台本として書いたのでよろしければ動画でご覧ください。


https://www.nicovideo.jp/watch/sm40549772



今後についてですが、申し訳ありませんが未定とさせてください。

これまで書いたものを一度見直してからどうするか決めたいと思っています。

何か決まりましたら後書などでお知らせしたいと思います。

改めてここまで読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全体を通して、実に面白いです。 展開はフィクションやTRPGにおけるお約束な材料の筈なのに、滅茶苦茶調理が旨い料理を食べてる気分です。 技術系の設定も凄い・・・なんかよくわかってないけどス…
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