097 交渉
リーデルの街を出て少ししたところで、くそ親父が声を掛けてきた。
「さて、早速だが依頼の話でもするとしますか。」
「それよりも、さっきの言葉遣いはどうしたんだよ!」
「そりゃ俺だって時と場合で使い分けるさ。坊主はもうバレてるから隠す必要は無いだろ?」
「あの言葉使いを聞くと鳥肌が立つから、こっちとしても助かるけどな。
で、俺に受けて貰いたい依頼ってのは何だ? だいたい予想はしてるけどな。」
「そりゃあ、例のルビーを作ってもらいたいってのが依頼だ。」
「断る。」
「まぁ、そう言うなって。今回はキチンと報酬を出すからよ。やってくれよ、このと~りだ!」
くそ親父が両手を合わせて可愛くお願いしてきた。キモイんですけど……
「参考に聞きたいんだが、前回のピンクサファイヤは幾らで売れたんだ?」
「そりゃぁ~べらぼうに高く売れたぜ。正に坊主様様だ。」
「まぁ、見てくれがそれだけ変われば、高く売れたのは分かってたよ!
その報酬がナイフ1本だった俺の気持ちを返せ!」
「そりゃ前にも言ったが勉強代だってことだ。しっかりと確認しなかった坊主が悪い。」
「くそっ!」
そう言われると文句の言いようがない。なら次は沢山ふんだくってやる!
「ちなみに依頼料は幾らだ?」
「そうだなぁ~、1粒で銅貨1枚でどうだ?」
「却下だ。」
「足元を見やがって、なら銅貨2枚ならどうだ?」
確か前回は9個のルビーを変えたんだったっけな。たったそれだけの数にも係わらず、これだけ様子が変わった程の売り上げが出たってことは、かなりの金額で売れたハズだ。と言うか、足元を見てるのはあんただよ!!
「割に合わないな。そもそもいくらで売れたかが分からないと交渉のしようも無い。」
「くっ……いらん知識を与えちまったか? な、なら銀貨1枚でどうだ!」
いきなり値段を上げてきたな。だが、その値段でも十分な元が取れると言うことか。
と言うか、売った値段を意地でも言わない時点で、かなりの金額で売れたんだろう。銀貨1枚でもたいした痛手にならない可能性が高そうだ。
「ちなみに何個有るんだ?」
「全部で100個だな。」
「そりゃ随分と集めてきたもんだ。ふむ……」
俺が考え込むと、くそ親父は脂汗を流しながら焦っていた。
正直この程度のやりとりだけなのに、こんな状態になるってことは、この人は商人には向いてないんじゃないだろうか。
まあいいや、どうせ今回の依頼はアランさんが言わなければ受けるつもりは無かった話だし、思いっきり吹っ掛けてやろう。
「ルビー3個に対して1個のルビーを貰う。これでなら受けてやろう。」
「なっ! それだと大損じゃねーか!!」
「本当にそうか? 元々はたいした価値の無いルビーだったんだろ?
100個と言っても全部で銀貨1~2枚で買える値段だ。たとえ数が4分の3になろうが十分に元は取れているハズだ。」
「うむむっ!」
くそ親父は腕を組んで必死に頭の中で計算している。しばらく考えていたみたいだが、どうやら答えが出たみたいだ。
「仕方がない、それで手を売ってやる! くそっ、余計な知識なんて教えるんじゃなかったぜ!!」
「交渉成立だな。それでルビーは何処に有るんだ?」
おれが質問すると、業者席の椅子の部分に金庫みたいな扉があり、そこから箱を取り出してきた。
「こいつがそうだ。」
中身を確認すると、確かに赤黒い石が沢山入っていた。
-----------------------------------------
【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが7%含まれているため黒っぽくなっている。
-----------------------------------------
うん、間違い無くルビーの原石だな。
とりあえず全部取り出して数を数えてみることにした。
「…97,98,99,100っと。確かに100個だな。
じゃあこの中から25個を頂くぞ。」
俺は数える時に大きさ順に並べておいたため、大きい物から順番に25個頂くことにした。
「お、おい! そりゃないぜ!」
「はぁ? 俺は約束通りにルビー3個に対して1個のルビーを貰うと言ったはずだが? 確認しなかったアンタが悪い」
「くっそおおおおぉぉぉぉ~~~!!」
ふふん、やり返してやったぜ! スッキリした。
殆どのルビーは1~2カラットの大きさだが、一番大きいのは5カラットくらいは有りそうだ。ふへへっ♪
じゃあ俺の分は後回しにして、ちゃっちゃとやっちゃいますか!
・・・・
「終わったぞ。」
「……あぁ、そうだな。」
すっかりと落ち込んでいるが、それが前回の俺の気持ちだ。
力ずくでの解決は、昨日の戦闘の様子からも無理だってのを理解したのだろう。それにアランさん達も居るしな。
こうして俺は、前回の恨みを晴らすと同時に、臨時収入を得たのだった。やったね♪




