073 特訓
さてどうしようかな。
冒険者ギルドに戻って依頼を受けても良いし、街の外に出て常時依頼をこなすのも悪くない。
「……そうだな、冒険者ギルドへ行ってみるとするか。」
元々草むしりの依頼を受けようと思ってたことだし、たまには人の役に立つのも良いだろう。
俺は冒険者ギルドへと向かうことにした。
冒険者ギルドは時間が時間だったのでそれなりに空いていた。
俺は掲示板の方へ向かうと、ある人物を見つけた。あれは……
「アランさん!」
俺が呼びかけると、向こうも気が付き、こちらに向かって手を上げてくれた。
「シュウじゃないか。久しぶりだな。」
「アランさんも、お元気そうで。」
「そう言えばそろそろシュウもランクが上がる頃じゃないか? ランクアップ試験で必要になるし、良かったら剣でも教えてやろうか?」
「あー」
「どうした?」
「いえ、あの、実は、すでにランクは上がってまして。」
「そうか、そう言えばシュウは魔法が使えてたな。それでか。」
「え、ええ、まぁ。で、でも、個人的にアランさんに剣を教えてもらいたいです!」
「シュウが良いなら俺は構わんぞ。」
「ありがとうございます!」
「じゃあ修練場でも行くか。」
「はい!」
俺とアランさんが一緒に修練場へ向かおうとしたら、突然後ろから抱き着かれてしまった。
「シュウ~君♪」
「うわっ!」
抱き着いてきたのはエレンさんだ。街中では気配察知を使ってないとは言え、此処まで近づかれても気が付かないのは流石である。
「え、エレンさん!?」
「久しぶり~元気してた?」
「元気ですから、離れて下さい!」
「えぇ~!」
そんな露骨にふてくされた顔をしないでくれ。ほらアランさんの目が座って来てるんだってばよ! 今から特訓するのにボコボコにされちゃうから!
俺は、必死の思いで何とかエレンさんを剥がすことに成功した。
「ぶぅ~! シュウ君のいけず~!」
「はいはい。」
「ところで2人は何処に行くの?」
「修練場です。」
「修練場? 何しに行くの?」
「シュウに剣を教えてやるんだよ。」
「あぁ! なる程ね! じゃあ私も行こうっと♪」
「まぁ、構わないが……」
どうやらエレンさんも一緒に来るみたいだ。
修練場に到着したが、相変わらず利用する人が居ないみたいでガラガラだ。
「さて、早速やるとするか。ところでシュウは武器をどうしてるんだ? 何だったら俺の予備を貸そうか?」
「あっ!」
今からアイテムボックスから石を取り出すのも不自然か? いや、ポケットから取り出すなら行けるか?
俺はポケットから不自然な大きさの石を取り出したら、それを見たアランさんが驚いていた。
うん、ちょっと無理が有ったかもしれない……が、今更か。
「武器制作!」
俺は2本の刺身包丁モドキを作ると構えた。
「それは魔法か?」
「はい、土魔法です。」
アークシェイクが使えるってことで、そう言うことにしておいてください。土魔法なんて持って無いけどな。
「へぇ、土魔法ってそう言うことも出来るのか。でも、何で石で作ったんだ?」
「えっと、武器屋の親父がお店に入れてくれなくて……その……」
「そういうことか。あの店主なら有り得る話か。」
「どう言うことなんですか?」
「つまりだな、ガキはガキらしく遊んでろってことだな。」
「はぁ。」
確かに俺はまだガキと呼ばれても仕方ない見た目だしな。
でも、世の中には冒険者にならないと生きていけない子供も居ると思うんだが、そういう子供はどうするんだろうな。
ふと、監視依頼の時の子供達を思い出した。やっぱりそうなっちゃうよな……
「そろそろ良いか?」
「あ、はい。お願いします!」
アランさんが剣を抜いて構えたので、俺も武器を構える。
アランがこちらに向かってスッと動いたので、牽制で左の剣による切り上げをする。
右に移動したので、右手の武器による振り下ろしをするが、さらに右に移動することで避けられてしまった。
そして気が付いた時には、俺の首元に剣先が止まっていた。
「えっ? いつの間に!? 流石です!」
「まーな。でもシュウは筋力が足りないな。剣の重さに振り回されてるぞ? ちゃんと肉を食ってるのか?」
「えぇ、まぁ、それなりには……あっ!」
「何だ?」
「忘れてました。ちょっと待っててください。」
またガントレットを付けたままだったよ。通常の生活をする程度なら、この重さでも問題無くなったとは言え、さすがに戦闘を行うにはちょっと無理だ。
俺はガントレットを外し、もう一度アランさんのところへ向かった。
「もう良いのか?」
「はい。」
「じゃあ今度はシュウが来るんだ。」
「はい! 行きます!!」
俺は体を前に倒した勢いで地面を蹴って走り出した。
「!?」
一瞬アランさんの目が見開かれたが、俺の動きに合わせて武器をこちらへと向けた。
ガガン!
俺の時間差による攻撃は見事防がれてしまった。試験官は思いっきり食らったのにな。流石はアランさんだ。
俺は再度ステップでアランの左側へと移動し……
「えっ?」
気が付かない内に、目の前に剣が付きつけられていた。
「さっきの攻撃にはちょっと驚いたが、どうやらシュウは攻撃力と素早さについては鍛えたみたいだが、それに目と体が着いて行ってない感じだな。」
「えっと、どういったこと?」
「簡単に言うと、動きが直線すぎて、それ以外が疎かになるって感じだ。後は俺の動きが全然見えてない。」
「・・・・」
確かに気が付いた時には武器を突きつけられていた。どうやって攻撃されたのかも分からないってのは致命的だな。
「どうすれば良いんですか?」
「そうだな。まずは視野を広く持て。相手の目線や体のちょっとした動きから、どの様な攻撃が来るのかを予測しろ。」
「は、はぁ。」
言いたいことは分からなくは無いが、無理じゃね? それとも鍛えれば行けるのか?
「よし、俺が攻撃をするから反撃はせずに避けるんだ。」
「いやいやいやいや、無理でしょ!」
「ゆっくりやるから大丈夫だ。ほら行くぞ!」
そう言うと、アランが武器を振り上げて攻撃してきた。
確かにゆっくり振ってくれているから、これくらいなら避けられそうだ。
「シュウ! 武器にばっかり眼が行ってるぞ! もっと全体を見るんだ!」
「そんなこと言われても!」
全体を見るってどうやるんだよ! 人間どうしても動いている物に眼が行っちゃうんだよ!
それでも何度も切られそうになりながらも試行錯誤を繰り返していく。
長時間避け続けていると、何となくコツを掴んだような気がした。それは見ているのはアランの顔なのだが、意識は手足に集中するって感じだ。
ん? これは左からの切り上げか? 俺は斜め後ろに下がる様に避ける。
「良いぞ! 今の感じだ!」
今の感覚を忘れない様に意識しつつ何度も避けていると、どんどん認知出来る空間が広がってくる感じがした。
……と言うか、エレンさんがこっちを見てニコニコしている様子までも分かってきた。マジか!?
こうして周りの状況が見えてくると、アランさんの次の動きも読めるようになってきた。と言うかこのタイミングでここに打ち込んだら、もしかして1撃入れられるんじゃね?
試してみようかな? いや、今は避けることに集中しなくちゃ駄目だな。
「アラン~、もう良いんじゃない?」
エレンさんの声が聞えて来た。
「そうだな。」
アランさんがそう言うと、大きく息を吐きつつ武器を下ろした。
良く見ると、アランさんは肩で息をしていた。なるほど、ランクが上の冒険者でも、重い武器を振り続けるのってやっぱりそれなりに辛いんだな。
「アラン、最後の方は本気でやってたでしょ。」
「そ、そんなことは無いぞ。」
「ふ~ん。そっかそっか~♪」
エレンさんがニコニコしながらも意地悪そうな顔をしてアランを見ていた。
アランは悔しそうな顔をしていたが、本当に本気でやっていたのだろうか? まさかね?




