056 練習
孤児院へと帰って来たので建物の中へと入ろうかと思ったら、裏庭の方からハーモニカの音が流れてきた。
♪~ ♪~
おそらくレイラが、昨日あげたハーモニカの練習しているのだろう。折角なのでちょっと覗きに行ってみよう。
俺は裏庭へと移動すると、案の定、レイラが一生懸命ハーモニカの練習をしている最中だった。
側にはミーナとカレンも一緒に座って曲を聞いていたみたいだ。相変わらずこの3人は仲が良いな。
曲が終わったタイミングを見て声を掛けることにした。
「よぉ!」
「シュウ君……」
レイラが他の人に聴かれていたことに気が付き、恥ずかしがっている。
「やっぱりレイラちゃんにハーモニカをあげて正解だったよ。さすがだよな。」
俺がそう言うと、レイラは首を振った。
「まだ全然駄目。下手だから恥ずかしい。」
「そうか? 凄く上手だと思うぞ?」
「だよね? 私達もそう言ってるんだけど、レイラったら全然認めないんだもん。」
「うんうん。」
ミーナとカレンも同意していたが、レイラ的には駄目らしい。
ふと気になったことが有ったので聞いてみることにした。
「そーいや、ミーナちゃんとカレンちゃんはハーモニカを吹いてみたのか?」
「吹いてみたけど、私には無理ね。」
「私も駄目だった。」
「レイラちゃんは直ぐ吹けたのにな。」
「それはシュウ君がお手本を見せてくれたからで。」
「アレがお手本になんかなるかよ。どう見ても下手糞だったろうが。」
「そんなこと無い。」
「……まあ役に立ったのならいいけどね。よっと!」
折角なので俺も腰を下ろすことにした。
「どうして座るの?」
「どうしてって、俺もレイラちゃんのハーモニカを聴きたかったからだけど、駄目か?」
「……シュウ君には、もっと上手になってから聴いて欲しい。」
レイラは恥ずかしそうにそう言った。どうやら俺はまだ聞いちゃ駄目らしい。残念だ。
「そっか。仕方なけど、そう言われちゃ退散するしかないな。頑張れよ。」
「うん。」
俺は立ちあがってその場を後にすることにした。
裏庭を出ると、再び遠くからハーモニカの音が流れてきたのだった。
「やっぱり上手じゃん。」
でも、俺の呟いた声はレイラには届かなかったのだった。




