054 ハーモニカ
一通り露店を見て回った後は孤児院へ帰ることにした。
帰り際に例の露店を睨みつけて行こうかと思ったのだが、例の露店は片付けられており誰も居なかった。
ちっ! 逃げやがったか。
孤児院へ帰って来た俺は、裏庭へと移動する。
此処はあまり人が来ない場所なので、結構お気に入りだったりする。
俺は早速貰ってきたハーモニカを取り出して吹いてみることにした。
ファーパァー♪
うん。間違い無くハーモニカだ。だが問題が1つだけ有った。それは俺はハーモニカが吹けないってことだ。
大体ハーモニカを触ったのだって小学校以来だと思う。覚えて無いけどな。
それに、その時のハーモニカは吹くところが1段だったのに、このハーモニカは2段になっている。これってどうやって吹くんだ?
ファーパァー♪
うん。サッパリ分からない。
色々と試行錯誤をしていると、ハーモニカの音を聞きつけたのかレイラがやってきた。
「何してるの?」
「ハーモニカの練習をしている。」
「ふ~ん。」
すると、レイラは腰を下ろして俺の練習するところを見ていた。
「何?」
「見てるだけ。」
「まぁ、良いけどさ。」
俺は再びハーモニカの練習を続けることにした。
ファーパァー♪
音は出るが音楽に全くならない。つーか難しすぎじゃね?
ファーパァー♪
そんな下手糞な演奏を見ていたレイラが声を掛けてきた。
「ねぇ。」
「ん?」
「貸して。」
「貸してってハーモニカをか?」
「そう。」
「まぁ、良いけど。」
俺はハーモニカをレイラへ手渡した。
レイラはハーモニカを色んな角度から観察した後、音を出してみた。
ファーパァー♪
俺と同じ……と言うよりは何となく確認のために鳴らしたが正解っぽいか?
そして何かに納得したのか頷いた。
そしてハーモニカらしい静かな曲が演奏された。
パチパチパチパチ!
演奏が終わった時、俺は思わず拍手をしていた。
「凄い!」
「ありがとう。」
「レイラってハーモニカが吹けたんだな。知ってたのか?」
俺がそう聞くと、レイラは首を振って否定した。
「シュウの吹いてるのを見て覚えた。」
「覚えたって、俺、全然吹けて無かったんだけど?」
「覚えた。」
そう言うと、ジッとこちらを真剣な目で見ていた。
「そ、そうなんだ。」
俺には分からない何かが有ったんだろう。多分天才ってこういう人を指すんだろうと思う。
「これ、ありがとう。」
レイラがそう言うと、ハーモニカを俺に返してきたんだが、正直俺が持って居ても宝の持ち腐れだよな。
「いや、レイラにやるよ。」
「いいの?」
「あぁ。何しろ俺にはキチンと吹くことさえ出来ないからな。上手なレイラが使ってくれた方がハーモニカも喜ぶだろ?」
俺がそう言うと、レイラは俯いて照れていた。耳が真っ赤になっていたから間違い無いと思う。
「ありがとう。大事にする。」
「どーいたしまして。そのうちまた聴かせてくれると嬉しいな。」
「ん。わかった。」
レイラは嬉しそうにハーモニカを胸に抱いたのだった。良かった良かった。
そー言えば何か忘れている様な気が……あっ!
「何も考えないでレイラへ渡しちゃってたけど、今考えるとそれって間接キスになるよな。」
俺が思ったことをそのまま口にすると、レイラはたちまち顔を赤くした。
「馬鹿!」
レイラはそれだけを叫ぶと、走って逃げて行ってしまった。
これは余計なことを言ってしまったかもしれない。手遅れだけどな……




