053 露店
昨日はランクアップ試験を受けて、無事にFランクへと昇級出来たし、今日くらいは久々の休みにしてのんびりと過ごしても良いんじゃないかと思う。
と言う訳で散歩ついでに街へと繰り出すことにした。
「旨そうだなぁ……」
屋台から流れて来る匂いに釣られたが、手持ちが無いため泣く泣く諦めるしかなかった。
そして、ウロウロとうろついていると露店街と呼ばれるところにやってきた。
此処はショバ代さえ払えば自由に売り買いが出来るらしく、掘り出し物からゴミまで集まる場所みたいだ。
「そう言えば、ここに来たのって初めてかも。」
折角なので1つずつ見て行くことにした。
野菜や肉、卵等の食料から、訳の分からない置物やツボ等が有り、見た目も楽しくて中々興味尽きない。
「ん? 何でコレがこんなところに有るんだ!?」
とある露店で、1つ異質な物と言うか、以前見たことが有る物が売っていた。俺は露店の親父に聞いてみることにした。
「ねぇ、これって何?」
「これか? これは商人から商人へと渡って来た物だからな。スマンが俺にもコレが何なのか良く分らないんだ。
どうだ? 此処で会ったのも何かの縁だ。安くするから買ってかないか?」
そう言って露店のおっちゃんが差し出したのは、何とハーモニカだった。しかもY〇M〇H〇のロゴ入りだ。
間違い無く俺の居た世界の楽器だと思う。俺と違って異世界転移で持ち込まれた物なのかな?
「買うも何も、お金なんて持って無いし。」
「だったら物々交換でも構わないぞ?」
「石しか持ってない。」
「うん。帰れ!」
にこやかな笑顔で言われてしまった。当然だな。
ふと、売り物の中に小さな赤黒い石が幾つか入った箱が置いてあった。
「これってルビーの原石?」
「金を持ってないヤツに教える義理は無いな。」
「いいよ、こっちで調べるから。」
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【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが7%含まれているため黒っぽくなっている。
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「やっぱりルビーの原石か。このクロムってのが多いから黒っぽいのかな?」
「鑑定持ちか!」
「まぁね。」
ここのオッサンとは二度と会うことも無さそうだし、知られても構わないだろう。
「それにしても鑑定ってものは、随分と詳しく分るもんなんだな。」
「他の人の鑑定がどんなのか知らないから何とも言えないけどね。
ちなみにこのルビーの原石って幾らなの?」
「こいつはルビーと言っても色も悪いし、小さいからな。せいぜい銅貨1枚ってところだな。」
「なるほど。」
先ほどの鑑定で分かったことだが、クロムの含有量によって価値が変わるのなら、錬金術で変えられるのでは無かろうか。
試してみたいがお金が無いんだよなぁ……
「例えばだけど、このルビーの価値が上がるとしたらどうする?」
「もちろん上げるに決まってるだろ? そんな当たり前の事聞くな!」
「じゃあさ、実際にやって見ないと分からないけど、ちょっと試させて貰っても良いか?
もし成功したら技術料として、さっきの物を貰うって感じで。」
「失敗したら?」
「銅貨1枚分の仕事をお手伝いするってのは?」
「ふむ……」
露店のおっちゃんは腕を組んで考え込んでいる。
「まぁ、よっぽどじゃ無ければ売れない商品だしな。よし! 商談成立だ!」
「よっしゃぁ!」
「で、どうするんだ?」
「まぁ、見ててよ。」
俺はルビーの原石を一つ手に取って錬金術を発動させた。
クロムの含有量がどのくらいが良いのかが分からないので、とりあえず1%だけ抽出させてみた。
気持ち黒色が減って赤みが増えた様な気がする。
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【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが6%含まれているため、やや赤みの有る黒になっている。
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鑑定でもキチンと1%減っているが、宝石としてはまだまだだ。さらに1%分抽出してみる。
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【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが5%含まれている。かなり濃い赤色で、ギリギリ宝石として利用できる。
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「おぉ、宝石になった。」
「どれ!」
おっちゃんが俺の手からルビーの原石を奪い取り、光にかざして調べていた。
「確かにギリギリ宝石として使えるレベルにはなったな。銅貨5枚くらいってところか?」
「まだ終わって無いんだから返してよ。」
「おぉ、悪い。」
戻ってきたルビーの原石からさらに1%抽出してみると、少し明るい赤になった。
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【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが4%含まれている。少し濃い赤色で、宝石として利用できる。
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一般的にはこの位でも十分なのかもしれないが、ルビーとしての透明度は低いな。さらに1%抽出してみる。
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【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが3%含まれている。濃い赤色で透明度が有り、宝石として利用できる。
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結構良い感じじゃね? 記憶の中にあるルビーに近い気がする。さらに1%抽出してみた。
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【ルビーの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが2%含まれている。赤色で透明度が有り、宝石として利用できる。
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うん、これなら記憶の中にある高級ルビーと同じだ。でも、これ以上抽出するとどうなるんだ? 物は試しでやってみる。
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【ピンクサファイアの原石】
酸化アルミニウムの結晶。クロムが1%含まれている。ピンク色でかなりの透明度が有り、宝石として利用できる。
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「あれ? ルビーじゃなくなった!?」
「何! てめぇ! 宝石を駄目にしやがったな!! キッチリ働いてもらおうか!」
「い、いや、宝石には違いないよ。ほら。」
俺はピンクサファイアをおっちゃんへと手渡した。
「ほぉ? これは見たことが無い宝石だな。これなら高く売れるか?」
「一応普通のルビーに戻すことも出来るけどどうする?」
「……いや、このままで良い。」
「じゃあ、技術料としてさっきの貰って良いよね?」
「そうだな。でもどうせなら全部やってくれないか?」
「報酬は?」
「ちっ! 足元を見やがって……店の中から好きな物を持ってけ!」
「まいど!」
そうと決まればちゃっちゃとやっちゃいますか!
俺は全てのルビーをピンクサファイアへと変えてあげたのだった。
「終わりっと!」
「よし! それで何が欲しいんだ?」
「そうだなぁ~」
正直言うと、ハーモニカ以外に欲しい物が見つからない。
こんなツボとか貰ってもなぁ……
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【ツボ】
粘土を固めて焼いたツボ。水を貯めておける。
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鑑定結果からも普通のツボみたいだし、たいした価値は無さそうだ。
仕方がない。何時か冒険に出た時に使える物を貰っておくことにするか。
「じゃあ、この背負い袋と、この皿3枚、フォークとスプーン、カンテラ、後このナイフかな。」
「ちょっと待て! 何でそんなに選んだんだ!」
「えっ? 宝石1個に対して1つだろ?」
「そんな約束はしてない。全部で1つだ。確認しなかった坊主が悪い。」
「はぁ? そんな無茶苦茶な!」
「良かったじゃ無いか。いい勉強になったろ?」
「くっ……もう良いよそれで!! じゃあナイフをくれ!」
「まいど~♪ また来てくれよな。」
「二度と来るもんか!!」
俺は、ハーモニカとナイフを受け取るとさっさと露店を後にするのだった。くそっ!




